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9.一ヶ月後の現状

 ハインリヒ様が入学してから一ヶ月。相変わらずハインリヒ様は女生徒たちに人気だ。


 ファルター殿下は真面目に剣や勉強に取り組みだしたらしい。国王陛下に、王族の権利を取り上げると言われたことがショックだったのか。王族としての権利を取り上げられて、その後どうなるか国王陛下は明言しなかったけど、おそらく碌な事にはならないと思う。


 一度、親心で私との婚約を結ばせた陛下だけど、二度目があるほど優しくない。


 一方そんな殿下を支えるべき立場の妹はと言えば、相変わらずハインリヒ様へ声をかける。学年が違うからファルター殿下と一緒にいられないのは分かるけど、何でハインリヒ様に近づこうとするのか。


 婚約したからと言って他の男性と話しちゃいけないわけじゃないけど、特定の男性に近づくのは問題だと思う。


「マレン様、本気でお分かりになりませんの?」


 私が漏らした疑問にそう言ったのは、シュトロハイム公爵家のご令嬢、クラリッサ様だ。王太子シルベスト殿下の婚約者様でもある。


「クラリッサ様は分かるのですか?」


 反問したら、なぜか笑われた。


「マレン様は、真っ直ぐで素直な考え方をお持ちの方ですのね」

「物は言いようだな。なぜ分からないんだ?」


 シルベスト殿下にも言われた。


 ちなみに今は昼休みだ。

 シルベスト殿下とハインリヒ様。学年は違っても同じ歳のお二人が、実は仲が良いと知ったのは最近で、それで一緒に食事をする機会が増えている。


「ピーア様はハインリヒ様の婚約者の座を狙っているんですよ」

「………………はあっ!?」


 反射的にハインリヒ様を見る。クスクスと笑うクラリッサ様の言葉を理解するには、少し時間を要した。


「何で俺を見るんだ。俺にそのつもりはないぞ」

「それは分かるけど……」


 ハインリヒ様はムスッとして不機嫌そうだけど、驚いてはいない。


「なぜですか。妹はファルター殿下の事が好きで、ようやく婚約できたんじゃないですか」


「恋愛感情がどこまであるかは分かりませんが、ざっくばらんに言ってしまえば、お互いの利害関係が一致したのではないでしょうかね」


「利害関係……?」


 私が辺境の地に行っている間に好き合ったわけじゃないんだろうか。ファルター殿下が私と婚約破棄をしてきたのは、そういうことだと思い込んでいたんだけど。


「マレン嬢はファルターに迎合することはないだろう? ピーア嬢は逆で、ファルターに媚びて甘える。それが、ファルターの自尊心をくすぐったんだろうな」

「……はあ」


 気のない返事が出た。シルベスト殿下の言葉に無礼な反応だけど、学生の昼休みの雑談だから問題にはされないだろう。

 確かに、ファルター殿下にかかわらず、私が誰かに媚びるとか想像がつかない。


「ピーア様からしたら、相手は王子殿下。結婚すれば、不自由なく贅沢な暮らしができるでしょう? 婿に来てもらうより、自分が嫁に行った方がより優雅に暮らせると思っているかも知れないわね」

「……ああ、なるほど。分かりました」


 ファルター殿下と妹の婚約が成った時、国王陛下が妹に嫁に来てもらうと言ったとき、嬉しそうな顔をしていたのを思い出した。

 つまりはそういうことなのだ。


「恋愛感情もあるかもしれないけれど、それよりも何よりも妹からしたらファルター殿下との婚約は、自分が贅沢するための手段でしかない、ということなんですね」


 だから、ファルター殿下が王族から外されるかもしれない、となって、別の相手を捕まえようとしているわけか。そこまで考えが及んで……呆れてしまった。そんなの、無理に決まってる。


「頑張っているファルター殿下の力になろうとかないんでしょうか」

「同感だわ」


 クラリッサ様は頷いて、でも物憂げに続けた。


「けれどね、困ったことにハインリヒ様とピーア様の組み合わせって、"武神様の息子"と"聖女の再来"でお似合いだって、他の生徒たちには人気あるのよ」

「……………へぇ」


 驚くやら呆れるやらで、何もコメントが出てこない。あえて言うなら……何となく面白くない。何か、ムッときた。


「マレン、だから俺にその気はないからな。俺にはお前だけなんだから」

「……えっ、あ、い、いや、だから、そんなことは思ってないから!」


 なんでか、ものすごく動揺した。慌てて言ったら、何かハインリヒ様は不機嫌そうだ。


「"そんな事は思ってない"は、どっちに対してだ? 俺にはお前だけだって方を否定するのか?」

「ち、違うから!」

「そうか。じゃあ、信じてくれるんだな」

「……えっと、うんまあその……」


 なんて答えれば正解なんだろう?

 妹とどうにかなりはしないというのは、間違いない。でも、えーと……まあこんなことで嘘をついたりはしないだろうから、信じてると言えば、信じてるけど……。


「百面相してますわね、マレン様」

「大体だな、ハイン。お前まだマレン嬢に婚約を受け入れてもらってないのか」

「……うっさいな、聞くな。まだだよ」

「さっさとしろ」


 私が混乱しているのを余所に、会話が始まっていた。


「父上がマレン嬢をファルターの婚約者に選んだのは、マレン嬢をこの国に留めるためでもあるんだぞ。お前がノンビリしていて、その隙に他国に持っていかれたら我が国の損失だぞ」


 初めて聞いたんですけど。単に、ファルター殿下のためだけに私を選んだわけじゃなかったってこと?


「……国の損失というほどでもないと思いますけど」


 回復魔術の腕には、確かに自信はある。でも、私と同等以上の腕の人なんて、探せば結構いると思う。


「腕の良い回復術士は多いが、マレン嬢と同世代以下に限れば、その数は激減するだろう。もちろん、これから伸びてくる奴もいるだろうが、そういう奴らにマレン嬢の存在は大きな刺激となる。いなくなられては困るのだ」


 なるほど、そっかー。確かに、私が思い浮かぶ腕の良い回復術士は年上の人たちばかりだ。

 今はいいけど、将来シルベスト殿下が国王となったときに、腕の良い回復術士がお年寄りだけ、なんてことになったら、大変だろう。


「分かったなら、さっさとハインと婚約しろ。あまり遅いと、陛下の命令で婚約させられる可能性もあるぞ」

「ぶっ」

「必要ない。俺がちゃんと口説き落とすから、余計な事するな」


 噴いた。でもって、赤くなった。

 いやほんと、勘弁して下さい。




ダンジョン出現まであと二話です。


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