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24.王宮へ

「シルベスト殿下!?」


 学校から出ようと思ったら、そこは大騒ぎだった。

 一言で言えば、軍人の群れだ。


 誰かがその群れから飛び出してきて、殿下に頭を下げている。身なりからして偉い人なんだろうけれど、さて、誰だろう?


「お前か。ダンジョンには乗り込んでいないのか?」

「……あ、は、そ、その……シラー将軍が来るまで待機を……」


 そのお偉そうな軍人さんは、明らかに動揺した。目が泳いでいる。誰だこいつは、と思ってハインリヒ様を横目で見たら、妙に目が据わっていた。その反応は、どう読めばいいものか。


「まあ良い。見ての通り、ダンジョンは消えた。我らは国王陛下にご報告申し上げねばならぬ。通せ」


 シルベスト殿下は、舌打ちせんばかりの不機嫌さだ。さっさと歩き出した殿下を、そのお偉そうな人は慌てて止めていた。


「お、お待ち下さい、殿下! 今、馬車を……」

「不要だ」


 言い捨てた所で、ガラガラという派手な音が聞こえた。

 猛スピードで馬車が走ってきて、軍人さんたちが慌てて道を空けているところで、ピタッと殿下の前に止まった。


「シルベスト殿下!」


 中から出てきたのは、中年の男性だ。

 この人は私も知ってる。クラリッサ様の父君でこの国の宰相閣下、シュトロハイム公爵閣下。国王陛下の右腕として、とても有能な方だ。


「ご無事で何よりです、シルベスト殿下。ダンジョンが消えたとの報告を受け、急行致しました。これから王宮へ?」

「ああ、行こうとしていた所だ」

「左様でございますか。では、こちらへお乗り下さいませ」


 宰相閣下は何も聞こうとせず、馬車に乗ることを促してきた。今度は拒否することなくシルベスト殿下が乗る。その後ろをハインリヒ様が続いたけど、なぜか私に手を差し出してきた。


「お手をどうぞ、メクレンブルク伯爵令嬢」


 気取って言われて、顔が赤くなる。

 ドレス着ているわけじゃないしエスコートなんかいらない、と思うけど、催促するようにその指先が動けば、無視するわけにもいかない。


 おそるおそる手を重ねれば、照れた顔をしたハインリヒ様が、嬉しそうに笑ったのだった。



 *****



 馬車は、王宮に向かって走っている。ミルコが、隅の方でひどく居心地悪そうにしている。

 豪奢な馬車に尻込みして、乗ろうとしなかったミルコなんだけど、シルベスト殿下が容赦なかった。


「さっさと乗れ、ミルコ」

「い、いえ、その殿下、ぼ……私は平民の身分でして……」

「だからなんだ。さっさと乗れ」


 身分を盾に……っていうとちょっと違うけど、どっちにしても何とか逃げようとしたミルコは、結局逆らえずに馬車に乗った。


 そこまではまあ良いんだけど、一悶着があったのは、なんでか偉そうな人が馬車に乗ろうとしたときだった。当たり前のように馬車に乗ろうとするから、そういうものかと思ったら、宰相閣下がずいとその前に立ち塞がったのだ。


「なぜあなたが乗るのでしょうか?」

「わ、私は将軍だぞ! 如何に宰相といえど、敬意を払え!」

「あなたがダンジョンに乗り込んで解決したのであれば敬意を払いますが、ただ立っていただけの男に払う敬意はございません」


 そして、偉そうな軍人さんの前で馬車の扉を閉めて、問答無用で走り出した。その会話で、私はやっとその人の素性を知った。


「……初めて見たなぁ。あの方が、王都にいる将軍閣下なんだ」


 ローベルト様、つまりはハインリヒ様の父君の他にも何人か将軍がいる。そのうちの一人が王都に残っていることは知っていたけど、今まで顔を見る機会がなかったのだ。


「我が国自慢の将軍の一人ですからな。将来有望な回復術士殿が気に掛ける男ではございません」


 冷ややかに宰相閣下が言い切った。家の力とコネで将軍になったってもっぱらの噂なんだけど、この様子だと本当っぽい気がする。


「あの男のことはどうでもよろしい。シルベスト殿下、そしてハインリヒ殿とメクレンブルク伯爵令嬢には、王宮へ着いてからまず着替えが必要ですな」


 うっ、と言いたくなった。血がついてしまう原因を思い出すと、恥ずかしくて穴にでも入りたくなる。ホントになんで抱きついちゃったのか。今からでも時間を巻き戻したいくらいだ。


 ふいに、手が何かに包まれた。見れば、それはハインリヒ様の手だった。そっぽを向くハインリヒ様の顔は、赤い。


 振り払うこともできず、王宮に着くまでそのままでいたのだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 戦力が整うまで様子見、は間違った判断じゃないけどね 中に王子がいて中の戦力が自前で解決してなければ せめて将軍は仕事をしてるポーズに過ぎなくても威力偵察くらいするべきだった
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