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122 デビュタント⑨

これでデビュタント編終わりです。

あとは蛇足のようなお話が4つほど(増えた)。ドヤール家の皆様視点、国王視点、トーリ視点、アルト視点です。長かった。

 なんとか王弟殿下(面倒ごと)を回避しました、サラナ・キンジェです。ごきげんよう。


 あのあと、王弟殿下を側近の皆様にお任せして、私はアルト会長と共にダンス会場に戻ってきました。

 最後にはしっかり申出の撤回をしてもらえたので、ウッキウキです。肩の荷が下り、心が晴れ、今なら100曲ぐらい連続で踊れそう。うふふー。無理だけど。


 ダンスホールで待つことしばし。お着替え(お色直し)を終えた陛下と、いつもの超絶塩顔の王弟殿下がダンスホールに戻られました。ええ。さきほどの埴輪顔が幻だったように、キリっとした顔をしていらっしゃいますよ。さすが王族。切り替えが早いわね。


 そうしてようやく。本当に、ようやく。

 軽やかな音楽が流れ出し、無事、2曲目が始まった。ここに来るまで長かったわぁ。うん。


 優雅な曲に合わせて、アルト会長と向かい合い踊りはじめる。ダンスの練習は2人で何度となくしたのだけど、やっぱりこの距離の近さは慣れないわ。ドキドキし過ぎて、気分がふわふわしちゃう。駄目よサラナ、嬉しいからって、ニヤケちゃだめ。この至近距離でニヤケたら、直視に耐えないわ。


 がんばってなんとか淑女スマイルを浮かべてアルト会長を見上げれば。ほんわりした笑みがそこにあって、癒されたのだけど。うん? 気のせいかしら? なんだか元気がない様な気がします。

 その原因に、私は気づいていた。たぶんこれ、王弟殿下との話の内容が聞かれていたのね。


 いくら全く靡く様子がなくても、す、好きな人が異性に告白されたら嫌な気持ちになるものよね。私が同じ立場だったら絶対嫌だわ。それなのに私、バルコニーに行って積極的に王弟殿下と2人きりになってたわ。だって、違う告白(カミングアウト)だと思っていたんだもの。

 

 だってねぇ、あの王弟殿下や側近さんたちの言動から、どうして恋の告白をされるなんて思うのよ。あんなひどい態度をとられていて、私が王弟殿下を好きになる要素ってゼロじゃない? それなのにどうして告白が上手くいくと思っていたのかしら。謎だわ。


 なあんて心の中で言い訳をしていても、アルト会長を不安にさせたのは私だわ。謝ろう。報告連絡相談謝罪は早い内がいいのよ!


「ごめんなさい、アルト会長。王弟殿下とのお話を、聞いていらしたのでしょう?」


 そう小声で謝れば。アルト会長は驚いたように目を瞬かせた。


「表に出さないようにしていたのですが……。こちらこそ気を遣わせてしまい、すみません」


 しょんぼりするアルト会長。ぐううう。どこぞの王弟殿下とは雲泥の差でションボリ顔が可愛い。ションボリ顔が可愛い選手権があれば、一、二を争うのではないのかしら。もちろん、競争相手(ライバル)はお祖父様だ。


「違うの! 悪いのは私です。アルト会長は心配していたのに、王弟殿下の呼び出しに応じてしまって。でもまさかあんな話だとは思わなかったんです!」


 私がそう力説するが、アルト会長は戸惑いを隠せないようで。


「ええっと。バルコニーに呼び出して想いを告げるというのは、わりと告白の定番だと思うのですが」


 なんですと? 社交界にはそんなルールがあるの? 私、生国で何度か夜会に出たことがあるけど、そんなの初めて聞きましたよ。前の世での告白の定番は、体育館裏への呼び出しだったし。ん? 体育館裏の呼び出しは不良の定番だったかしら? 学生時代は遥か昔の事なので、記憶がごっちゃになっているわね。


「……そうなんですね、存じませんでしたわ。私、王弟殿下からはもっと違う告白を受けると思っていたので、人の目は避けた方が良いと思ったのです」


「違う告白? 」


 きょとんとした様子のアルト会長に、私の()()()について説明をしたら。

 アルト会長は声を出さないまま、プルプルと震えて笑っていた。ダンスをしながら。器用だわぁ。


「あ、ありましたね。そういえば、そんな噂が……。私も何度か聞いたことがあります」


「ええ。社交に疎い私でも、色々な方からその話を聞きましたから。完全に信じ込んでいましたわ」


 今思えば、噂話を真に受けていたわけなので、あまり褒められた事ではないわね。

 でも王弟殿下や側近さんたちも悪いと思うのよ。彼ら、女子にはスンとした無表情か小馬鹿にしたような愛想笑いなのに、仲間内では年相応に楽し気に笑い合っていて。あの無邪気な笑顔はやっぱり恋人同士の間だからだわと一部の令嬢たちや奥様達の間では評判だったから、勘違いしても仕方がないと思うの。


