治療水を作ろう
ベッドに横になったまま万歳ポーズで手足をぴんと伸ばしてちょっとしたストレッチをしたエリカはあくびをしながら起き上がった。
何となく机の上を見ると草が置かれていた。
おぉーもしかしてこれはベアパ草?ルイさん仕事が早いじゃない~
案外書類関連以外はできる男だったり…えん?
ちょっと待った!!なんと…
レディーが寝ている部屋に勝手に入ってくるとは本当にもう…
ルイさんらしいというか何というか。
今回は助けてもらったし、このことは不問にしてやろう。
さてと、ミリスが来たらまたあれこれと面倒なことが起こるかも知れないから、体調不良と言っておこう。
ベアパ草を机の引き出しに隠そうとしていると、ドア越しにルイとミリスの話し声が聞こえてきた。
「おはようございます。ルイさん、昨夜は特に問題ありませんでしたか?」
「おはようっす。何もなかったですよ。はーぁん〜眠い。ルーベルまだかな~?」
「そういえば、先ほど見かけました。すごい量の紙を持ってましたけど…?」
「あ、なら交代はちょっと遅くなりそうですね。眠ぃ…」
「ふふふ。もう少し頑張ってくださいね。では!」
***
トントン。
「ミリスです。入りますよ~」
ミリスが部屋に入ると、ベッドに横になっているエリカが見えた。
「朝ごはん持ってきたけど、食べれそう?」
「昨日聖力を使いすぎたようでちょっとだるい感じがするだけだから、食べれるよ。」
「そうか!良かった。」
にっこり笑顔のミリスは食事をテーブルに置いた。
しばらく立ち話をした後、エリカのために祈りを捧げに行くとミリスは出て行った。
うわ〜勝った!!
先ほど、だるいならベッドで食事していいから、あん〜してと言って来るミリスの言葉に思わず口を開いて「あん〜」と言いそうになっていた。
ミリスは私の世話以外も忙しいんだと何度も脳内で言い聞かせ、理性を勝たせた瞬間だった。ミリスに迷惑になると思ったら、考えた通りに体を動かせる!よき発見。
さて、実験開始だ!
きれいな水の定義がよく分からんず、安易な考えだが飲み水でよしとした。
ベアパ草はすりつぶして、1gに対し水の量を変えるけど、、治療水を入れる瓶すらもっていないので、部屋にあるコップを使った。ただコップも2つしか無いので、2パターンしか作れないない。うまくいかなかった場合を考えると作るときにもっと数パターン作りたかったが、仕方がない。
聖力は同じ時間を注いでみることにした。
小さな手でベアパ草をすりつぶすのは一苦労だったが、それ以外は大変な作業でもないし、聖力が強いエリカにはあまり時間はかからなかった。
***
よし~作り終えた!
さて、これからが大事な実験になるけど…その前に~
「ルイさんまだ居ます?」
エリカの呼びにひょっこり顔だけ出して眠そうな顔でまだいるけど?
的な感じで見つめてきた。
うわ〜眠くなって機嫌が微妙な感じだな。
でも逆にチャンスかも?
「ルイさん疲れてる時にこれをやるといいんですよ。ちょいこっちにきて座ってください~」
眠さで若干判断力が鈍くなっているルイはエリカの言う通りに部屋に入ってきた。
エリカは実験していたものが置かれているテーブルの椅子にルイを座らせ、両手を目に当てた。
「え?何?何?」
「ミエル聖女様が以前やってくれたのを思い出したものなんですが、本当にすっきりするので、ちょっとこのまま居てくださいね。」
「エリカ、僕感動…し…」
ルイは最後の言葉を終えることができず、眠ってしまった。
以前、エリカがこっちの世界に来たばかりの時にミエル聖女がやってくれたように聖力を注いだ。心身ともに安静にしてリラックスした状態で眠れるように聖力を使ったからだ。
てへっ〜ルイさんお休み!
これで監視役無しの状態で自由行動ができる。
テーブルに置かれている2つのコップを大事そうに持ち上げた。
それからかかとを上げ、静かにドアに向かって歩くエリカは時々床の木がきしむ音にぴくっと一瞬歩みを止めた。そのたびにつま先に力が入って足が痺れそうだった。
ルイを眠らせることまでは成功したが、ミエル聖女のように爆睡させるようなことができたか?と聞かれると、分かりませんと答えるしかない。
治療の為の聖力は何度も使っていて慣れているけど、眠らせるのは今回が初めてだった。
もしかしたら大きな音で起きてしまうかも知れないと思ったので、エリカは自分の部屋で泥棒のように歩くしかなかった。
やっと部屋を出られた。エリカは心の中で快哉を叫ぶ。
短い足でバタバタと歩いて行った。