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1 実は私、転生者です

新しい長編作品です。

ゆっくり更新していきますので、気長にお付き合いください。

 第二王子に婚約を解消されました、サラナ・キンジェです、ご機嫌よう。


 突然。ええ、突然でございました。王宮に呼び出され、陛下直々に、一方的に告げられましたのよ。相変わらず無礼な王族だわ、フフフ。


 婚約解消の理由は、第二王子が学園で出会った、平民の聖女との真実の愛を貫くためだそうです。王家は聖女の希少な光魔法の血を取り込みたいので、二人の仲に諸手を挙げて賛成。私との婚約は王家には余り利が無かったので、あっさり解消。

 しかも、一方的な解消となると外聞が悪いので、私が病弱で子が産めるか不安なためという理由をでっち上げてきました。貴族令嬢としては致命的な理由だが、口止め料も含んだ破格の慰謝料を押し付けられたら、零細伯爵家としては従わざるを得ませんでした。


 悪役令嬢として舞台に上がる事なく、婚約解消されてしまったのですが、これから私はどうしたらいいかしら。学園に入学する前に全てが終わったけれど、これは巷で有名な悪役令嬢がざまぁする逆転ストーリーじゃないのかしら。つまらないわ。


 しかし、私の貴族令嬢としての価値はこれで無いも等しいものになった。子が産めるか分からないと言うのは、血族主義の貴族にとっては致命的。婚活市場ではゼロ価値らしい。もうちょっとこちらに配慮した解消理由にしてくれればいいのに。まぁ、無理ね、あの王家じゃ。そんな知恵なんかないのでしょう。


 私は現在13歳。第二王子が真実の愛とやらを見つけた学園入学まであと2年もある。

 しかし学園に入る意味あるのかしら、これ。王子妃教育の賜物で、学園卒業レベルの学力はあるし、王子に婚約解消された令嬢なんて社交も婚活も絶望的だ。うん、行きたくない。周りからクスクスされるだけじゃない。気にしないけど。


 そんな事を考えていたら、ある日げっそりしたお父様が仰った。「もう、爵位を親戚に譲って国を出たい」と。親戚筋から子が産めるか分からない跡取り娘ではなく、ウチの子を養子に取れと責められ、でも可愛い娘を見捨てるなんて出来ないと悩み、思い詰めた様だ。セルト・キンジェ38歳。家族愛は満タンだが、交渉は苦手で、領主には向いてない事を自覚する。どっちかというと、人に従ってコツコツ頑張るタイプだもんね、パパン。


 人が良いママン、カーナ・キンジェも大賛成。元々、おおらかで解放的な隣国ユルク王国のドヤール家出身のママンは、ゴルダ王国の堅苦しい貴族社会に馴染めてなかった。そして、これ以上悩むパパンを見てられないし、陰口をたたかれる娘が可哀想だし。幸い、実家のドヤール家はママンの兄が跡を継いでいるが、仲は良好だし、こっちの事情を知って、辛いならいつでも帰ってこーいと大歓迎モードらしい。アグレッシブに我が家の後釜を狙う親戚は数多いるので、伯爵家の後継は問題ないだろう。

 

 ダンディなパパンの額の後退が進むのを防ぐためにも、我が家は爵位を譲って移住を決めた。髪って大事。パパンのフサフサは、ぶっちゃけ、爵位よりも価値がある。国の許可はスムーズに降りた。まぁ、私らが居ない方が、あちらも気が楽になるのだろう。


 そういう訳で、私は悪役令嬢にもならず、逆転劇もせず、王家にいい様に婚約解消されて、爵位を譲って隣国に逃げる様に移住する事になりました。以上。


◇◇◇


 私、サラナ・キンジェが転生者である事に気付いたのは4歳の頃だ。前の生ではバリバリに働いていた。高学歴、高収入、お一人様街道まっしぐらの中年に足を突っ込む前の女子。死因は休暇旅行先で楽し過ぎて、酒を飲み過ぎての急性アルコール中毒。人生謳歌中のポックリ。実に周りに迷惑な死に方だった。すいません、宿の方、及び一緒に行った友人。


 イェーイ地酒美味ーいとはしゃいで、ガブガブ飲んでいた記憶から、いきなり4歳児になった時の衝撃といったら。フッと風景が切り替わる様に、中世ヨーロッパ映画の中に入り込んだみたいだった。さっきまで高級旅館で海鮮料理を堪能してたのにっ!カニがエビが刺身が消えたのよ。せめて食べ切ってから死にたかった。地酒が美味すぎたのがいけなかったのか。


 平凡を絵に描いたような中年女から、黒髪、濃青の瞳の天使のような4歳の美少女への転身。剣と魔法と、魔物がいる世界の、貴族家のご令嬢として覚醒。なんでだ、と思ったのが初感想。


 なんとか気持ちを切り替えて、前世の記憶と今世の記憶を上手く融合した後。こういう時のお約束、何か素晴らしい能力が?!とワクワクしたけど、授かったのは人並みの魔力。火魔法も水魔法も土魔法も風魔法も人並み。一般人よ。ちょっとだけ珍しいのは鑑定魔法。珍しいと言っても100人に1人ぐらいは使える程度。就職には有利な能力らしいけどね。一縷の望みをかけて、魔法は毎日練習してる。伸びるかもしれないし。その兆しは今のところ全くない。平凡だ。


 私が生まれたキンジェ伯爵家は、人が良くおっとりした父と、これまた人が良くおっとりした母と、一粒種の私という家族構成だった。歴史はあるが、金はない伯爵家。貧乏ではないが裕福でもない。食べるのには困らないが、贅沢は出来ない、それぐらいの家柄だった。お父様は領地経営を頑張っていたが、これといって特徴のない我が領地は広すぎて管理に困ってた。農作物の改良とか、結構頑張って作ってたけど、いかんせん、領地の大半が岩山だと出来る事は少ない。貧乏よりの中流貴族。


