研究者から聖女見習いになる
40代にして美魔女的な外見。
天才的な薬研究者として名を轟かせ、次回の研究にも期待されていた、ちょいお金持ちのエリカはどこに行った?(やや自分の容姿に寛大で自己分析がきちんとされていないエリカである。)
鏡に映っているのは5歳くらいのちびの女の子だった。
しかも髪の毛は銀?白?灰色?なのか?
瞳の色も紫?ぽいけど、赤か?
部屋が薄暗いのでよく分からないけど、ファンタジーっぽい色だわ。
寝て起きると、知らないはずの部屋のベッドに寝かされていた。
知らないはずなのに何だか見慣れている感じがするし、気持ちは平穏な状態だった。
6畳くらいの部屋は木造で机など一人暮らしに必要な物が色々ある。
埃などは無く、綺麗に整頓されているけど全体的に古い。小さな窓から見える外の風景は板で作られたような家がずらりと並んでいて、貧民街のような感じがした。
人生のやり直しと聞いて、21世紀の地球だと思ったのに…。
はぁーここはどこなのよ?
ここは私の知っている地球と全然違う!!
目を覚ましてしばらくすると、この体の記憶が頭の中に流れてきたので、今の私は力なき子どもに過ぎないことやここが異世界であることが分かった。
名前はエリカ。前世の私と同じ名前だが苗字がない。
体がすごく小さいけど、7歳らしい。
神殿暮らしの孤児だが、聖女見習いに抜擢され一人部屋を貰えている。
聖女見習いは5人いて、それぞれ担当区域がある。
基本的には聖女見習い同士で顔を合わすことは無い。各担当区域から来る病人の治療が聖女見習いの仕事である。
この世界には聖力というものがあり、人の治療ができる。
かなり不思議なので、ここが異世界であることにすぐ納得した。
聖力というものを使い過ぎると生命力を奪われるので、自己防衛のため気絶するらしい。
その他、神殿での生活関連の記憶しかない。
この世界や国などの情報は全く記憶から探ることもできない。
一旦、状況から考えるとこの体の元の主のエリカはおそらく生命力を使い切って亡くなった。その体が冷え切る前に私の魂が入ったってことかな…?
何はともあれ、この世界でも生きる為には知識とお金は絶対必要だよね?
ついでに贅沢な生活の為にも知識とお金だよ!
うん!全ては知識とお金に帰結する。
そういえば、聖力って万能すぎる。大抵の病気やケガは治せるし前世でこんな力があれば、間違いなく大金持ちになれそうだ。
まあ、治療中に力が枯渇しなければの話だけど…。
治療中に力が枯渇して倒れたら患者も死ぬんじゃない?こわっ〜。
この体の元主のエリカも聖力の枯渇で亡くなったわけだし、患者が死ぬのも怖いけど下手すりゃ私も死ぬってことよね?力の配分は大切そうだ。
元の体の主であるエリカは患者の治療の為に生命力を削ってまで力を使い、霊魂が消えて亡くなった。そのおかげで今のエリカの聖力の器は歴史上の聖女の中でも最高の大きさになっていることに気が付くのは、もう少し先の話である。
エリカは机の上にある1冊のノートを見つけた。
日記?というよりも生活パターンを書いてるだけだが…読んでみると…。
ここでは曜日がなく、1日〜7日で数える。1週間が過ぎるとまた1日が始まる。
4週が過ぎると、1ヶ月ってなるっぽいけど、聖女見習いには特に必要ない情報だから知らないっぽい。前のエリカの頭は、病人の治療とお祈りでいっぱいだった。
1日、体を清めて、お祈り時間
2日、治療時間
3日、休み
4日、治療時間
5日、休み
6日、治療時間
7日、休み
治療の次の日に休みなのは、まだ聖力が弱い聖女見習いは、一日で治療できる患者が2名ほどで自身の生命力を削らないぎりぎりまで力を使うと熱を出したりと体の不調が発生して基本、寝込むかららしい。
このルーチン生活で歳を取るに連れ、力も増加すると、この頭の中に記憶されている。
トントン。
「エリカ入りますよ。」
食事を持って部屋に入ってきたのは、昨日この体に入った時にちらっと見た顔だ。
確かミエル様が今の聖女で、あの人はエリカのお守り役の神官のエヴァーだ。
「エヴァーさん、おはようございます!」
「まぁ、エリカもう起き上がってもいいのですか?」
「ええ、大丈夫です。」
良かったとエヴァーは言い、テーブルの上に食事を置いて出ていった。
スープとパンだった。スープの中には細かく切られた野菜らしきものが少し浮いていた。
こんなもの食べるから…体が小さいわけだ。
見た目は栄養失調になりそうな食事メニューだが、味はどうだろう。
スプーンを持って一口飲んで見ると、予想を裏切らない味だった。
……だよね。
見た目からしてこれなのに美味しいわけないよね。
スープの味は薄いし、パンは硬かった。
前世の私ならこんなもの絶対食べないだろうな。
ダイエットの為に好きな物を思いっきり食べることはしなかったけど、それでも栄養満点の美味しいもの食べていたのに…。
こんなところ!! お金があれば、さっさと出ていきたいが、今はそれも不可能である。
はぁー。これじゃ…。前世と変わらないってことよね。
親無し、家無しの孤児であるエリカは今世も置かれている場所に我慢して生きるしかないよね。
まぁ〜小さい時は…。
そう言えば、聖女の任命は15歳の時に行われる。
そこで任命されたら、神殿からはもう逃げられないだろうから…。
その前にこの世界の情報集めと必要な勉強をする。その後は何としてでもお金を集めよう。
それでこんなところ出ていってやるんだから!!
グーグゥー
色々な考えをしながら意気込んでいるエリカのお腹の虫が大きく鳴り響く。
うっ、誰もいないけど、恥ずかしい。
生き残るためにまずはこれっぽちの食事でも食べよう。
「空腹は最高のご馳走のはず!頂きます。」
微妙な顔で食べるエリカだった。