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109 お祝いムード

書籍化作業に時間をとられ、久しぶりの投稿となってしまいました。すみません。

 屋敷に戻ったら皆がお祝いムードです。サラナ・キンジェです、ごきげんよう。


 アルト会長に告白してお返しにプロポーズしてもらい、お互い気恥ずかしくてモジモジしながら屋敷に戻ったら。家族プラス使用人たちが勢ぞろいで拍手されました。うわぁぁぁぁぁ!


 皆、滅茶苦茶いい笑顔。家令のベイさんが泣いているし、若い侍女さんたちも興奮しきった顔で拍手している。ルエンさんは、崩折れて号泣しているので、ある意味いつも通り(通常運転)だわ。そんなことより、皆、見てたの、聞いてたの? どこからどこまで? むしろ最初から最後まで? 死ねる。恥ずかしさで死ねる。


「さすが私の娘だわ、サラナ。素敵な告白だったわよ」


「昔のカーラを見ているみたいだったわ!」


 お母様に褒められ、伯母様にウインクされ。


「うわははは! 今日は祝いだ! 狩りに行くぞ!」


「ジーク様、なりません。サラナたちを覗いていたから、まだ仕事が終わっていないでしょう。良かったねぇ、サラナ。アルト会長、あとで執務室に来てくれ。婚約について相談したいからね」


 浮かれて狩りに飛び出そうとした伯父様を捕まえたお父様には、さらりと覗きを告白され。ついでにこ、婚約って。


「皆様に祝福されて、嬉しいですね」


 照れたようにそう仰るアルト会長は、やはり大物だと思いました。覗かれていたの、恥ずかしくないんですか? 慣れましたか、そうですか。手繋ぎとか嫉妬して不機嫌とか、屋敷中どころかモリーグ村中で噂されていましたもんね。いえいえ、私は全然慣れませんよ。恥ずかしい。


「まあ、バッシュ様に認めて頂けるかは分かりませんが……」


 苦笑するアルト会長。そう言えば、お祖父様のお姿が未だに見えません。毎日一回は私とお茶をしないと死ぬと断言していたお祖父様と、今日は一度もお会いしていないわ。はっ! まさか、孫欠乏症でどこかで倒れているのかも?


「バッシュ様はまだシャンジャにいらっしゃるかと。私も早駆けで先ほどシャンジャから戻りましたから、今夜はお戻りになるかどうか。ダッドとボリスも置いてきたので、大丈夫でしょう」


「そもそもどうしてお祖父様はシャンジャに?」


「……私に、発破をかける為だと思います。サラナ様を泣かせるなと」


 ふんわり蕩ける様な笑みを浮かべて私を見つめるアルト会長。そんな甘い雰囲気を皆の前で出さないでくださいぃ。


「まー。カーナと両想いになったときのセルト様みたいなお顔ねぇ。なんだか懐かしいわぁ」


「ぐっふ、ゴホン。さ、ジーク様、仕事に戻りますよ!」


 伯母様の揶揄う様な言葉に、流れ弾に被弾したお父様が慌てて伯父様を連れて執務室へ戻っていく。伯父様の表情が売られていく子牛みたいで、ついついあの歌が頭を流れてしまったわ。伯父様、頑張って!


「これでようやくサラナがデビュタントに本腰入れられるわね。恋する乙女は綺麗になるのが定石なのに、サラナときたらどんどん落ち込んでいくものだから、冷や冷やしたわ」


「二度と不安にさせないように、これからは毎日しっかりと愛情を伝えます」


「あらまぁ……。ほほほ。溺愛ねぇ」


 揶揄おうとする伯母様にアルト会長はにっこり微笑んで恥ずかしい事を言ってらっしゃいます。強い、強いわ、アルト会長。伯母様、揶揄えなかったからって、舌打ちするのは止めてくださいませ。そしてアルト会長、毎日伝えていただかなくても大丈夫です。程々に、適量でお願いします。


 とりあえず、夕餉にはまだ早いので伯母様やお母様と軽くオヤツを頂くことになりました。『使用人全員が覗いて、いえ、見守っていたので、夕餉の準備が少し遅れそうです』って申し訳なさそうにベイさんに言われたのだけど。使用人全員?