 私が脳内で必死に弁明をしていると、アルト会長はちょっと困った顔をした。


「怒ってはいませんか? 私が貴女をバルコニーに行くのを止めなかったことを」


「怒る? 何故です?」


「私は……、貴女が告白されるのが分かっていて、止めませんでした」


 ああ、なるほど。婚約者(予定)が他の男に告白されると分かっていて、なぜ止めないのか、ヤキモチを焼いてくれないのかと、普通なら怒るべきなのかしら。いや、のこのこ何も考えずに呼び出しに応じた私の方こそ怒られるべきであって、アルト会長を怒る筋合いはないと思うのよ。

 それにアルト会長なら、止めないだろうなぁと自然に思えた。だって、アルト会長は、基本、私を止めることはない。これまでだって、例えば荒っぽい職人たちとバチバチにバトルしていても、余程のことがない限り間に入ることはなかった。それは。


「だって。アルト会長は、私の事を信頼してくださっていたのでしょう?」


 いつだって私を信頼して、口を出さずにいてくれる。それでいて、助けが必要な時はちゃんと手を差し伸べてくれる。

 彼ほど、私を見ていてくれる人はいない。寄り添ってくれる人はいないと、自然と思えるから。私は安心して伸び伸びと自由に振る舞えるのだ。

 自由過ぎて振り回している感が否めないのは、この際だから眼をつぶっておくけど。

 

 私がそう言うと、アルト会長はほっとした様に微笑んだ。


「良かった。貴女が王弟殿下に惹かれなくて……」


 そっぽを向きながら、照れ隠しの様に言われた言葉に、私は苦笑した。

 

「私が王弟殿下に惹かれるなんて、ありえませんよ、そんな事」


 そこで曲が佳境に入り。音に合わせて、ぐるりと大きく回転する。アルト会長の手が、しっかりと腰を支えてくれている。

 ああ。この瞬間、好きだなぁ。余計な力を抜いて、何の不安もなく、好きな人に身体を預ける事が出来る。

 絶対にこの手が私を離さないでいてくれると、信頼できるから。


「だって。私が好きなのは」


 くるりくるりと回る楽しさに、フワフワした気持ちになって口が滑り。ハッと我に返ったけど、ちょっと遅かったようだ。

 ぐいと不自然ではない程度に抱き寄せられて、アルト会長の声が耳に滑り込んでくる。


「好きなのは?」


 顔を覗き込まれて、悪戯っぽく微笑まれる。


「教えて? 誰が好き?」


 どっかんと、頭が一瞬で沸騰した。

 ヤ・バ・イ! 敬語じゃないアルト会長の破壊力! 尋常じゃないわ。

『もうすぐ婚約するんだから、言葉を崩してください!』なんて強請っている場合じゃなかったわよ、サラナ! 貴女の心臓じゃ耐えられない事を、ここに宣言するわ!


 アルト会長の目が楽しそうに細められて。これは絶対に、揶揄っている。まるで悪戯好きの、猫ちゃんみたいな表情だもの!

 途端、負けたくないという気持ちがムクムクとわいてきた。揶揄われっぱなしで引いたら、女が廃るわ。こなれ感のあるイイ女は、これぐらいの質問には、サラリと答えるものなのよ、頑張れ、サラナ。それにしても、こなれ感て何よ。いまだに具体例を見たことがないわ、こなれ感。


 私は意を決して、真っ直ぐにアルト会長を見上げ、答える。


「ア、アルト会長が、好き」


 うわぁぁぁぁ! つっかえたぁぁ! そして小っ恥ずかしいぃぃ! どこがこなれ感よ。だから何なのよ、こなれ感って!


 余りの恥ずかしさに今すぐ家に帰ってベッドに飛び込んで枕に顔を押し付けて叫びたいぃ。でも今はダンスの真っ最中なので、そうもいかず。私は顔を伏せて、恥ずかしさに耐えていた。


 頭上から、ふぅぅぅぅっと、深ぁいため息が聞こえた。もちろん、アルト会長だ。

 うぇ? もしかして女子力が足りなくて呆れられた? 確かに今の返答は、色気も何もあったもんじゃなかったけど、そんなに溜息を吐かれるほどひどかったかしら。


 でも私の心配は杞憂だった。


「サラナ様。婚約もまだだというのに……。私の理性を試していらっしゃるのですか? 」


 危険な程低い声でアルト会長に耳元で囁かれて。ヤバイ。敬語に戻っても色気が駄々洩れている。なんだか背中がぞくぞくする。

 おかしいわ。大好きな人とのダンスなのに、どうしてこんなに顔が火照って、冷や汗が止まらないのかしら。更年期? 違うわ、アラなんとかの前の世と違って、サラナちゃんはぴちぴち10代なのよー!

 

 くうう。ここは前の世から通算した経験値を活かすのよ!と思ったけど。頭に浮かんだのは彼氏らしきモノから、『彼女が妊娠したから結婚する。金貸して』と言われた時の対処法ぐらいだった。駄目だわ。恋愛に関しては『駄目男収集家(コレクター)』としての経験値しかない。あの時は平手打ちと、それまでの借金を奴の実家を巻き込んで(親にチクって)一括返済させて終わったのよねぇ……、って、なんの役にも立たなーい!


