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勉強を始めます。②

本日のお仕事の時間。

エリカは張り切って治療に専念していた。


「はーい、次。」


「はぁーい、次。」


「はいっ、次。」


どんどん治療を終え、「はい、次。」と次の患者を呼ぶエリカの声が綺麗に響いた。

そんなエリカの後ろで、クスクスと堪えきれなかった笑い声が少しずつ漏れ始めた。

その声に反応したエリカが後ろを向くとぴくっして固まったルイと目が合う。


やれやれ、人が頑張っているのに何がそんなに面白いわけ?

意味が分からない。

軽そうな人だとは思っていたが、治療中にこれは無いだろう!

溜息しか出ない状況だと思ったが、エリカはあえて何も言わず、また治療に戻ろうとした。


「…次。」


「くっ…。」


「ルイさん、集中できないので出ていてもらえますか?」


「いやいや。監視役が離れるわけには行かないよ。もう笑わないから…くっ…」


この...!言っている言葉と顔の表情が一致しないんですけど!?


そう言えば、気のせいだろうか。

最近ルイの護衛(監視)時間が増えているような気がする。

ルーベルの性格上、同僚の勤務時間が増えていることに気が付かないわけは無いだろうし、放置しているとも思えない。

どうなっている?仕事の時は集中したいからルーベルさんの方がいいな。


エリカが自身と一緒にいることを嫌がっているのも知らず、ルイはエリカを観察していた。


まじで面白い。今は何を考えているわけ?

エリカは自分がどんな表情をしているのか、分からないだろうな。

考えているのが顔に全部出ちゃうんだよな~

子供ってみんなそうだけど、エリカはもっと表情が豊かな気がする。


そうだった。

エリカは自身がどのような表情をしているか知らなかった。

前世の記憶の通り、自分はちゃんと顔の表情もコントロールしていると勘違いしていた。

治療の前に患者の傷がひどいと、今にも泣きそうな顔をするし、治療がうまくいったら、それに合わせ満足気な顔になったりする。

それに対し誰も指摘しないので、エリカ自身は気づかなかった。


治療室で休憩時間をとっているときにルイとルーベルが交代をした。

おー。やっとルーベルさんがきた。

さっさと帰れ、うるさいルイ君よ。


「おいおい、エリカ。僕が帰るのがそんなにうれしいのか?」


「いえいえ。ルーベルさんが来てくれたのでうれしいだけです。」


「あぁ〜寂しいな僕…」


「ルイ。早く戻れ、休むのも仕事のうちだ。」


「はーい。じゃあね~聖女見習いさん」


ナイス!ルーベルさん!!


「ルーベルさん最近ルイさんのほうが長くいるように感じるのんですが、何かあったんですか?」


「いや。ルイは報告書など書面関連の業務が苦手で、、」


「あは~ルイさんの分をルーベルさんが行いその代わり私の護衛時間が増えたってことですね。」


「そうだ。」


ルイさんは書類関連が苦手ね。

なんか軽い人だし本当に苦手かも知れないけど、やりたくなくて苦手なふりをしているような気もするんだけど、、これはルーベルさんには言わないでおこう。


「そういえば、図書館で書いた聖力に関する報告書の書き方だが、聖女見習いは誰かに報告書の書き方を学んだのか?」


「いいえ。特に書き方など指定されていなかったので、私なりに書いたのですが、何か問題でもありますか?」


「問題はない。とても見やすく整理されていて驚いた。」


「良かったです。頑張りました。ははっ。」


「今後こちらでも書き方を参考にさせてもらってもいいかな?」


「はい。」


「この書式のように作成させれば、ルイも今後書けると思う。」


うわーやばいよ。

無意識に前世の記憶のまま、報告書を書いてしまった。

というか、ルイさんってマジで書くの苦手だったのか…


***


休憩も終わり、また治療の時間が始まった。

思ったより緊急治療の必要な患者は見えなかったので、「もう聖力がないです」と嘘をつき、仕事を終えることにした。


日に日に患者が増えているような気がする。

いつもただ働きをしているわけだし、今日はこのくらいでいいだろう。命に関わるような患者も居なさそうだし、部屋に戻って図書館で借りてきた【聖力の活用法】という本の続きでも読もうと〜。