「アルト会長、サラナのデビュタントに出席してくださいな。エスコートはセルト様ですけど、何かあった時はサラナのエスコートをお願いします。これはドヤール家からの正式な依頼ですわ」


「承知いたしました」


 伯母様の言葉に、思わず頬が赤くなる。家族でない男性が付き添う場合は、婚約者に準じる相手ということになる。正式な婚約はまだでも、デビュタントでアルト会長にエスコートされるという事は、ドヤール家がアルト会長を私の相手だと認めている事になる。


「それでねぇ、サラナ。王族とのダンスは、無事、陛下に決まったのだけど」


 伯母様がピラリと王家の封蝋が推された手紙を見せて下さったのだけど。あら、良かった。国王陛下とのダンスなら、こちらの希望通りだわ。


 アルト会長が手紙を読んで、笑みを深める。うん? なんでしょう。その怖い笑みは。

 お手紙にはデビュタントを迎える令嬢10名の内、陛下がダンスのお相手をして下さる5名と王弟殿下がお相手をして下さる5名の令嬢のお名前が書かれていた。ダンスの順番も決まっていて、特に不審な事は無いと思うのだけど……。

 ちなみに、私の順番は陛下がお相手なさる令嬢の中でも5番目、一番最後だ。他の4名は家格が上か、ラカロ家と同じ子爵家でも歴史が古いお家柄だから、陞爵したばかりのラカロ家が一番最後でもおかしくはない。順番も妥当、よねぇ?


 だけど伯母様もお母様もアルト会長も、なんだか怖い笑みを浮かべている。何がいけないのかしら。


「幸いにも、王族とのダンスの順番が回ってくるまでは、デビュタントの令嬢も家族や婚約者と自由に踊って良い事になっているわ。自分の順番の1曲前までには陛下と踊るのに備えて待機しておかなくてはいけないので、サラナは王族とのダンスの前に、セルト様とアルト会長と()()ダンスをしなくてはいけないわ。間違っても、王族とのダンスが1曲目なんてことはダメよ。エルスト侯爵辺りが、飲み物とか勧めて来てダンスを妨害する可能性があるから、そこは私や旦那様でフォローするわ。王弟殿下の側近(腰巾着)たちは、そうねぇ。ウチの息子たちに押さえさせるわね」


 伯母様から随分と細かい指示が出て、私は驚く。あら?デビュタントってそんな段取りだったかしら?しかも妨害って。不穏な言葉が怖いわ。

 

 戸惑う私に、伯母様は冷ややかな笑みを浮かべて、アルト会長から受け取った王家からの手紙を広げる。


「陛下が踊られる令嬢たちのリスト。上位貴族の順位は妥当だわ。だけど4番目のクルゼル子爵家は、何年か前に脱税が発覚して侯爵家から子爵家に降爵された家よ。そんな家がラカロ子爵家よりも前にいるのはおかしいわねぇ」


 あ。そういえば生国で妃教育を受けている時にそんな話を聞いたことがあったわ。でも結構昔の不祥事だから、ペッカペカの新参者であるラカロ子爵家がクルゼル子爵家よりも後になった可能性も……。ないわねぇ。社交界ではたとえ10年前でも、他家の不祥事はつい先日あったことように噂されるんだったわ。だから一回でもヤラかすとアウトなのよ。


「クルゼル子爵家が歴史が古い家柄だとしても、さすがにこの順番はねぇ。あちらの意図が分かり過ぎるわよねぇ」


 ホホホと笑う伯母様とお母様。頷くアルト会長。ああ。達人の域には全く達していない私には何の意図も読めません。教えて、伯母様。解説をプリーズ。


「そうねぇ、サラナ。デビュタント当日の状況を考えてみて。デビュタントのダンスが始まるわね。まずは陛下はエスコートなさった王妃様と踊られるわ。王弟殿下はパートナーを伴わずにご入場されるから、お一人目のデビュタントのお嬢様と踊られるわね」


