異常な神殿③
エリカは両手で自分の頭を抑えながら、叫んでいた。
誰にも聞こえないように心の叫びを…
う~うっ!あぁぁぁ!!!
視野が共有できても何も聞こえないし、喋れないしリュートとリューラに何があったのよ?
私の大切な労働力たちが落ち込んでいるじゃない?
お願いしている仕事もまだ終わっていないそうだし…
リュートとリューラは未だに恩返しのつもりだと思うけど、こっちにしちゃ、ただ働きをしてくれている子供だから、「早く終わらせなさい」とも言えない。
この機会に主従関係を築いておく?
とは言え、いずれ神殿を出る身。あまり神殿関係者同士で色々知られたくはない。
チビカとりあえず戻ってこい~
ベッドの中で横たわってあれこれ考えていると、ミリスがノックをして部屋に入ってきた。
「エリカ寝てる?」
「いや。寝てはないよ。」
「そう…今日10歳になった孤児院の子たちの所属発表があったんだけど、例年より戦争チームの人員確保が多いみたい。」
話を聞いていたエリカは不思議に思った。
ぶっちゃけこのエリカは神殿から出ていく目的で色々勉強はしていたけれど、神殿自体にあまり興味はなかったので、詳しく調べてもなかったし、誰かに質問もしてこなかった。
そういえば、戦争チームってなんだろう?
この世界は人族の区域は決まっていて、他の種族が侵略してくるという話は聞いたことがない。
「ミリス、戦争チームって何するの?聖騎士とは違う?」
「一応聖騎士だけど…聖騎士の中でも神殿勤務の聖騎士と戦争区域勤務の聖騎士に分かれていているの。ちなみに選ばれた人たちの中で聖力の低い順に戦地に送るメンバーとして選ばれるから、実際戦争チームになってしまうとほとんどの人は死ぬから、嫌がられる所属だよ。」
「そうなんだ。でも誰も神殿に攻めてきたことなんてないじゃん?一体誰と戦うわけ?魔族とか?」
「えっ?基礎知識の授業で全部習ったはずなんだけど…忘れた?まぁ、聖女見習いは学ぶ量が少ないのかしら?戦うのは同族だよ。」
「人間同士?何で?」
「今の神殿のあり方を変えると戦っている反乱勢力がいるんだけど、まぁ~ほとんど聖力を持っていないか神殿に入れないほどの少ない力を持っている人々の集まりだから街まですら攻めて来たことない。」
「だったら何で戦争チームの聖騎士はほとんど死ぬの?」
「そこまでは私も知らないから、今度聖騎士の誰かに聞いてみたら?」
「分かった。」
もしかしたらリュートとリューラのどちらかが戦争チームになってしまったのかな?
後で手紙を書いて夜会ってみるか。
ミリスが持ってきたお昼のジャガイモスープと硬いパンを食べようと起き上がるエリカの腕を掴んで支えてくれた。
「そういえば、聖女見習いの聖力再検査日がそろそろ決まるころね。力によっては聖女見習いの中でも戦争チームに選ばれることもあるから心配だよ…」
「えん?そうなの?」
「聖女見習いになって1年後にするけど、戦争チームにいる聖女さんが問題なければ、選ばれることなんてないけど…今年は戦争チームの人員が多めに選抜されたというからね。
エリカ、本当に基礎知識の授業聞いてなかったでしょ?駄目だよ~今度復習でもしようか?」
「それは…ちょっと…ミリスがからいいの~いいの~」
「え?駄目だよ。勉強は大事だよ?」
「は…い…。」
口を尖らせるエリカの肩を軽くタッチして、ミリスは出て行った。
「後で片付けに来るから、食べ終わったら休むなり、図書室なりしてね。」
未だにミリスの言葉には逆らえない。シクシク…
1年くらい食べてもやはりこの食事も美味しくない。シクシク…
軽く気分がダウンしたエリカだったが、さっさと食べ終わらせ、リュートとリューラに手紙を書いて、チビカに配達を頼んだ。
***
夜になってチビカをベッドにおき、エリカは静かに窓を開いた。
ふっふっふ~
今日の監視役はルーベルさん。ルイさんみたいに部屋にすっと入ってきたりしないから、絶対バレない。部屋にはチビカがいるから、気配は感じられる。真面目なルーベルさんを騙すのは簡単だよ。
『チビカここは任せた!』
『キュッ!』
任された、と返事するかのように短く鳴くチビカを一瞥した。
エリカは全身に保護の聖力をまとって、窓から飛び降りた。
うひっ! 何度やっても怖い。
もう少し下の階なら良かったのに!
忍者のように気配を消し、周りをキョロキョロしながら歩くエリカ。
事前に決めておいた場所は、孤児院の近くの木々や雑草の多いところ。やや大きな岩があるので、それを目印にしている。
孤児院の近くは見張りの聖騎士も少ないので、話しやすいから会うならそこがベストだ。
ー「おい!重いからしっかり持ってよ。」
茂みの中で袋を荷馬車に何かを乗せる二人の男。
その声を聞いたエリカは身を隠した。
こっちを通らないといけないのに、すぐ終わるのかな?
ー「結構重いね。」
ー「今日は何袋だ?」
ー「は…知りたくない。まだまだあるようには見える。」
荷馬車の隣にもう一人の男がいて、石で丸く印をつけているところを掘りながら話していた。
ー「毎年この時期は本当に嫌になる。」
ー「黙って、しっかり持って!」
ー「はいよー。」
ー「うわっ!何だこの袋。破れてしまったじゃないか。」
エリカは暗闇の中。月の光を頼りに袋から飛び出したものが何かじっとみた。
えぇぇ!!!
え?
マジか?
何で袋に??
声も出せず、固まってしまったエリカは、見間違いではないかと右手で目をこすって再度確認をした。
あ、ありえない…