 1人で狼狽えていたら、アルト会長が身体をビクッと震わせて、適切なダンスの距離に戻った。物理的な距離が出来たお陰で、私は心のゆとりを取り戻せました。ほっ。


「すみません、揶揄いすぎましたね。怒られてしまいました」


 周囲に視線をやりながら苦笑するアルト会長に、私は首を傾げる。怒られたって、誰にかしら。


「バッシュ様ですよ。……いえ、ドヤール家の男性陣、全員にですかね」


 お祖父様たちが? と思ってそっと姿を探してみると、皆様それぞれ、ダンスホールから離れた場所で他のお客様たちと談笑しているのが見えた。あんなに遠いところにいますけど。しかも音楽も流れているし、ザワザワしているから、私たちの話し声なんて聞こえないと思いますが。


「バッシュ様たちにとっては、これぐらいは射程距離の範囲内ですよ。何かあれば、一瞬で肉薄して、気付いた時には首と胴体が離れているでしょうね」


 おぉう……。なんて物騒な。そういえばウチの男性陣は皆、討伐でも人間離れした動きをしますものね。肉眼では早すぎて、全く動きが追えないのよねぇ。


「先ほどのバルコニーでの王弟殿下との会話も、全て聞かれていたようですし」


 え? あの恥ずかしいやり取りを全部聞かれていたの? ちょっと待って。好きな人と一緒にいられるとかなんとかいったのも全部? 恥ずかしっ!


 身内に聞かれてたぁ!と言う羞恥心は、続くアルト会長の言葉で吹き飛んだ。


「あの時……。王弟殿下があと一歩近づいて貴女に触れていたら、切り飛ばされていたでしょうね」


 何を、とは言わないところが余計に怖いわ。


「で、でも、バルコニーはここより更に遠いし、窓の外に出ていたから……」


 いくらお祖父様たちでも、流石に話の内容を聞くのは無理じゃないかしら。物理的な距離と障害があったもの。

 そんなことを思っていたら、アルト会長がなんだか悟った様な静かな笑みを浮かべる。 


「サラナ様。バッシュ様たちにとって、脆い窓や壁など、何の障害にもなりませんよ」


「壁も?」


 窓はわかるわよ。私でも頑張って椅子とかぶつければパリーンと割ることが出来るもの。危ないけど。でも、壁はねぇ、流石に無理でしょ。豪奢に見えるけど、実は王宮の壁はペラッペラのベニヤ板なのかしら。いやいや、外壁を見たけど、魔物からの襲撃にも耐えられそうな頑丈な石造りでしたよ。


 いくらお祖父様でも、まさか壁を突き破るなんて出来るわけが……。ないと言い切れないのがお祖父様なのよねぇ。お祖父様の前では、ベニヤ板も石壁も同じ様なものなのかもしれないわ。だって、お祖父様ですもの。


「私が気づいた限りでは、バッシュ様はセルト様とカーナ様が、ジーク様はミシェル様が、ヒュー様とマシュー様はダイアナ様とパール様が、飛び出そうとするのを宥めていらっしゃったので、窓も壁も無事だったのですよ」 


 荒ぶるドヤール家の男性陣を、ストッパーの皆様が止めていらっしゃったようです。ありがとうございます、おつかれさまです。


 でも思っていた以上に、家族たちは私を自由に行動させてくれたわ。

 デビュタント前の家族の意気込みを見ていたから、どこのアイドルの警備だというぐらい、もっとガチガチに周囲を家族に囲まれて、話す人も厳選されると思っていたのだけど。


 お陰で、お友だちが出来たし。アルト会長の仕事相手とも交流する事が出来た。アルト会長の社交というか営業力の凄さも目の当たりにしたわ。巧みな話術、言質を取られない慎重さ、それでいて人を惹きつける気配り。凄いわー。

 こんなシゴデキな人の奥さんになるのねーと思ったら、頑張らなくちゃと自然に思ったわよ。

 アルト会長には『頑張らなくていいので、程々に』と苦笑されましたが。解せぬ。


 後から。私が知らないところで、アルト会長が色々と家族に根回しをしてくれていたお陰で、家族に遠隔的に守られながらも社交を熟せたことを知ったのだけど。

 その時の私は、何も知らずにのほほんと暢気にデビュタントの成功を喜んでいたのだ。


 あ。陛下とのダンスは、始終、平謝りをされながらも無事に終わったことを、ここに報告いたしますわ。まる。



  






 


 



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転生しました、サラナ・キンジェです。ごきげんよう。~婚約破棄されたので田舎で気ままに暮らしたいと思います①~④~


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― 新着の感想 ―
何だ、切り落としてたらムラッ気も落ち着いてマトモになったかもしれないのに… まぁ、そうなったら商品価値が無くなるから売り付ける相手に困るのかしら?
消化不良
いや,みんな分かっとるやろうに,飛び出そうとするな(^^;
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