 しかし4歳児に何が出来るわけでもなく、おっとり両親とのんびり倹しく暮らしていると、ある日、衝撃の出来事が起こった。私が、第二王子の婚約者になってしまったのだ。


 第二王子の婚約者選びが難航していたのは知っていた。次期国王には第一王子が立太子していて、第二王子は臣籍降下しての婿入り先を選定していたが、なかなか婿入りの条件の合う家が見つからなかった。そこで貧乏だが家柄は古く由緒正しい我が家に白羽の矢が立った。第二王子は私と結婚後、陞爵を受け侯爵になり、第二王子と私の子が跡を継ぐという流れになった。結婚に伴い、我が領に王家直轄領の一部で優良な穀物地帯を頂ける事になっていた。条件的には、良かったのよねー。貧乏を抜け出せるかも、とほんのちょっと期待していた。


 第二王子のミハイル・ゴルダは私より5歳上の9歳。初めて対面したのは王宮の謁見室。緊張でガチガチの父と母と一緒に登城した私。リアル王子様かーとワクワクしていたが、ミハイルと会って数秒で落胆する事になった。


「なんだ、随分と地味な色合いだな」


 赤髪と緑目の活発そうな美少年の第一声はそれだった。一張羅を着て淑女の礼を執る4歳の美少女に対する気遣いは0。そんな尊大な態度で詰まらなそうに吐き捨てられたら、100年の恋も覚める。いや、恋すら芽生える余地もなかった。まあ、中身は立派なオバさんの私が、9歳児に惚れたら惚れたで、それはまた別の問題がある。


 私は周囲から引っ込み思案で大人しい子と思われていた。同年代の子息令嬢との交流会でも、殆ど周りと会話せず、静かにしている事が多かったからだ。単に4歳のパワーに中身がオバさんの私では付いていけなかっただけなのだが。髪や瞳の色合いも暗く、目立たない子だった。


 ミハイルはそんな私に興味を持てなかった。齢9歳にして、大人っぽくキラキラと可愛らしい令嬢達に囲まれてチヤホヤされていたのだ。私の様に暗い色合いの地味な大人しい女が婚約者になった事に納得がいかないのだろう。別の女がいい、本当にこんな地味な女が俺の婚約者なのかと暴言を吐き続けていた。ミハイルの両親である国王陛下と王妃は、ミハイルを窘めることも無く「我慢しなさい」と息子を宥めていた。本人を目の前に我慢しなさいなどと、失礼極まりない発言だが、王族なら許されるのか。この親にしてこの子ありだ。


 しがない貧乏伯爵家としては、どれほど馬鹿にされても否などと言えるはずもなく、帰りの馬車でお父様もお母様も悔し泣きに泣き、私に謝り続けていた。私は婚約自体は嫌だったが、バリキャリで上司のパワハラセクハラを躱してやりこめてきた大人意識が、お子様王子の言葉なんぞに傷付く筈もなく、逆にお父様達を慰めていた。


 そして始まる王子妃教育。毎日の勉強量がえげつなく、大人の意識を持つ私にもちょっとキツかったが、苦手な暗記は子どもの柔軟な脳味噌が助けてくれた。吸収力が凄いわ、子どもの脳。そこに大人の集中力と効率が加われば、怖いものなどない。ダンスや武術も一通り習えた。楽しかったなぁ。いやー、子どもの体力って素晴らしい。


 ミハイルとの婚約だって、どうせ解消されるだろうと思っていた。あのお子様王子は、長じるにつれてどんどん傲慢に育っていたし、婚約者の私など一度だって顧みる事はなかった。定期的な交流の場にも来やしなかったからな。ドタキャンとかありえん。


 ミハイルの華やかな噂はチラホラ聞こえてきていて、私はお茶会などでは他の令嬢達に冷遇されている婚約者とクスクスされていたけど、小娘達の陰口なんか、給湯室の噂話に比べたら可愛いもんだった。ははは、女の戦いはこっちがベテランよ。まだ成人前で社交デビューもしていなかったから、こちらに直接害のありそうな輩以外は放っておいたけどね。


 そんな面倒で忙しい生活から、婚約解消のおかげで清々しく解放される事になった。慰謝料もあるし、話で聞く隣国の生活は、憧れの自給自足、スローライフっぽいので楽しみでしかない。真実の愛ってなんだよ、お花畑か、ミハイルって馬鹿なんだなと思っていたが、結果的には、馬鹿の嫁から解放されて、ミハイル、いい仕事をしてくれたと思う。







書籍化作品

「追放聖女の勝ち上がりライフ」も連載しております。ご一緒にいかがでしょうか。

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11/12 コミック発売! 転生しました、サラナ・キンジェです。ごきげんよう。~婚約破棄されたので田舎で気ままに暮らしたいと思います①

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9/2アース・スター ルナより発売決定
転生しました、サラナ・キンジェです。ごきげんよう。~婚約破棄されたので田舎で気ままに暮らしたいと思います③~


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― 新着の感想 ―
地酒をどれだけ飲んだのかが気になって仕方がないw
 王太子からのフォローや宰相以下の諫言等もなかったのなら、次世代も期待できないな。
[気になる点] 「1 実は私、転生者です」に >第二王子の婚約者選びが難航していたのは知っていた。次期国王には第一王子が立太子していて、第二王子は臣籍降下しての婿入り先を選定していたが、なかなか婿入…
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