 うんうん。陛下と王妃様。王弟殿下と最初の令嬢が踊られるわね。ここで踊られる方は、最も家格の高い家の令嬢で、王弟殿下にも釣り合う様な方ではないかしら。


「順調に踊られると。陛下が合計6人、王弟殿下が5人と踊られることになるのでしょうけど」


 まぁ、デビュタントの令嬢が10人。陛下と王弟殿下が分担して5人ずつ。陛下は最初に王妃様と踊られるわけだから、計6人と踊られますね。


「そうね。6人だわ。ことしはデビュタントの令嬢が多くていらっしゃるから、いつもより人数が多いわねぇ。陛下はまだお若くていらっしゃるけど、流石に一晩で6人も踊るのは難しいかもしれないわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()殿()()とは、体力が違いますからねぇ」 


 んん? 何かしら、非常に引っ掛かる言い方だわ。

 デビュタントは令嬢にとって大人の仲間入りである大事な夜会。令嬢にとっては、王族の男性と踊れる滅多にない機会だ。陛下だって疲れたなんて理由で、踊らないことはないと思うけど……。

 え、まさか、疲れたから最後の1人は王弟殿下に代わってもらう事があるっていうこと?

 

 ああ、だからこの順番? 過去とはいえ問題のあったクルゼル子爵家の令嬢が、未婚の王弟殿下とダンスをして、万が一にも噂になったら大変なことになる。

 それを避けるために、敢えて私を最後にしたというわけか。いやいや、予定通り陛下が最後まで踊って下さればいいじゃない。お疲れになるのが心配なら最初の王妃様とのダンスをパスして、って駄目だわ。最初は普通、王妃様(パートナー)と踊るわー。

 はっ! それより、万が一王弟殿下と踊ることになったとして。王弟殿下の女性の扱いは大丈夫なの? あんな剛腕に握られたら、私の腕、今度こそ粉砕されるかも。


「まぁさすがに、力加減ぐらいは学んでいるでしょうけど……。でも万が一ってことはあるわねぇ。サラナ相手に、変に力み過ぎてボキッといくかも」


 伯母様がポツリと溢した言葉に、私は鳥肌を立てた。イヤーッ。何年か前の脱税すらいまだにひそひそされるのに。デビュタントで腕を折られた女なんて、社交界で百年単位で噂されるぅ。


「ミシェル。サラナを変な脅し方しないでちょうだい」


「はぁい。怖がらせてごめんなさいねぇ、サラナ。でも、可能性がまったくないわけではないから、備えておきなさいな」


 涙目になる私をみて、お母様が伯母様を嗜める。伯母様に謝罪されましたが、備えるってどうやったらいいのでしょう。え? 腕を折られないように、ドレスの袖に鉄板でも仕込めばいいのかしら。それ重くて私が踊れなくなるやつだわ。どうしたらいいのー?


 ぐるぐる考え込む私の手を、アルト会長が宥める様に優しく撫でる。そんなさり気ない仕草になんだか妙にホッとして、私はアホな方向に考え込むのを止めた。うん、袖に鉄板はダメだわ。デビュタント準備をしてくれている侍女さんたちが、ドレスの型が崩れるって怒りで血管が切れちゃうわ。


「サラナ。王弟殿下と踊る可能性があることは分かったわね。リストが配られた以上、順番を変更していただくのも難しいから、最悪の事態も考えておかなくてはいけないわ。私たちも、サラナがダンスの相手に陛下を指名した時点で、こうなるんじゃないかと予想はしていたけど。ダンスの順番がこちらの予想通り過ぎて、笑っちゃったけどね」


 お母様が軽やかに微笑んでいらっしゃるけど、ちっとも楽しそうじゃないわ。背後にゴゴゴゴゴって何かが蠢いているのが見えるわ。何かしらねぇ。


「だからね、サラナ。絶対に王弟殿下と踊るハメになる前に、アルト会長と踊るのよ。家族以外の男性と初めて踊るなら、好きな人がいいでしょう?」


 好き。好きな人って。お母様、そんなはっきりと、本人の前で言っちゃうの?

