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29.変化

「ねえ、ハインリヒ様ぁ。お昼休み、あたしと一緒にお食事どうですか?」

「断る」


 ダンジョン出現から一週間。日常が戻っていた。


 ちなみにダンジョンが消滅した次の日の休校日、先生方は原状回復に努めたらしい。所々痕跡が残ってなくもないけど、ほとんど気にならないレベルだ。


 そのおかげで日常が戻ったんだけど、相変わらず妹がハインリヒ様に付きまとっている。けんもほろろに断られているのに、よく懲りないなと思う。

 でも変わったこともある。


「ピーア。またハインリヒ殿に声をかけているのか」


「ファルター様ぁ、違うんですぅ。だってハインリヒ様、お姉様に騙されちゃってるんですよ。助けてあげなきゃ」


「まだ君はそんな事を言っているのか。いいか、俺はマレンに命を助けられたんだ。彼女は何も騙してなどいない」


「ファルター様までそんなこと言うんですかぁ? なんで、みんなしてあたしをいじめるの?」


 昼休みになるとファルター殿下が現れて、妹を諫めるようになったのだ。最初にそれを見た時には驚いたけど、婚約者の様子を気にするようになったのは、良い傾向だと思う。


「……だから、なぜ本当のことを言うと、いじめたになるんだ?」


 とはいっても、妹の謎発言にいつも悩まされているけど。こればかりは、ファルター殿下に同情する。


「ピーア、食事は俺と一緒にしよう。誘いに来たんだ」

「えー? あたし、ハインリヒ様とがいいですぅ」

「……君は、俺の婚約者だろう」

「ファルター様、ヤキモチですかぁ? 男の嫉妬は醜いですよぉ」

「………………」


 本当に謎すぎる妹の発言に、ファルター殿下が黙った。

 そんな殿下にどう思ったのか、妹が「フフン」と得意げに笑う。


「あたしの婚約者でいたいなら、ちゃんと王族続けられるように、王様に話を取り付けて下さいねぇ?」


 ちょっと、さすがにそれはない。王族じゃなければ婚約は続けない、と言っているようなものだ。思わず口を挟もうとしたけど、それより早くファルター殿下が口を開いた。


「なるほど、そうか。分かった」


 笑っているけど、その目はどこか悲しそうな目をしている。でもその目は一瞬だった。すぐに表情を取り繕っていた。


「だが、君がどう考えていようと、今の君が俺の婚約者である事には変わりない。来い。これ以上ハインリヒ殿にまとわりついていたら、君の評判はますます落ちる」


「えーなんでっ! いやぁ、ハインリヒ様ぁー、助けてぇー!」


 容赦なく引きずられている妹を、助ける人なんていない。いや、妹だけじゃなくて引きずっていくファルター殿下に対しても、周囲の人の見る目は冷たい。

 私はちょっと見直してるけど、一度下がった評価はそう簡単に上がらないってことなんだろう。


「どうなるんだろうな、あの二人」

「……うん」


 妹から解放されたハインリヒ様が、私に近寄ってつぶやいた言葉に、私は何も返せなかった。



 *****



 ファルター殿下の話からも分かるように、私の監禁事件の後も、妹はファルター殿下の婚約者のままだ。


 エッカルトは、事件のことを国王陛下に話したと言っていた。かなり渋い顔をされたみたいだけど、当主交代となることからお目こぼしされたようだ。

 タイミングの悪さもあるんだろうけれど、「かなり心証悪かった」と疲れ切った顔でエッカルトが言っていた。


 父と義母の領地行きは変わらない。

 妹は、勝手に処分できないからという理由でエッカルトは何もしなかったわけだけど、陛下も現状維持を選択した。


 浮気したあげくに、一方的に私に婚約破棄を突きつけたファルター殿下。この時、陛下はファルター殿下に「王族の権利を取り上げる可能性がある」ことをしっかり突きつけている。


 そして、ファルター殿下の婚約者である妹は、このまま婚約から結婚に進めば、第二王子の妃として王宮に上がり、王家の一員となる。"聖女の再来"としてチヤホヤされていた妹だけど、今はもうそれはなくなった。


 この状況でファルター殿下と妹がどう行動していくのか、陛下は見たいんだろう。二人のこの先がどうなるかは、その結果次第だ。



 *****



 その翌日、事件が起こった。


 ファルター殿下に手紙で呼び出された。

 何だろうと思って指定された場に行くと、そこに殿下はいなくて、いたのは妹だった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 殺すべきは速やかに殺しておかないと面倒が増える、という教訓になったりして
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