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14.ダンジョンについて

 重症者の回復が無事に終わった。死なさずに済んだことにホッとする。


 今は重傷ではないけれど、決して無視できない傷を負った人たちの治療をしている。いちいち驚いた顔をされるけど、全部無視していた。


 ちなみにファルター殿下も目を覚ましている。付き添いを頼んだ女生徒たちと何かを話しているようだから、状況の説明でもされているんだろう。


 気になるのは、シルベスト殿下とクラリッサ様のことだ。他の生徒たちの避難をしていると思うけど、校舎内に魔獣が入り込んでいないことを祈るばかりだ。


 そして、出現したダンジョンだ。

 今回のダンジョンは“囲い込み型”と呼ばれるタイプのものだ。出現と同時に、周囲にあるものを囲い込んで、外部との行き来をできないようにする。


 ダンジョンを消滅させるための手段は、一つ。それはダンジョンに乗り込んで、その奥にある“核”を破壊すること。


 ただし、この囲い込み型のダンジョンは、もう一つ消滅する条件が存在する。

 それは、囲い込んだ中にいる生き物がすべて消滅すること。つまりは、中にいる人間がすべて死ねば、このダンジョンはなくなるのだ。


 ダンジョンに乗り込むための出入り口は、今までの事例から見ると、囲い込みの外側にもあるらしい。外からも乗り込めるから、もしかしたらただ待つだけでもダンジョンが消滅する可能性はある。


 ちなみに、囲い込みの外側の出入り口と、内側の出入り口。その二つは繋がっていないらしい。外側から入った人と、内側から入った人がダンジョン内で遭遇した事例もない。


 もしもダンジョンの外にいる人たちが、中にいる人たちを見捨てる判断を下せば、生き残るためには自分たちでダンジョンに乗り込んで、核を壊すしかない。実際に、過去にはそういった判断が取られることもあったらしいし、外国では今でもその判断をしている国もあるらしい。


 囲い込みの内側にシルベスト殿下とファルター殿下がいる以上、見捨てるという判断はされないとは思うけど、外の動きがどうなっているかは分からない。いつ解放されるのか、本当に解放されるのかは分からない。


 私はダンジョンに乗り込んだ経験はないから聞いた話だけど、このダンジョンという代物は本当に厄介らしい。中は迷路のようになっていて、魔獣が徘徊しており、見つかると襲いかかってくる。それらを乗り越えて、最奥までたどり着かなければならないのだ。


 時間が経てば経つほどに、中は広くなって迷路も複雑になっていくから、ダンジョンに乗り込むなら、早いほうがいい。


 それができるのは、きっとハインリヒ様しかいない。けれど、ダンジョンに乗り込んでいる間も、当然魔獣は外に出てくる。その間、魔獣をどう凌ぐか、それが問題だ。



 *****



「マレン、他の生徒たちがどうしているか分かる?」

「いえ、シルベスト殿下とクラリッサ様が避難誘導をしていると思いますが」

「……そう」


 リスベス先生が物憂げな表情を見せる。何となく不安になる。


「……何か、あるのですか?」

「魔獣が何体か、入り込んでしまったの。先生方が迎撃しているはずだけど、どうなったか……」


 その言葉に、私の祈りは全くの無意味だったと悟る。行きたいけど、回復術士でしかない私は、戦いでは無力だ。それでも、私は決意して立ち上がる。


「マレン、何をするの?」

「この状況をどうにかしたければ、ダンジョンに乗り込むしかありません。そして、それは早ければ早いほうがいい」

「……ええ、そうね」


 リスベス先生は、戸惑いがちに頷いた。

 私は話を続ける。


「ダンジョンに乗り込むなら、ハインリヒ様しかいません。その間の魔獣の対応は、剣術科の人たちにお願いするしかありません。だから、行って話をしてきます。皆で協力しないと、乗り切れませんから」


 シルベスト殿下も、先生方も、どこにいるか分からない。そんな中を、魔獣がいるかもしれない中で探すのはかなり怖いけど、そんな事は言っていられない。

 でも、その瞬間に飛び込んできた人がいた。


「マレン様!」

「クラリッサ様!?」


 シルベスト殿下と一緒に避難誘導しているはずのクラリッサ様が、息せき切って飛び込んできたのだ。


「どうされたんですか!?」

「魔獣と交戦したの! 倒すことはできたんだけど、怪我人がたくさん出てしまって! だから……」

「分かりました」


 静かに頷いた。そして、リスベス先生に視線を送る。


「先生、行ってきます」

「いってらっしゃい。あまりに状況がひどいようなら、誰かを知らせに寄越して」

「いえ、先生はここにいて下さい。他に怪我人が運ばれてくる可能性もありますから」


 すぐ外では、ハインリヒ様が戦っている。万が一のためにも、ここに先生がいてくれれば安心できる。


「クラリッサ様、案内をお願いします」

「ええ」

「――待ってくれ、マレン!」


 走りかけた足は、その声で止まった。


「……ファルター殿下?」


 呼び止められたのが意外だった。

 どこか緊張したような顔をしている。


「その……なんだ。マレンが傷を治してくれたと聞いた。感謝する。ありがとう」


 私はきっと間抜けな顔をしているだろう。まさか感謝されて、頭を下げられるとは思わなかった。何をどう返事するべきか、とっさに言葉が出てこない。


「……あ、と、その……ですね、ご無事で、良かったです」


 私が治したんだから、無事で良かったも何もないのだが、よほど私は動揺しているらしい。変だと思っても、それ以上何も言えなかった。


「マレン様、行きましょう」

「……あ、はい、そうですね。行きましょう」


 クラリッサ様に声を掛けられて我に返る。ファルター殿下に一礼して、今度こそ駆け出した。




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