毒じゃないから一気に飲みな
部屋から出てきたエリカは2パターン作った治療水をユージンに渡す前に人体実験をしようと思っていた。
木々に隠れては知っている神官が居ないか確認した。小さな腕の中に大事そうに抱えているコップから治療水を1滴たりとも溢さまいと慎重に運ぶ姿は赤ちゃんをポケットに入れている母親のカンガルーのようだった。
今エリカは孤児院の近くの木々の後に隠れていいカモを探していた。
記憶の中にある孤児院には体調の悪くなる子供がたくさんいた。
運が良ければ、お腹の痛みを感じている子供が二人くらい居るかも知れない。
そう考え、孤児院の近くをウロチョロしていた。さすがに子供でもたくさんの子たちに見られては困る。
この辺に良いカモはいないかな?
おぉ!見つけた。
手をつないで座り込んでいる二人の子供、顔がそっくりなので双子に見えた。
茶色の髪に肌は色白で前髪がぱっつんと切られているのが可愛い。
一人は髪の毛をポニーテールにしていて、もう一人は髪が短い。
女の子と男の子だと思う。
周囲に気づかれないようにそっと二人に近づくエリカ。
「おはよう。」
「おはよう。」
「だぁーれ?」
男の子はしっかり挨拶してくれたが、女の子はちょっと舌が回らない感じだった。
やっぱり体調がよくないんだ。
孤児院は慢性の人手不足だったし、
何人か死んでしまっても仕方がない感じだったような…?
うっすらとした記憶が残っている。
「ねー。私はエリと言うんだけど、お名前は?」
「僕がリュートと妹はリューラ。」
思った通り二人は双子で、時間の差でリュートがやや先に生まれ、お兄ちゃんだという。
エリカは念のため自身の名前をエリと伝えた。
「リュートとリューラはどこか痛い?」
「うん。昨日からお腹が痛くなって、妹は熱まで出てきた。」
「なんで部屋で休まないで出てきたの?」
「薬草でも探そうと思ったけど、孤児院の周りにはベアパ草がなくて…」
「ベアパ草を知ってるの?」
「うん。神殿に来る前にお母ちゃんが教えてくれた。お腹が痛いときはベアパ草を熱が出たときにはヘヨル草を食べる。でも神殿の中には薬草が一つも生えていない。」
「薬草に詳しい?」
「うん。お母ちゃんが薬草で色々作っていたから…」
やっぱり薬局という概念はないかも知れないけど、貧民街や平民は薬草を使って病気の治療をしているに違いない。これなら神殿治療よりも身近な薬局を作ったら儲かるはず!
にやっとうす気味悪い笑い声がでた。
ひひひ〜。
その姿をみたリュートはエリカをやや警戒をする。
「エリと言ったっけ?孤児院では見かけない顔だけど、どこから来た?」
「あ〜それは気にするな。それよりこれ一気に飲みな!」
「知らない人がくれるものを貰ったら駄目だ。」
「はぁ?リュートとリューラでしょ?私はエリ。さっき自己紹介も済んだし私たちは既に知ってる関係だよ。」
「そうなのか???」
リュートはきょとんとしてエリカを見つめるが、エリカは話を続けた。
「これ毒じゃないから信じて一気にのみな~」
にこっと笑って渡されたコップにはほんのりベアパ草の匂いがした。
リュートは神殿の周りをくまなく探したけど、ベアパ草は見つからなかった。
もうこのままどうしたらいいのか分からず不安になっていた。
しかも変な女の子が現れ、突然渡されたコップに戸惑ったが、迷う時間はもうない。リュートはともかくリューラは熱まで出してしまったし、このままだと命にかかわると思った。
ただエリという子を完全信用したわけではないので、先にリュートがコップに入った液体を飲んだ。
コクコク一気にコップの液体を飲み干すと、お腹の中から暖かい何かが広がる感じがした。
「わー!お腹の痛みが一瞬で治った。」
びっくりしながら感謝の言葉をいう間もなく、すぐさまリューラにも飲ませた。
リューラは症状が酷かったせいか、治りがやや遅めだったが、顔色もよくなったし眉間に寄せていたしわもなくなった。おそらく体が楽になったのだろう。
リュートはリューラの額に手をそっとおいて、熱を測っていた。
「エリ、ありがとう。本当にありがとう。」
涙を流して感謝の言葉を述べるリュートをよそにエリカは考えていた。
薬草の効果は即時効いて、その他症状はゆっくり治る感じかな。聖力を注いだ水だし、直接患部に聖力を注ぐのと時間差はあっても一応同じように治療に効果はありか。
どっちがもっと良いかも全然判断できない。リュートが飲んだのと同じやつを作ってユージンに渡してみよう。
「あの…エリ?」
「治って良かった。でもこれけっこう高いんだよね。」
「あ、ごめん。お金はない。でもエリは恩人だし、できることならなんでも手伝う。」
「絵はお上手?」
エリカはこの世界の薬草と雑草の区別ができない。
神殿にある本は全て文字ばかりで薬草の勉強をしたくてもできなかった。
それで薬草の図鑑がほしいと思っていたら、割と薬草に詳しい双子に出会えたのだ。
リュートは薬草には詳しいが、絵が描けないという。代わりに妹のリューラは絵が描けるというので、二人で一緒に作ってくれることになった。
リューラはまだ体調が完全に治っていないので、リュートの独断だった。
「週一回、図鑑の回収に来るから、よろしくね。」
複雑な形の薬草もあるし、リューラがうろ覚えの場合、現物がないと描けないことも考慮して分かる範囲で週に1つ用意してもらえたらいいと伝えた。
***
孤児院で見つけた双子の実験も無事に終え、考えもしなかった薬草の図鑑もゲット(予定)して気分をよくしたエリカは急いで部屋に戻った。
あとはルイがまだぐっすり眠っていて、ルーベルの交代がまだであれば…
完全犯罪成立だ!
静かに部屋に入るとルイはまだ眠っていた。
「ルイさん!すっきりしたでしょう?」
にっこり両端の唇を上げ、ルイの体を両手で優しく揺らした。
眠ってしまったことを自覚したルイは眼をパッと開いて周りをキョロキョロしたが、何もなかったことに気づき、エリカにありがとうと一言を残して、部屋を出て行った。
エリカは明日会うユージンに渡す治療水を作ってから、ベッドに横になって寝ているふりをした。そろそろお昼の時間だったので、ミリスがいつご飯を持って現れるか分からなかったからだ。
うへへっ。明日が楽しみ〜治療水はいくらで売れるかな?
お金を貯めましょ~貯めましょ~