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16.魔方陣が小さい理由

「それ以上はいいわ。もうやめなさい」

「はあっ!?」


 回復をしている生徒たちに声を掛けたら、苛立っている返答が返ってきた。睨み付けられる。


「低能は黙ってなさいよ! 回復をやめたら、助からないじゃない!」

「そんな魔術じゃ、いくら回復したって助からない。そのくらいに重症なの」


 私は冷静に言い返す。相手が黙り込んだのを見て、私は続けた。


「私が治す。でも人数が多いから、私は途中まで(・・・・)しか治さない。あなたたちでも治せるレベルまでは治すから、その後はよろしく」

「……は?」


 毒気が抜かれたようにつぶやかれたけど、説明はきっとクラリッサ様がしてくれるだろう。今さっき言ったように、重症者の人数がザッと見ただけでも多い。生徒だけじゃなく、先生の姿も見える。


 一人一人完全に治してはいられない。私の魔力にも限界はあるし、時間的な問題もある。彼女たちだって無力じゃない。できることをやってもらえばいいのだ。


 感心なことに、重症者は先生か剣術科の生徒だ。回復科の生徒はいない。シルベスト殿下あたりが関わっているのかも知れないけど、回復科の生徒は守り切ったんだろう。


 まず《診断ディアグノーゼ》を使って問題ないことを確認する。


「《傷回復・中(ハイレン)》」


 さっそく治療を始めた。

 ファルター殿下よりも重症だ。初級ではなく、中級の回復魔術を発動させる。やっぱり出現する魔方陣は小さい。


「ちょ……低能のあんたじゃ無理だってば。中級を使ったって治らなかった……え?」


 口を出してきた生徒の声が、最後は疑問に変わる。そりゃそうだろう。傷が明らかに治っているんだから。


「……なんで? なんで、そんな小さな魔方陣で? 私だって《傷回復・中(ハイレン)》使ったのに、全然治らなかったのよ?」


 一応その声は聞こえてはいたけど、答える余裕はない。いつだって、回復中は患者様の様子を注意して見ていなければならないから。


「確かに、魔方陣の大きさはその人の実力を現すと習ったわね。実力があるほどに、大きい魔方陣を出せると」


 私の代わりに解説を始めてくれたのは、クラリッサ様だった。


 そう。

 だから、小さい魔方陣しか出せない私は“低能”なのだ。


「……違うんですか?」

「間違っている訳ではないわ。でも、もう一つ魔方陣が小さい理由があるの」


 クラリッサ様は一度言葉を切って、さらに続けた。


「大きい魔方陣は、体全体に魔術をかけられるでしょう? その体全体に行き渡る回復の魔術を、小さく凝縮させて一点に集めると、魔方陣は小さくなるの。魔術がかかる範囲は小さくなるけど、その分回復能力は飛躍的に上がるわ」


「そ、そんなの、聞いた事ありません!」


「今、目の前で見ているのがそうよ。実際、辺境の地では魔術の凝縮ができなければ、役立たず扱いよ。こんな重症者ばかりを治さなければならないんだから」


 私は手を離した。傷はかなり良くなった。これであとはもう問題ないはずだ。


「クラリッサ様、残りの回復はお願いします」

「ええ、任せて。……申し訳ないわね、あなたに全部頼むしかなくて」

「謝罪して頂く必要なんてありません。今、学校に入学して良かったって初めて思っているんですから」


 私は笑って言って、次の人の治療を始める。

 本当に良かった。自惚れでも何でもなく、私とハインリヒ様がいなかったら、ここの人たちはきっと皆死んでいただろうから。


「《傷回復・軽(エルステヒルフェ)》」


 今度は初級の回復魔術。

 怪我の状態を診て、魔術を使い分けることも必要だ。より多くの人を診るために、魔力を無駄にはできないから。


 ある程度怪我を治して手を離すと、さっきまで文句を言っていた人が、無言のまま割り込んできた。そして、魔術を発動させる。


 目をパチパチさせて驚いていたら、不機嫌に睨まれた。


「何を見ているの。さっさと次の人を治療しなさい」

「え、ええ、そうね」


 全くもってその通りなので、私は次の治療に取りかかった。でも、ほんの少しだけ、口元を緩めるのは勘弁して欲しい。


 別に何を言われても構わなかった。理解してもらえるなんて、思わなかったから。でも、やっぱり低能と蔑まれるよりは、認めてもらえたと思えると、嬉しい。


「あ、あの、私もやります」

「わ、私も!」


 今まで動こうとしなかった人たちも動き出した。みんな、回復科の生徒の人たちだ。私は今度は口元を綻ばせるのを我慢できなかった。


「重症者の治療は、私たちだけでいいわ。他の人たちの治療をお願い」

「分かりましたっ!」

「精一杯頑張ります!」


 元気よく敬礼なんかして、駆け出していく。なぜに敬語なんだろうか?


 でも、怪我人は重症者だけじゃない。命の危険はなくても、怪我を負っている人たちがほとんどだ。素直に嬉しかった。




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