勉強を始めます。④
「は~」溜息しかでない。
やっとミリスが自室に戻ってくれた。
久々に好きだった人に会ったせいか胸の高鳴りが抑えられない。
理性と体と心理状態が全部バラバラになっているようなこの感覚はどうしたらいいのやら。
やっと一人になれたので、集中して治療水に関する部分を読んでいたが、思わず溜息と同時に「はぁ~困ったな。」と声を出してしまった。
本に薬草の名前だけが書いてあったので、どんな草なのかさっぱり分からない。
トントン。
ノックの音と同時にルイが少しドアを開け、その隙間から顔だけをひょっこり見せては声をかけてきた。
「やぁ〜どうしたの?溜息が部屋の外まで聞こえるから気になってさ。」
「うっ。」
「えーエリカ?!もはや隠す気すらないでしょ?顔に思いっきり嫌だと書いてあるよ?
僕はガラスのハートだから、傷ついて今にも割れそうだ。はは〜冗談はここまでとしてどうしたの?悩みあるなら聞くけど?」
「ルイさんに言ったらどうせ誰かにチクるでしょ?監・視・役だから。」
「監視役のとこ強調すごくない?まぁ、誰にも言わないから言ってみなよ?もしかしたら僕が役に立つかも知れないじゃん?」
「…」
今の一番の悩みは、心身が理性とかけ離れた行動を起こすことだが…
誰かに相談してどうにかなる問題なら、ルイさんでも構わないから私の話を聞いてくださいと言いたい。しかしどうにもならない問題なので…薬草のことを聞いてみることにした。
「そこでひょっこり顔出し止めて、入ってきてください。」
ルイは特に何も言わず、エリカの言うとおりに部屋に入った。
エリカが座っている机の近くまでゆっくり歩きながら、何の本を持っているのかじっと見た。
「えーと、ベアパ草って知ってますか?」
「知ってるよ?」
「本当に?」
「あは~治療水でも作ろうとしているの?」
「えーなんで分かったんですか?」
「君が持っている本と…本を見ながら聞くからさ!」
えん?ルイさん今「本と…」って言わなかった?
もっと何か言おうとしてやめたのか?
私が世界で一番嫌いなことは、言葉を途中でやめることだよ!あんたが前世のエリカに出会っていたらかなり懲らしめてやったのに…
ちっ、今の私にはそんな力はないから、気になるけど、しょうがないわね。
必要な情報でも手に入れよう。
「あーそうですね。」
「なんで作るの?」
「見たら分かるじゃないですか!勉強ですよ~」
両手を腰に当て胸を張って前に出してみるが、お腹のほうがもう少し出てたので恰好つかない感じになってしまった。
その姿をみたルイは大きい声で笑ってしまった。
「ルイさん!しっ!!夜中ですよ?」
「あ〜ごめんごめん。ベアパ草ってそこらへんにいる草だけど、神殿の中にはないね。
明日採ってきてあげるから、もう溜息つかないで寝なよ。」
「本当?ルイさんありがとう~」
初めて見る、心からの笑顔をみたルイは少しドキッとした。
駄目だ。あんなちびっ子にドキッとするなんて、まだまだ修行が足りないなと思ったルイはエリカにお休みと言って部屋を出て、ドアの前で護衛任務を続けた。
普段なら絶対言わなかったはずだが、アクスからエリカが治療後にお金が無くて治療を諦め出ていこうとした子供に走って行って治療してくれた話を聞いたので、前より好感を持つようになっていた。
神殿の中は貴族か平民かで派閥が分かれていて、お互い業務関連で話すことがなければ、挨拶くらいでお互い言葉は交わさない。
聖騎士も同じく二つの派閥に分かれているが、ルイは貴族、平民関係なくほぼ同じ態度だったし、全般的に仲良く過ごしていたので、神殿の中のできことなどの情報収集は誰よりも早かった。
最初はただ興味深いとしか思わなかったけど…
あんなに愛溢れた子であれば、いずれ良い聖女になりそうだ。
もう少し見て判断すべきだろうが…今のところは合格!
「まぁ〜部屋の中だし拉致られることはないだろう。ベアパ草でも採りに行くか~」
***
知らず知らずゆっくりとエリカはとても優しい子と周囲に誤解されていくのだが、そんなことには全然気づかず、とにかく喜んでいるエリカだった。
よし!やった~
ルイさんっていつもムカつくチャラ男だと思ったけど、こんな風に役に立ってくれるとは思わなかった。
一番の悩みはミリスのことだが、今はどうにもならないので、次の悩みであるベアパ草は解決できたから、これでひとまず眠れそうね。
う〜疲れた。
子供の体で夜中遅くまで起きているのはしんどい。
「今日もお疲れさまだった自分!偉いぞ~」
自身の右手で頭をなでなでしながら眠りについた。