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第五十六章 枯れ木令嬢の本音トーク

 投稿が遅れました。

ストックが切れたので、また間が開くと思いますが完結を目指して行きたいと思っています。


 

 リアナは驚嘆したままジュリアの話を聞いていたが、聞き終えると、フッと顔をほころばせた。

 

「一見すると大人しくて天然なのに、その実冷静に物事を見極めて判断できる大人になったのね。立派に成長したわね、ジュリア。そんなところはマーガレット様にそっくりだわ。

 それでその証拠とやらはもう集まったのかしら?」

 

 リアナの問いにジュリア達がハーディスを見た。すると彼は大きく頷いた。

 ジュリアはパッと破顔すると、ロマンドの方に向き直して彼に抱きついた。

 ロマンドは片手をジュリアの細い腰に回し、もう片方の手でジュリアの髪を撫でながらハーディスの顔を見て尋ねた。

 

「先程シンディー夫人達が近衛騎士に連行されて行きましたが、逮捕なさったのですか?」

 

「まだ逮捕というわけにはいかないが、執事のバージル=ハントとは引き離しておいた方がいいと思ってな。口裏合わせをされても困るし。

 それに他の使用人達全員を明日暴行と器物損壊の容疑で捕縛する予定だから、なるべく人数を減らしておこうかなと。数が多いと捕まえて引っ張ってくるのも面倒だからな。

 まあ、当主として面目ない限りだが」

 

「もうそんなことをおっしゃらないで下さい、お父様。

 屋敷の実質の責任者はお祖父様なんですから、何もかもお父様が責任を感じなくてもいいのではないですか?」

 

 娘の慰めの言葉に、父親は少し悲しげに微笑した。するとジャイドが彼の親友の両肩をポンポンと叩きながらこう言った。

 

「これから城内騒がしくなるんだ。そんなに気落ちしていては指揮を執れないぞ。覇気を持って下さいよ、統括閣下!」

 

 その言葉にその場にいた全員が大きく頷いた。

 彼らはみな、ハーディスがどんなに娘に会いたかったのかを知っている。しかしそれがほとんどできないくらい忙しかったのだから、家のことなどにかまっていられるわけがなかったのだ。

 

 なんだかんだいいながら、結局団結して心一つにし合っている彼らを目にして、リアナはため息をもらした。そして、こう呟くように言ったのだった。

 

「ジェイド様までその捜査に関わっていたのね。やっぱり私だけ仲間外れにされていたんだわ。本当にムカつくわ」

 

 と。

 

 

 そう。リアナが気付いた通り、プラント男爵家や国の影の方々、『緑の精霊使い』、近衛騎士、様々な役所の人々の協力を得て、ようやく情報が集まった(らしい……)

 何故こんな大掛かりな作業になったのかというと、伯爵家令嬢の虐待事件のみならず、王家に次ぐ名門ウッドクライス伯爵家の乗っ取り、そして養子である娘の実の兄による窃盗、横流し疑惑……

 

 そしていかがわしい異国人との付き合いについて、夫人達に疑惑の目が向けられていたのだ。

 以前ジュリアとルフィエは自宅付近で執事のバージル=ハントが西の国のアサシンだと思われる男とこっそりと話をしている所を目撃した。

 それをロマンド経由で報告したのだが、それはとても有益な情報だったようだ。

 

 ウッドクライス伯爵家を見守っていた国の影達も、その怪しい灰色フードの人物のことには気付いてはいたが、彼が西の人間でしかもアサシンだとは思いもしなかった。 

 接近不可だった上に、あまりにも身のこなしが機敏過ぎたために、尾行することができなかったからだ。

 そろそろ実力行使をして捕らえようとしていた時、ルフィエからのその情報がもたされたのだ。

 

 アサシン……暗殺者。

 おそらく一国の暗部の人間よりも高度な殺傷能力、いや特殊能力を持つ、殺人を生業とする秘密裏な集団の者達のことだ。どこの国にも属さない独立した存在らしい。

 簡単に近づける相手ではない。むしろこちらが捕まって情報を奪われるのが関の山だ。

 慎重に事を進めなければと、皆で再確認したところだったらしい。

 

 そしてその調査の結果が先日ようやくまとめられたのだった。

 しかしその結果に、防衛の要である統括大臣であるウッドクライス伯爵は頭を抱える羽目になった。

 家庭を顧みることもできずに働いた結果、自分の家の者が悪の根源になっていたとは……

 