 思わずチラッとアルト会長を見れば。そんな嬉しそうな顔をしないでください、アルト会長。でも返事をしないわけにもいかず。 


「す、好きな人がいいです……」


 自分史上、めちゃくちゃ小さな声が出ました。それでもがっつりアルト会長には聞こえた様で。


「私も、好きな人と踊れるのが嬉しいです」


 はっきりきっぱり、良く通るお声で嬉しそうに答えてくださいました。ありがとうございますぅ。


「あらあら、初々しいわねぇ。そうよね、私も初めてデビュタントで家族以外と踊ったのよ。旦那様と。うふふ。大きな身体でぎこちなく踊っていて、凄く可愛らしかったわ」


「私も! 学園のパーティだったわ。彼ったら、ものすごく緊張していて……」


 伯母様とお母様がキャッキャしながら伯父様とお父様との過去のダンスを惚気ているわ。

 ああ、私のデビュタント対策から話がずれているけど、現実逃避してこのまま楽しい恋バナを聞いていたいわぁ。


「ミシェル様、カーナ様。そろそろ、お話の続きを……」


 でも困り顔のアルト会長が、スパッと軌道修正して(現実に戻して)くれました。伯母様とお母様は、ハッと気づいて、テヘッと笑っていらっしゃいます。可愛いわね。


「ホホホ。つい話し込んじゃったわね。まぁ、そういうわけだから、我が家としてはデビュタントは何をおいても王弟殿下対策が一番重要になってくるわ。王族とのダンスはデビュタント行事で、貴族女性としての義務の一環という態度を貫いて、サラナの相手はアルト会長だと存分にラブラブっぷりを見せつけるのよ。人目なんて気にせずに、イチャイチャしなさい!」


 顔から火が出そうだわ。ラブラブとか、イチャイチャとか。そんな演技、出来る気がしないわ。

 そう素直に伯母様に伝えると、伯母様はにっこり微笑んだ。


「演技なんてしなくていいわよ。2人が揃っていれば、自然と甘い空気になるって、侍女たちから報告を受けているわ。いつも通りに過ごすだけで充分見せつけられるから、安心なさい」


 全然安心できないわ。侍女さんたちの目に、いつも通りの私たちはどういう風に映っていたのかしら。私とアルト会長、ずっと仕事の話しかしていないはずなのに。

 ねぇ? と同意を求める様にアルト会長を見ると、あら、何だか難しい顔をしているわ。


「アルト会長、どうかなさいまして?」


「……いえ。ミシェル様のお考えはいつもながら完璧だとは思いますが。一つだけ不安要素が」


「不安要素?」


「ええ……。サラナ様のデビュタントですから、もうお一方、絶対に踊りたいと立候補される方がいらっしゃいますでしょう? その方も含めると、サラナ様が立て続けに何曲も踊られることになるのではないかと心配で」


「もう1人?」


 はて。お父様とアルト会長以外で?


「「あっ」」


 伯母様とお母様が2人、顔を見合わせる。


「……そちらは、私の方から、ちゃんとお話しておくわ」


「私も、釘を刺しておくわ」


 伯母様とお母様が神妙に答えるが、余り自信がなさそうだ。その様子に、私もなんとなく誰だか分かりました。


「ええっと。もう1人って、もしかして」


「バッシュ様です。日頃から常々、『可愛いサラナのデビュタントは、エスコートとファーストダンスははセルトに譲るが、2番目はワシが踊るのだ』と仰っていますから」


 私が王族とダンスを踊るのは早くて5曲目。

 1曲目がお父様、2曲目がお祖父様、3曲目はアルト会長。いや、アルト会長を印象付けるためにも、2曲目に踊った方がいいと思うのよね。


「婚約も認めて貰えるか難しい所ですが、デビュタントのダンスの順番まで譲ってもらえるか、分かりませんね」


 苦笑するアルト会長に、激しく同意する私。

 ある意味、一番の難敵はお祖父様ではないかしらと、ついつい思ってしまいました。

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11/12 コミック発売! 転生しました、サラナ・キンジェです。ごきげんよう。~婚約破棄されたので田舎で気ままに暮らしたいと思います①

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9/2アース・スター ルナより発売決定
転生しました、サラナ・キンジェです。ごきげんよう。~婚約破棄されたので田舎で気ままに暮らしたいと思います③~


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― 新着の感想 ―
欲をかきすぎると、身分どころか命を失いますよ? 王族派たちは、覚悟できているでしょうかね?
もうデビュタント前に婚約だけでも確定させて王弟黙らせるべ 無理だとしても内定してることを噂に流せば流石に諦めんか?
そういえば、孤児院が販売をやりだすのは、いつ頃だろう? まだ、作る段階だけっぽいけど
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