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そしてお金は無くなった

エリカには親などの記憶がない。

雪の降る寒い冬。

産まれてすぐ布に包まれ、公園に捨てられていたのを近所の人に見つけられ助かったと孤児院の院長に聞いた。

孤児院で適当に育てられたエリカは、小さい頃から親が居ないことや服装などあらゆることに理由をつけ虐められた。特に小学生の時はきつかった。無垢な顔で人の心を切り刻む。


その時からだ。

他人に無視されない為には成功するしかないと考える。

ほとんどの時間を勉強に費やした。

頭の良い子と認識されてからは、目に見える虐めは減った。大人は偉いと褒めてくれた。おかげで大学も大学院も奨学金を貰って通えた。

大学の時はいい友達もできたと、喜んでいた時期もあった。しかし彼らは友達ではなかった。グループ課題の時に実感した。いい成績を取るために利用し合う関係でしかないことに気づいた。


大学院生の時は担当教授に研究結果を盗まれた。人間なんてみんな消えてしまえばいいと思っていた頃、運良く世界的な製薬会社の研究職に採用された。

良い給料で人間らしく暮らせると喜んだ。その数年後、研究していた傷を早く治せる薬を完成させ、エリカを含めチームみんなはその功績を称えられた。

特にエリカはその研究チームのリーダーでもあり、色々な発表会にも登壇した。

まさに今、エリカの人生はバラ色に染まり始めたところだった。


* * *


「土下座しなさいよ。

それで謝ってるつもりなの?

謝る時はどうすればいいのか、ママに教えてもらってないの?」


「申し訳ございませんでした。」


土下座をする後輩のスタッフをみて、満足したエリカは「次からはちゃんとしなさい」と言い捨てその場を去った。


あぁ〜使えないやつ。

一からやり直しじゃない!!

このプロジェクトの資金を集めるためにじじどもの前で媚びを売ったり、気を使ってプレゼントの用意とか、、どんなに頑張ったか。

わかるわけないよね。あぁ〜やっぱりムカつくなあいつ。

権力のある人には媚びを売ることも当たり前だと思うけど、、もう疲れた。


やはり自分を裏切らないのも、

自分を守れるのも、知識とお金だけだ!

このプロジェクトも成功させて、またすごい金額のボーナスかっぽり貰ったら、、

仕事を辞めて海の近くで静かに暮らそう。


あらゆる人間のせいで溜まりに溜まっていたストレスから解放され、

ダイエットの為に我慢していた揚げ物や甘いものも好きなだけ食べて、

かわいい犬と猫も飼って、考えるだけで幸せだわ~

買っておいた不動産も内装工事がそろそろ終わるし、貸出して家賃を貰っての生活。

年に一度は旅行にも行こう。

ふふふ~

近未来の幸せな暮らしを夢見ながら、今日の研究も励むのだ。



うっ、突然のめまい。

気持ち悪い、ぐるぐる回る。

目を閉じていても脳が回る感じで肉体と精神がバラバラになってものすごいスピードで回ったりゆっくり回ったりを繰り返していて、助けを求める声を出すことすらままならない。



突然のめまいのせいでエリカは研究室で倒れてしまった。



体の異常で倒れただけなら良かったものの…。

残念なことにエリカはこの世を去ってしまった。

過労死だった。


人に無視されない位置になるために、それなり高い位置になってからはそこに居続ける為に、とにかく前へ前へと走ってきた40年だった。


* * *


「エリ…エ…カ…エリカ起きなさい。」


ん?やっとめまいから解放されたのに、もう少し寝かせてよ!


「エ・リ・カ・起きなさい!」


聞いたことのない低い声?こんな冷たそうな感じの声の人っていたっけ?誰だろう?


眼を開けると黒い影がそこにいた。


「さぁ。行こう。」


…え?黒い影?

行くってどこにいくのよ?

聞きたいことは沢山あるが、声がでない。その黒い影が案内する道にそのまま吸い込まれるように跡を着く。ちらっと後ろをみると倒れているエリカの体がいた。

そこで初めてエリカは自分が死んだことに気が付いた。

ちょっと待って!私はまだ行けないよ!!

私の貯め込んだお金!!!お金をそのままにして行くわけないじゃん?

苦労ばかりして、エンジョイ・ライフもまだだよ?

世界一周も、スタイル管理の為に我慢していた食べ物も…。

まだ食べたことのない食べ物もたくさんあるのよ?

…この歳で死ぬのは、まだまだ早いんだよ。もう…ちょっと…後にしてよ…。


死の訪れはいつになるのか分からないと頭では分かってはいた。

分かっていたのに、千年万年生きるかのように前だけをみて走ってきた結果がこれなの?

何の為の人生だったのよ?

エリカが自身の人生を嘆いていたら、いつの間にか審判の天秤の前に着いた。


「左の方には大事なものを、右には自分自身が乗る。大事なものの方に傾いたら、永遠の安息の地、エデンに入場できる」と、どこからか聞こえてきた。


[大事なものはお金だよ。]と考えた瞬間、そこには今までエリカが貯めていたお金が現れていた。驚いていると、いつの間にかエリカも天秤に乗っていた。

ギギ…ギギギッ…ギギッと鉄のサビが取れる音と同時にエリカの方に傾いていく。


「可哀想な霊魂よ。君にはエデンに行く資格がない。人生のやり直しの機会を与える。そこで学び、変わりなさい。」


「人生のやり直し?あの…神様?それなら私の貯めたお金も下さい。」


「…。」


「神様?死神様?天秤様?

私の人生を捧げて貯めた、お金も絶対ですよぉーぉーぉー」


「…。」


* * *


「ミエル様、エリカが目を覚ましました。」


「おー神様、感謝します。」


えぐぐ、体が重い。思った通りに動かない。

そういえば、私のお金はどこにあるんだ?


「おーか···ne···」


「ミエル様エリカがお母さんって、、」


はー。と溜め息を吐くミエルはそんなエリカを哀れむ。


「エリカ今日は本当に危なかったわ。自分の生命力を削って治療するのはもうやめなさい。ではもう少しお休みになって…。」


そう言ってミエルは右手をエリカの目にそっとのせる。


ん?あなたは誰なの?

私のお金に手を出したら…絶対許さない…から…。


暖かく優しい光が広がるにつれ、エリカは気が遠くなることが分かった。

必死で眠らないと粘っていたエリカの精神力は得体の知れない光に包まれ、すやすや眠りについた。


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