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エピローグ

「リスベス先生、お世話になりました」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

「はい」


 私は、リスベス先生と言葉を交わす。


「マレン様、ご武運をお祈り致します」

「ありがとうございます。クラリッサ様もどうかお元気で」


 クラリッサ様とも言葉を交わした。別れの挨拶だ。

 そして、ハインリヒ様も。


「頼んだぞ、ハイン」

「ああ、任せろ」

「ハインリヒ様、どうかお気を付けて」

「ミルコもな。頑張れよ」

「はい」


 シルベスト殿下とミルコと言葉を交わしている。


 私とハインリヒ様は、一学年が終了した時点で、先生方からの推薦を受けて飛び級で学校を卒業した。そして、かつてクベントルと呼ばれていた辺境の地に、戻ることになったのだ。


 モンテリーノ学校は、大きく……というわけではないけれど、少しずつ変わってきている。最低限ここは教えなきゃ駄目、という所から始めて、今は退役した軍人たちも入るようになった。


 その辺りは結構色々もめた。また過去のようにクレームになっちゃ敵わないから、という理由だ。

 なので、人選は慎重に慎重に行った。前線一筋の人も、回復術士として後方支援していた人も、自分が見たこと感じたことをそのまま話してしまうような人では、学生相手には向かない。


 リスベス先生なら、とも思ったんだけど、あくまでも先生は教えるのではなく、"回復"に携わっていたいみたいだ。


 きっとこれからも、学校は変わっていくだろう。その最初の段階に携わることができて良かったと思っている。


 別れの挨拶を済ませて、私たちは一年通った学校を後にした。



 *****



「ハインリヒ・シラーです。再びお世話になります」

「マレン・メクレンブルクです。よろしくお願いします」


 今さらっちゃ今さらだけど、一応着任の挨拶だ。

 辺境の地、クベントルに戻ってきた。


「おー、帰って来たか」

「一年か。結構通ったなぁ」

「さっさと退学して帰ってくるかと思ってたのになぁ」


 返ってくる挨拶はこんなもんである。

 まあ、ダンジョンの出現がなかったら、一年通ったかどうか怪しいもんだけど。


「それよりお二人さん、婚約者になったんだって?」


「ヒューヒュー! 結婚式は辺境で挙げんだろ?」


「バッカ! マレンに婚約者がいるからって、ウジウジして何も言えずにいたハインだぞ。結婚式の話なんざ何もしてないって」


「それもそうか。んじゃあ、いっそオレらで結婚式計画しちまう? ドッキリ結婚式」


「いいねぇ、面白そうだ。マレンはシラッとしてそうだが、ハインがどういう反応するか、楽しみだな」


 ドッキリを仕掛けるつもりなら、いる所で話をするんじゃない。

 そう思って、何となく隣のハインリヒ様を見てみたら、耳まで真っ赤にしてうつむいてプルプルしている。


「ハインリヒ様、そういう反応するから、面白がられるんじゃないの?」

「……なんでマレンは平然としてるんだよ」

「この人たちの悪ノリに真面目に付き合うの、面倒だし」


 言ったら、ハインリヒ様が大きくため息をついた。それを見て、笑いが巻き起こる。


「ギャッハッハッハッハッ! 何だもう尻に敷かれてんのか!」

「情けねぇなぁ!」

「――うっせぇよ! 尻に敷いてくれる女を見つけてから言いやがれ!」


 あ、ハインリヒ様がキレた。殴りかかって、乱闘騒ぎだ。この程度は日常茶飯事だから、誰も気にしない。


「帰って来るなり、賑やかだな」


 ギャーギャー騒いでいる所に、ハインリヒ様の父君、ローベルト様がいらっしゃった。私は礼をして、ハインリヒ様も騒ぐのをやめる。


「また頼む、父上」

「ああ、ちょうどいい時に帰ってきてくれた。ダンジョンを攻略したお前の実力、見せてもらうからな」


 ハインリヒ様はニッと笑う。


 ついに、本格的にクベントルのダンジョン攻略に乗り出すのだ。ハインリヒ様も一緒に乗り込むことになっている。私は留守番だ。


 一緒に行けないことが、悔しい。私は魔術師になりたい。ハインリヒ様を近くで助けて治せる場所に立ちたい。

 だから、今は回復術士として精一杯頑張る。周囲からの信頼を得ることが、魔術師への近道だから。


 カンカンッ


 緊急を知らせる音が響く。一年離れているというのは、こんなに違うのか。聞き慣れた音だったはずなのに、ひどく不安をかき立てる。


「マレン、行ってくる」


 でも、ハインリヒ様はとても落ち着いている。その顔と声に、私の不安も薄らいでいく。

 差し出された右手に触れた。


「行ってらっしゃい、ハインリヒ様。――ご武運を」

「ああ」


 触れた手を、逆に引かれた。

 そのまま抱き締められる。


「お前が待っていてくれるから。絶対に、戻ってくる」


 耳元で小さくつぶやいて、ハインリヒ様は去っていく。


 これも、シルベスト殿下に教わったんだろうか。あまりに唐突な行動に、心臓のドキドキが治まらない。


「絶対に、か……」


 それがハインリヒ様の覚悟なんだろう。

 戦場に絶対はない。いつ誰に、何が起こるかなんて分からない。それを分かった上で、それでも戻ってくると言ってくれたのだ。


「よしっ!」


 手で頬を叩く。

 戻ってきたのだ。私も私の戦いをしなければならない。


「マレン、お帰り。さっそくだけど、役に立ってもらうわよ」

「はい、ウラ様。よろしくお願いします」


 せいぜい不敵に笑ってみせた。

 これが、私が自分で選んだ道だから。





ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

これで最終話です、と言いたい所ですが、あと一話番外編を入れて終わりです。読みたい人はいないかもしれませんが、ピーアのその後(南のダンジョン到着後)の話になります。

明日か明後日には投稿します。


マレンの両親の若かりし頃を知っている人たちが登場して、チラッと(本当に少しだけ)その頃の話をしますので、ご興味ありましたらぜひお読み下さい。


この作品は、色々と反省点もありますが、ろくに設定も決めず、最後をどう終わらせるかも決めずに書いたにしては、楽しくスムーズに書けた作品でした。


ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ドッキリ結婚式 ダンジョンの最奥でモンスター倒しながらの結婚式か >ピーアのその後 ダンジョンマスターになってマレンとハインリヒを待ち構えるルートキター?
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