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31 ルイカーの活躍

★感想、誤字脱字報告、ありがとうございます。


 まだ春ですが、一足早く夏を満喫しております、サラナ・キンジェです、ご機嫌よう。って、きゃーっ!


「お祖父様!速いです!速いです!速度を緩めてぇぇ!」


「はははははっ!良いぞ、シュート!もっと飛ばせ!」


 お祖父様にしがみつき、悲鳴を上げる私。

 スピードに興奮して、眼が逝っちゃってるお祖父様。

 割とスピードに強いシュート君は、私を気遣いながら、お祖父様の言う通り、どんどん速度を上げていく。


「酷いですわ、お祖父様!生きた心地がしませんでした!」


 ようやく地上に戻ってきた私は、足がガクガクして立つ事すらままならなかった。そんな私を軽々と抱え、お祖父様は楽しそうに大笑いしている。


「許せ、サラナ。思った以上に、楽しかったわ」


「私の思い描いていた、優雅な海の散策とは全く違いました!」


 遊覧気分の筈が、まさかのスピードボード。急カーブやVターンの連続で、心臓がバックバクだったわよ。


「お帰りなさいませ。大変でしたねぇ」


 ドレリック様が、私達を労いと共に迎えてくれた。エレナ様が慌てて、私をゆったりとした椅子に座らせてくれる。


「サラナ様。どうぞ、これをお飲みになって」


 スレリア様が、温かなハーブティを出してくれる。ふぁぁ。恐怖に縮こまった体に、染みわたる温かさ。


「しかし、素晴らしいですわ。これなら、私達でも海を楽しめますわね、サラナ様」


 スレリア様がワクワクした顔で、海辺を見ている。ええそうですわね。お祖父様が一緒でなければ、楽しめるかもしれませんわ。


 今、私が試乗したのはルイカーが引く、遊覧船だ。ルイカーを数頭、専用の手綱を付けて、小型の船に繋いでいる。群れで行動するルイカーは、手綱を握るシュート君の言う事をよく聞いて、犬ぞりの様に船を引っ張ってくれた。

 最初の内は良かったのだ。海辺をぐるりと優雅に一周。船の床を一部、魔法で強度を上げたガラス張りにしたおかげで、透明度の高い海を堪能出来た。瑠璃色の海の中、ゆったりと泳ぐ、美しい魚達。絶景よ、絶景!幻想的な海の底の世界を、うっとり楽しんでいたというのに。


 おかしくなったのは途中から。お祖父様がどれぐらいの速さが出るのかと興味を持ったお陰で、どんどんスピードを出し始めて。あんなに揺れる船の中で、私を軽々と抱き上げたまま、どこにも掴まらずに平然と立っているお祖父様の体幹は、一体どうなっているのかしら。


「とりあえず、耐久テストは大丈夫そうですわ。ぜひ、エレナ様とスレリア様もお試しになってみてくださいませ。……お祖父様!しばらく試乗は禁止です!」


 私の言葉に、顔を見合わせたエレナ様とスレリア様がイソイソと立ち上がる。

 再び同乗しようとしていたお祖父様を、厳しめの声で止めました。エレナ様とスレリア様を、昏倒させる気ですか。

  

「むぅ。楽しかったのだが。ダメか、サラナ」


 きゅーんきゅーんと子犬顔のお祖父様。ぐっ。この顔に弱いと知っていて、やっていますね、お祖父様。


「み、皆様が試乗した後で、シュート君やルイカーたちが疲れていなければ、……よろしいですわ」


「分かった!」


 お祖父様の眼が輝く。ごめんね、シュート君とルイカーたち。結局、私はお祖父様に弱いのだ。


「お嬢。大変だったな。だが、耐久テストにも耐えたと思えば……」


 ボリスさんが苦笑いをする。


「そうだな。あのスピードにも安定性を失う事はなかった。良かった」


 ダッドさんまで、そんな事を言って、お祖父様をフォローしている。せめて私の乗っていないときにやって欲しいわ、そういうテストは。


「しかし。相変わらずお嬢の考える事は面白い。まさかルイカーに船を曳かせるとは」


 ボリスさんに笑われる。だって、海の冒険を諦めたくなかったのだもの。直乗りが無理なら、船を曳いてもらえないかと思ったのよ。船なら淑女が乗っても問題ないわよねと思って。


「ルイカーは魔物だからな。魔物の本能で、強い者には従う。手綱は、威圧を使える者なら、問題なく操れるであろうよ」


 お祖父様がニヤリと笑って仰る。確かに、途中でシュート君と運転を代わっていたお祖父様も、難なくルイカーを操っていたわね。なんとなく、ルイカーが緊張していた様に見えたけど。懐いているシュート君以外でもルイカーを御せるのは、朗報だわ。


