Win-Winの契約をしよう
待ちに待った聖女見習いのお仕事の日、ユージンは来ているかな?
治療水はいくらで売れるかな~
まだ相場が形成される前だからいい値段に設定したいけど、、
貧乏な平民にはあまり取れないだろうし、一旦神殿で治療のために使っている費用から計算して料金設定しようかな。
「エリカ何だか嬉しそうだね。いいことでもあったの?」
「いや、昨日ゆっくり休めたから元気になっただけだよ。」
「よかった!さっきから気になったけど、そのコップは何で持っていくの?」
「朝飲んでいた水だよ…ははっ…」
「…あら?確かに治療室に飲み水は置いてないもんね。今日からちゃんと用意するね。」
治療室に向かうエリカとミリスはたわいもない話をした。
何がそんなに嬉しいのか終始笑顔のミリスをみていると、心がチクチクと痛くなる。
この体のエリカが反応しているのだろう。
本当に嫌な感覚だ…
***
治療室の前。
いつから待っていたか、ユージンはかなり前に並んでいた。
さっそく治療をはじめ、30分くらいでユージンの番になった。
ユージンが入ってきて何か言う前にエリカが先に言った。
ルーベルを治療室から出さないと話ができないからだ。
「うっ〜!!これは酷いですね。ルーベルさん集中して治療をしなければなりませんので、しばらく外で待ってもらえませんか?」
「本当は駄目だが…分かった。」
治療室を出る間も何度も振り返って心配そうにみてくるのだが、その視線を無視してユージンにルーベルさんが出るまで何も言うなと眼力だけで語りかけた。
通じたのかそれとも酷いと言われ、なんか大きな病気になったと思ったのか、ユージンは黙っていてくれた。
「聖女さま、びっくりさせないでよ。一瞬本当かなと思った。」
「いいから~これが治療水だ。」
コップの中をじっと見ていたユージンは「おぉ!」と小さく言って神を崇めるようにコップを見つめていた。
「問題はこれをどう持っていくのかだけど、うちには水筒とか入れ物がないのよ。」
「あ!聖女さまうちは家が遠くて水筒に水を入れて持ち歩いてる。」
ユージンは持っていた水筒の水を飲み干して、エリカに渡した。
エリカにこぼれないようにコップから治療水を注いだ。
手が震えて少し水筒の外に零れ落ちると、うぅっと反応するユージンを見ると面白いと思った。
「じゃあ、これをいくらで買う?」
「お金は…ない…本当は治してくれる気なかった?聖女さま嘘つき。」
「はぁ?よーく聞きなさい。世の中にただはない!」
「そうだけど…」
「最後まで聞きなさい。約束通りこれはあげる。」
エリカは水筒をユージンに渡して、話を続けた。
「今後定期的に治療水を作って販売するつもり。私は神殿から出られないから、売ってくれる人が必要だから、それをユージンがやってほしいの。販売価格は神殿で治療するまでかかる費用の半分。その販売価格の10%をユージンが貰えばいい。どう?」
「なるほど…」
まだ子供だからこんな難しい話が理解できるか不安だったが、意外とユージンはしっかり理解していた。おそらくもっと幼いころから仕事をしているから理解が早いのもあるけど…
ユージンは賢い子だと思った。
「毎回ユージンが神殿に来るわけには行かないから、連絡を取る方法と治療水を渡す方法など考えるから2週間後にまた来てくれる?あと治療水の効果は人によって違う可能性もあるから摂取した後の症状はしっかり覚えておいてね」
「うん。分かった聖女さま!」
「聖女さまじゃなくて、エリカだよ。」
「うん。エリカさま!」
「これこそwinwinというものだ~うへへへっ」
とりあえず、話し合いが終わったエリカはユージンに早く出ていけと、手を振って伝えた。
その意味を受け取ったユージンは顔で「うん!」と縦に上下軽く動かしては出て行った。
結構、気が利くし賢い子にみえるから、少し安心だ。
さて次の治療を続けねば…
ユージンが出ていくと、出て行った監視役のルーベルさんが戻ってきた。
エリカはいつも通り治療をする。
「次」
「次」
「次」
「はい〜次!これで今日の治療は最後にします。」
エリカの声に合わせて治療室の外に立っているアクスとアクトが並んでいた人々を解散させた。待合室に行き次回の治療を待つ人が多かったが、中には治療を受けられず、神殿を出ていく人もいた。
出ていく人々に混じって、両腕で水筒を大事そうに抱えたユージンも歩いていた。
ユージン、治療を受けて治った人々の帰りの足取りは軽かった。
やっと兄妹の治療ができると嬉しい気持ちでいっぱいだった。
しかも仕事もゲットできた。ユージンはエリカと一緒に頑張れば、もっと多くの人々を助けられるかも知れないと治療を受けられず帰る何人かの人を見渡しながら考えた。
これがイン・インというものなのか?
多くの人が幸せになるイン・インは最高だ!
エリカが最後に言った、winwinの意味も発音も同じようにできなかったが、、
ユージンは勝手に思った。
イン・イン最高!!
***
外の状況はどうであれ、最後の患者の治療を熱心にしているエリカ。
正直聖力の限界も知りたいし、全員治療してしまいたい気持ちもあるが、これ以上目立つのも良くないと思い、1日の治療人数は40人程度に決めていた。
「やっと終わったけど、血を流しすぎ多せいか、意識がない。」
困っているエリカをみて、ルーベルは両手を前に出して光を集めていた。
そこに現れたのはゴールド色の馬だった。
「聖女見習い、その患者は運んで置くから心配するな。」
「わーありがとうございます。
ルーベルさん、その馬は何ですか??格好いいです!!すごい~」
はしゃいでいるエリカの声を聞いた、アクスとアクト、交代に来たルイも治療室に入っていた。眼をキラキラさせながら神獣を見ているエリカが馬の周りをちょこまか動き回っていた。