治療室から出ると、アクトとアクスが並んでいた患者たちに「本日の治療は終わりだ」と告げていた。最近、治療室の護衛騎士のお二人とも名前で呼び合うほど親しくなった。


「アクトさん本日もありがとうございます。」


「エリカさん、本日も大変でしたね。」


「あれ?アクスさんが居ませんね?」


挨拶をして帰ろうとしたエリカはいつものようにアクトとアクスは2人とも治療室の近くにいると思って声をかけたが、今日はアクト一人が見えなかったので聞いたのだった。


「アクスさんなら、あっちに居ますよ。」


「あれれ?今日は何で出入り口の方にいるんですか?」


「列の一番後ろにいた男の子ですが、次の治療日まで待機する部屋代などが支払えなくなったようです。どこかに隠れて治療を受けようとする人もいるので…神殿の外まで出すのもこちらの仕事です。気の毒ですが、仕方ありません。」


そうか。ここに来ている患者ってみんな平民や貧民街の人たちだった。

治療を受けるまで待つしかないシステムだった。

私が今日はもう治療できないと言ったから…


「あの子はどうなるんですか?」


「治療は神殿でしかできないので、我慢してまたお金を貯めてくるしかないですね。」


「薬局とかは?」


「薬局って何ですか?」


その瞬間、エリカは走り出した。

アクトは走って行くエリカを止めるべきかと、一瞬、悩んだが…。

エリカの向かう方向先にはアクスがいたので、そのままいることにした。


「アクスさん!待って!!!」


周りに他の患者や神官がいないことを確認したエリカは、帰ろうとした少年の手を掴んだ。

木々の裏に少年を連れて行き、診察を始めた。その姿をみたアクスは知らないふりをして、少し離れた場所から神殿関係者などが来ないか見張りをしてくれた。


「名前は何?どこが痛い?」


「ユージン。お腹が痛い。弟も妹も同じ症状だけど、お金がなくて僕しか来れなかった。それも泊まるお金がなくて…」


話を聞きながら、エリカはユージンの治療をした。


「もう痛くないでしょ?」


「あれ?本当だ。もう痛くない。聖女様、ありがとう!」


「ユージン次回の治療日にまた来てくれる?その日、兄弟の治療もしてあげると約束する。」


「でも3人、入るお金が…」


「ユージンだけでいいの。宿泊代はいらないし、その日神殿に来てくれたら私が何とかするから、今日の話は誰にも話しないと約束して。」


「お金はお母さんにもらうから、話さないと来れない。」


「そうか。お母さんにはいいよ。でもユージンのお母さんとユージン以外の人に話したら弟と妹の病気を治してあげないからね。」


「うん。わかった。」


離れたところで見張りをしてくれていたアクスは木の裏に隠れているエリカが出てくるのを待っていた。


エリカは優しいな。

お金がなくて出ていくしかない子供のために、あんなに必死に走ってきて治療するとは…。

やや勘違いをしてしまったアクスだが、そんなことの知る由もないエリカはとにかく彼らを黙らせようと思った。


「アクスさん今のは監視役の護衛騎士さんたちには今の内緒にしてもらえますか。」


「心配しなくていい。私たちは護衛をするだけで監視役ではない。」


エリカの優しい心に感動したアクスは顔を真っ赤にして必死に涙をこらえながら話した。


「あ、ありがとうございます。」


「それにしても本当に優しいんだな。

本日も聖力の限界まで使ってもう無理だっただろうに…また生命力を削ったか…

今回は見逃すが、次から止めなさい。エリカ、いや、聖女見習いに何かあれば3区域ではもう治療を受けたくても受けられなくなる。」


えん?アクスさん何か誤解しているけど?

えぇ?!あっちではアクトさんが涙を拭っているように見えたけど?!


エリカはただ【聖力の活用法】という本で聖水に関する内容を読んだ記憶があり、それを試したかっただけだった。

たまたまルーベルが治療室で治療に関する報告をまとめていた。

その間、外でアクトとアクスが話をすると先に出て行ったエリカは、たまたま薬局がないことを知り、たまたま話が通じそうな子供であるユージンと話ができた。


ふふふ〜今日はラッキーな日だな。

部屋に戻ったら本の続きを読もう。明日は聖水を作ってみよう。

ちょい悪顔になってにやっと笑みをするエリカに気づく人はいなかった。

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