「では何人か、威圧の使える者を雇った方がいいでしょう。手配はお任せください」


 アルト様がにっこり笑って書類を整えていく。まあ不思議。視察旅行とは名ばかりのバカンスだったはずなのに、見慣れた仕事風景だわ。おかしいわね。


 時は遡って半月程前。私はダッドさんとボリスさんにお手紙を書いた。私の考えた事を形にするときは、いつもこの二人に相談しているんだもの。でも船なんてあまりに専門外だろうから、知り合いに船職人はいないか聞いてみたのよね。


 そうしたら、翌日には馬に乗ったダッドさんとボリスさん、そしてアルト会長がシャンジャにいらっしゃった。あれ。職人さんを紹介して欲しかったんだけど。どうして皆様がいらっしゃったのかしら。


「お嬢がまた何かやらかしそうだからな。駆け付けねぇ理由がねぇだろ」


 ダッドさんにそう笑われ。


「気晴らしのご旅行と伺っていましたが、やはり、ダッドさんとボリスさんに、お嬢さまから連絡が来たら、すぐに知らせて頂けるようにお願いしていて良かった。さぁ、次は何を思いついたんですか?」


 ニコニコ顔のアルト会長に圧を掛けられ。最近、逞しくなりましたね、アルト会長。


「セルト様の命令で、ルエンも追っ付けこっちに来るぜ?」

 

 ボリスさんにそんな事を言われて。


 すっかりいつもの体制で、楽しい船の開発が始まったのだけど。やっぱり船は専門家がいた方がいいわねという事で、シャンジャの船職人で、シュート君のお父様のロダスさんも加わってもらった。


 ロダスさんは数年前から肺の病気のせいで職人を辞めていたのだけど、船については誰よりも詳しいとシュート君が自慢していたので、プロジェクトにお誘いしたのだけど。

 

 よく効くお薬を飲んであっという間に完治したロダスさんに、私の構想を話すと、初めはぽかんとしていたけど、すぐに夢中になって試作品を作ってくれた。さすが国一番の船職人と言われるだけの事はあるわぁ。私の書いた落書きを、本格的な設計図に書き直し、ロダスさんの工房にいた元弟子さん達を呼び戻し(もちろん、彼らも雇ったわよ)、プロジェクトチームが出来上がった。

 

 私の自称右腕と左腕のダッドさんとボリスさんがオブザーバー。遅れて来たのに何故か自然とプロジェクトチームを仕切り出すルエンさん。荒ぶる職人を柔和な笑顔で掌握していくアルト会長。そんなプロフェッショナルが揃った、専門用語が飛び交う会議での私の役目は、ニコニコ笑って頷くだけ。

 もう慣れたわ、このアウェイ感。アウェイを感じさせず、チームの一員みたいな顔も出来るぐらい慣れたわ。プロジェクトの総責任者(お飾り)なのに良いのかしら。良いみたいだわ。ほほほ。


 そんな凄い人達が揃っていたので、ルイカー船はあっという間に出来上がった。船底の一部を強化ガラスにする発想に、ものすごく感心されたけど、前世ではよくある加工だったからなぁ。船底のガラス加工については、ルエンさんの手でもちろん利益登録された。隙が無いわ。


「いやー。しかし素晴らしい。これでシャンジャの観光名物が増えますなぁ」


 ドレリック様がほくほく顔で仰るけど。あらまぁ。それだけではありませんわよ。


「ドレリック。何を言っている。お前、これから忙しくなるぞ」


 お祖父様が呆れ顔で仰る。ドレリック様はきょとんとしている。


「まずは港の組合だ。そこの説得。まぁ、それほど反発はあるまい。シャンジャ全体が潤うのは明白だからな。操縦士は、他の者が育つまでシュートを教育係にするがよい。他に搔っ攫われんように、護衛を付けた方がいい。なんならシュート一家を代官邸で引き受けよ。後は船の増産だ。どれぐらい必要か、試算せねば」


「そうですわね。ドヤールの他の港に広がる事を考えて、シャンジャをモデルケースにしたいですわ。ルイカーの保護も考えませんと。乱獲になりますわ」


「グェーや、モーヤーンの時のようにか。ふむ。ルエンにたたき台を作らせるのだな?」


「ルエンさんは優秀ですから。もう出来ていましたわ。シュート君にルイカーの生態について詳しく聞いて。ふふふ。早いですわよね」


「そうか。全く。平民だというだけで、ルエンを首にした王宮はつくづく、見る目がないのぅ。そうだ、サラナ。あの船は遊覧には向くが、荷運びにはちと、小さすぎはしないか?」