「お父様、ご自分が諸悪の根源だと思っていらっしゃるのでしたら、それは違います。

 

 お父様お一人に全ての荷を負わせた者達が悪いのです。王家や国の行政機関や貴族達、そして何も知らずに平和を享受してきた私達国民も。

 

 大体、お父様が超多忙なことくらいわかってるのなら、もっと我が家に注意を払っておくべきだったわ。

 暗部とやらを付けたのだって、私が来てからでしょう? 時既に遅しだったのです。

 それに、実際に私を守ってくれたのはルフィエさんだけで、国は何にもしてくれなかったんだから、意味なかったですよね。

 いいえ、もし直接守ろうとしていたら、王太子殿下に目を付けられて、今頃私は名前だけの王太子殿下の婚約者に仕立てられていたわ。

 もしそうなっていたら、あの優しくて素晴らしいエバーロッテ様が王太子妃になれなかったのですよ。

 そうなっていたらこのグリーンウッド王国にとって大きな損失になるところでした。

 

 ロマンド様が陰でずっと守って下さっていなかったら、私はどうなっていたのかと想像しただけでゾッとします」

 

 王城の中で王家や国批判。

 

 ルードルフ侯爵夫妻とロバートは真っ青になったが、言った本人だけではなくロマンドとルフィエも平然としていた……というより首肯していた。

 そしてハーディスはただただ娘の言葉に驚嘆して、さっきまで、ずっと恨みつらみを吐いていた娘を凝視した。

 

「大丈夫ですよ、侯爵閣下、奥様。

 この部屋は防護シールドで守られていますから、絶対に会話は外に漏れませんから」

 

 ロマンドの言葉で、三人はようやくホッとした表情を浮かべた。それからリアナが苦笑いを浮かべた。

 

「ジュリアって、見かけによらず毒舌家なのね。意外だわ。一体誰に似たのかしら?

 それにさっきはあれほどハーディス様に苦言を放っていたのに、一転して今度は庇うなんて。これをどう判断していいかわからないわ」

 

「毒舌ですか? 私は本当のことを言ったまでですよ?

 それに、先程も言ったように、お父様へ投げ掛けた言葉は恨みつらみなどではなく、これまで感じたことや思っていたことを正直にお話しただけです。 

 私のことを知って欲しかっただけですわ。私がどんな人間か、これまでどんな思いをしてきたのかを。

 お父様が私のことを慮って、これから一人で思い煩うようなことになったら嫌ですから」

 

 ジュリアの言葉にロマンド、ルフィエ、ロバートはなるほどと頷いた。

 しかし、純粋な貴族であるルードルフ侯爵夫妻は、小出しに陰で囁くのではなく、いくら親しい者とはいえ、他家の者がいる前で洗いざらい気持ちを吐き出したジュリアに、正直面食らっていた。

 

「私はここにいる方々のことを本当の家族のように思っています。だから私を知って欲しくてお話しました。

 でも、本来貴族ならそれがたとえ家族や親しい友人であろうと、本音を告げてはいけないのでしょうね。

 ですが皆様ご存知の通り私は見せかけのエセ貴族令嬢で、根っこは未だに平民なんです。

 家庭教師を付けられ、淑女教育と教養だけはしっかりとスパルタで仕込まれましたが、表面的には繕えても、物事の考え方の基準が所詮貴族とは違うのです」

 

 いくら幼い頃は実の親子のように接していたとしても、別れてからの日々の方が長いのだ。しかもお互いの環境があまりにも違い過ぎた。

 考え方や感じ方が違うのは当然のことだ。

 それ故に今の自分を少しでもわかってもらいたくて、ジュリアはまるで諭すかのように、侯爵夫妻に丁寧に自分のことを説明したのだった。

 もちろん父親が聞いていることも意識して。

 

「そうよね。貴族や平民云々もそうだけれど、考え方や感じ方は人それぞれだという根本を忘れていたわ。ごめんなさいね。

 こうやって自分の考え方を押し付けようとするから、思春期の息子達から疎まれるのね。それを今再確認させられたわ」

 

 リアナが少し苦笑いしてこうぼやくと、ロバートが優しくこう慰めた。

 

「仕方ないですよ。反抗期の男の子なんてどんな賢母だろうが母親は鬱陶しいものなんですから」

 

 と。

 読んでくださってありごとうございました。

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