聖女見習いの仕事(治療の時間)
わー。
神殿は私のいた部屋とは雰囲気が全然違う。
この床って大理石?壁はなんの石だろう?
ところところ粧飾に使われているあれ…金色に輝くあれは…金?!
おぉぉー。銀もあるじゃん。
元エリカの記憶で何となく知っていた神殿の姿は頭で分かってはいた光景よりもはるかに高価そうに見えた。
あの粧飾品を取ってでも神殿を逃げ出したい。
今朝の食事も昨日と同じメニューだった。
お世辞にも美味しいと言えないような食事なのに量も少なすぎて全然食べた気がしない。
これでは神殿を抜け出す前に空腹で倒れそう…。お腹すいたよ。
私のお守り役のエヴァーは記憶通り、3区域の治療室に連れて行ってくれた。
神殿の通路を出て外をしばらく歩いた。
治療区域に近づくに連れ、先ほどの神殿の雰囲気とはガラッと変わって貧乏な匂いがしてきた。ただの木造だけのシンプルな空間が見え始めた。決してエリカの部屋の窓から見える貧民街のような建物ではなく、立派な木造の建物だが、神殿とのあまりにも大きなギャップにどうしても貧乏に思えるのは仕方がない。
治療室の近くには、聖騎士が2名立っていた。聖女見習いが攫われることもあるため、配置されているそうだ。
「今日も頑張って下さい。」
「はい。」
診療室の前には、30人ほど並んでいた。
みんな体調が悪そうに見える。
だけど…。聖女見習いの力じゃ2名が限界だっけ。
だからこの体の元主は生命力を削ってまで治療しようとしていたのか。
多分私と違って優しい子供だったんだろうな。
でもバカだよ…。自分が消えてしまったら、意味ないもの。
エヴァーが一番前に並んでいる人を連れてきた。
赤子を抱きかかえている女性だ。
「聖女さま、うちの子を助けて下さい!順番になるまでもう4日も待ちました。もうぐったりしてしまって泣きもしないです。」
「…見せて下さい。」
赤子の命はまるで細い糸でやっと繋がっているようだった。
そういえば、私は元の本物の聖女見習いのエリカじゃないけど…聖力ってうまく使えるのかしら?
今更だけど、練習しておけば良かった。
とにかく今は集中して、記憶通りにしてみるしかない。
両手から温かい光を出すイメージで……おぉー私にも簡単にできる!
スススッ。
エリカの聖力によって、徐々に顔色が良くなる赤子。
ある程度、光を注いだら自動的に止まった。
治療が終われば、自動で止まるシステム?便利だ。
「ありがとうございます!」
母親は嬉し涙を見せ、何度も感謝の言葉を言い渡して、次の患者が入るタイミングで出て行った。
あれ?これって普通に治療費、貰えないのかしら?
はい〜次の方、来ましたか!
今度は脚を骨折した叔父さん?
いや、叔父さんにしてはやや若い。
とにかくエヴァーがちょうど席を外している今のうち聞いて見るか。
「あの…患者さん!治療費って出しましたか?」
「勿論です。診療室に来る為に神殿の入り口で支払いました。それにしても治療まで待つ為に借りた部屋と食事代が想定よりも掛かってしまったので、今日まで治療して頂けないのなら、諦めて出ていくしかありませんでした。今日で自分の番になったので本当に感謝しかありません。ありがとうございます。」
ちっ!神殿では患者にお金を取りながら、治療に当たっている聖女見習いには給料無しっておかしくない?
これじゃ…こっちで患者から直接お金を貰えそうにないし、神殿暮らし中にどうやってお金を集めるか考えないと…。
「はいはい、大変でしたね。早くケガしている足を出してください。」
初めとは違って緊張が収まったおかげなのか、数秒で治療を終えた。
うん?記憶より治療時間早くない?
さっきの赤子は治療時間が掛かったけど、記憶よりは早く治療ができた。
今回の骨折の患者はもはやエリカ史上最短治療じゃない??
2人目の患者が出て行ったタイミングで聖騎士が入ってきた。
「聖女見習い、普段より治療時間が早いが、聖力はまだ使えるか?」
「はい。次の方を入れて下さい。」
3人目で限界が来るのだろうかと思っていたが、問題なく治療を終えてしまった。
聖騎士が心配そうな顔で一人ずつ案内する度に同じ会話が繰り返された。
「聖騎士さま、限界が来ましたら、こちらから声をかけます。どんどん入れて下さい!」
「……了解した。」
本当にいいの?
と心配そうな目で見られたが、エリカはあえてその視線をスルーして治療に専念した。
こうなったらさっさと終わらせて帰るべし!
多分これって転生者の特典みたいなものだよね?
ふふふ。
神様〜お金に関する恨みはスッキリさっぱり忘れます。
この壮大な力があれば、ここを出ても問題なく稼げる。
治療限界は2名ほどのはずですが、その限界が無くなりました〜聖力最高!
ニヤリとちょい悪い顔をしているエリカだった。
* * *
午前中に3区域の治療が全て終わった。
まだピンピンしてるけど…。
このままだと他の区域の治療も任されたりするのかな?
それは絶対に嫌!
力の無いふりをして部屋に戻ろうか。
「あの…聖騎士さま、私は力を使いすぎたようです。部屋に戻って休んでもいいですか?」
「うむ。では部屋まで送ろう。」
「ありがとうございます。」
聖騎士は聖女見習いが仕事を終えれば、同じく仕事時間は終了のようで、こちらの聖騎士が私を部屋まで送ってくれることになった。
もう一人の聖騎士はエヴァーに状況を伝えに行った。
「では聖騎士さま、行きま、、しょうぉーぉっ!」
聖騎士がいきなりエリカをお姫様抱っこして歩き始めた。
えぇぇ!?何なに?力の無いふりのせい?私…やりすぎた??
せめて歩ける力は残っているくらいにしておけば良かった。
この歳でお姫様抱っこなんてこれは恥ずかしすぎる!
しかも…まともな恋愛すらやったことない、おばさんにはお姫様抱っこも刺激すぎるって!
何とか恥ずかしい気持ちを顔に出さないように頑張っているエリカだったが、頬から始め勝手に顔全体が赤く染まり始めるのを抑えることはできなかった。
ちょっと顔が暑い気がするんだけど…何だか徐々に体にも広がっていく感じがする…。
「あれ?聖女見習い大丈夫か?熱が出たようだ。顔が赤い。早く戻るからしっかり捕まえろ!」
「…ははっ。だ…大丈夫です。揺れすぎると気持ち悪いので、このスピードでお願いします。」
「あ…そうか。分かった。」
何だか恥ずかしいと思う傍ら、こんなことも経験してみたかったと思ったエリカはゆっくりその時間を堪能するのだった。