「荷運び用の船も、試作は出来ておりますわ」


「ふうむ。この短期間でよく出来たな」


「元々あった荷運び用の船を改造しただけですから。今までの人力の物より、少し大きめでもルイカーなら軽々運べるらしいですわ」


「ま、待ってください。バッシュ様、サラナ様。一体、何のお話を……。ま、まさか」


 慌てるドレリック様に、お祖父様は、当たり前のように仰った。


「だから、大型船問題への解決策の話であろうが。何をボーッとしとるんだ。忙しくなると、言っておるだろうが」


◇◇◇


 まあ、最初は完全に遊びが目的だったのだけど。

 ダッドさん、ボリスさん、ロダスさんと船を作っているうちにですね。あら、これ、大型船への荷運びにも応用出来るんじゃないかと思ったのよ。

 ルイカーはどこの海にもいるし。遊び好きで人に慣れていて、強者に従うという魔物としての本能もあるから、威圧で操る事も出来る。力持ち。エサは海辺の貝や小魚。つまり漁で取れる売り物にならない小魚や貝で賄える。群れで行動する事を好み、協力して荷を引っ張るのも遊びとして楽しめる。

 あらー。この子たち、優秀な働き手になるんじゃないかしらー、ってね。


 シュート君に相談したら、ぽかんとしていたけど。ルイカーを働かせるなんて、考えた事もなかったみたい。でもルイカーは本当に人が好きで、何時間でも構ってもらおうとするので、褒美に餌を上げたら、出来るかもと。


 で。試作の船が出来て、いざ働かせてみると。まぁ、優秀。凄いのよ、この子たち。俺、もっと出来るぜ!見て見て、俺、もっと出来るぜ!もっと重い物もいけるぜ!と、終始イケイケなのよ。褒めてご褒美を上げると、張り切っちゃうのね。手綱も嫌がらないし。餌が貰えると分かってからは、手綱を付けろと催促してくる始末。魔物の矜持とかは、ないのね。そうなのね。


 そんなノリノリのルイカー船は、荷運びに大活躍だった。まず速い。人の漕ぐ船の、軽く倍は速い。不本意ながら、身を以てその速さを体感したわよ。そして、一回に運べる荷の量が多い。力持ちだからね。

 船の改造費は必要になるが、それ以上に人的コストが抑えられ、運べる量も増えるから、収益は倍以上。うん、収支を考えても、改造費を掛けた方が利益が大きい。この段階で、お父様に報告。私の個人資産でテスト改造しようと思ったら、ポンと予算を付けてくださる事に。お父様ったら、決断が早い。さすが、優秀さの塊。


 ドレリック様やルータス様を巻き込み、シャンジャの街でモデルケーススタート。船の漕ぎ手だった人夫から、多少の反発はあったけど、船の改造やらルイカーの世話やらに人手はいるので、すぐに終息した。まぁ、荷積みや荷下ろしはこれまでどおり人手が必要だからね。特に失業者も出さずにすんだのは大きい。


 そして私がモリーグ村に帰った後も。シャンジャでルイカー船は活躍をし続け。その成果はやがてドヤール領だけでなく、ユルク王国全ての港に広がっていく事になった。


 また、ルイカー船に比べれば地味だけど、舟盛り用の器や七輪も港町では流行するようになった。観光に来たお貴族様の間では、少し大きなルイカー船に乗りながら、舟盛りと七輪で海の幸を楽しむのが流行った。私がシャンジャの街最終日に、ドレリック様にわがままを言って、屋形船よろしく楽しんだのが、まんま流行ってしまったのだ。やるな、ドレリック様。楽しいよね、屋形船。天ぷらも是非やって欲しい。花火も見たーい!


 こうして。私には再び、莫大な利益登録のお金と共に、港の女神とかいう、訳の分からない呼び名が付いた事も、一応、報告しておこう。何よ、港の女神って。




書籍化作品


「追放聖女の勝ち上がりライフ」も連載しております。ご一緒にいかがでしょうか。

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11/12 コミック発売! 転生しました、サラナ・キンジェです。ごきげんよう。~婚約破棄されたので田舎で気ままに暮らしたいと思います①

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9/2アース・スター ルナより発売決定
転生しました、サラナ・キンジェです。ごきげんよう。~婚約破棄されたので田舎で気ままに暮らしたいと思います③~


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白すぎてチョイチョイ《いいね》を忘れて(前ページに)戻るw モシカシテ(《いいね》が)抜けてるページが在ってもーー 面白すぎる小説を書かれた作者様のセイだと(‐人‐)許して欲しいのです…
[一言] ルイカーの調教の利益登録は、シュート、て気がするけど
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