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第一章 枯れ木令嬢の縁談

 ファンタジー要素強めの話で、特定の国のをモデルにしていません。王侯貴族の決まり事もゆるふわ設定です!


 今日第三章まで投稿する予定です。

読んで下さると嬉しいです。


 ジュリアはウッドクライス伯爵家の令嬢である。

 しかし令嬢とはいえ伯爵が他所の平民に産ませた庶子で、二年前に引き取られた令嬢であった。

 

 当然正妻や正妻の産んだ姉達には冷遇され、兄や弟からは無視されていた。

 

 とはいえ、一応伯爵家の娘になったのだから恥になっては困る。

 ジュリアは父親の命令で家庭教師を付けられ、淑女教育と教養だけはしっかりとスパルタで仕込まれた。

 

 元々ジュリアは、若い頃貴族の家で侍女をしていた母からきちんと躾けられていた。

 しかも彼女は父親似でとても賢く優秀な少女だったので、二年も経たず、マナーも教養もほとんどマスターしていた。

 それ故に貴族令嬢としてもう何の問題もないジュリアは、本来なら人前に出てもおかしくはなかった。

 

 しかしそれが却って屋敷の者達の癇に障ったらしい。

 ろくに食事も与えられず、授業以外は朝から晩まで使用人同様に働かされていたので、ジュリアは酷く痩せていた。

 そのため彼女は、家族からは枯れ木娘、使用人達からは枯れ木令嬢と呼ばれていた。

 

 ただし父親が娘のそんな状況をどこまで把握していのかはわからない。

 ウッドクライス伯爵は仕事でほとんど家を留守にしていて、屋敷に戻るのは年に一、二回だけだった。しかもほんの数日。

 

 つまり、ジュリアはこの屋敷に引き取られてから、父親とはまだ三回しか会っていなかったのだ。

 しかも『余計なことは話すなよ〜』オーラを漂わす者達に囲まれた中でしか……

 

 

 父親のハーディス=ウッドクライス伯爵は二年前にジュリアと再会した時、涙を流しながら彼女を強く抱きしめて、

 

「会いたかった。ずっと探していたんだよ」

 

 と言った。

 七年ぶりに見た父親は、彼女の記憶とはそれほど変わってはいなかった。

 

 焦げ茶色のウェーブのかかった柔らかそうな髪に薄茶色の瞳をして、とても若々しかった。まるで穏やかな好青年といった容姿をしていた。

 とてもじゃないが港港に愛人を囲っている好色な男には見えなかった。

 

 確かに昔港町に住んでいた頃の父親は、滅多に会えなかったがとても優しかった。

 そう、溺愛してくれていたといっても過言ではないくらい。いつも彼女を抱きしめるか膝の上に乗せていた。

 父親は貿易の仕事をしていたので、留守がちだったが、仕事先から母親や彼女宛に年がら年中手紙や贈り物を送ってくれていた。

 

 

 しかし、娘のことを本当に愛してくれていたのなら、探さないでくれれば良かったのになあとジュリアは思う。

 

 父親に見つけ出される一年前に、彼女は母親マーガレットを馬車の事故で亡くしていた。

 しかし農園主夫妻はそのまま彼女を住み込みで雇ってくれていた。

 だから彼女は衣食住に全く困っていなかったのだ。

 しかも植物を育てる仕事は大好きだったので天職に就けたとそこそこ幸せに思っていた。

 

 それなのに・・・

 

 父親に無理矢理に引き取られた王都の屋敷では、休みなく働かされた挙げ句に無給だ。

 与えられた部屋は半地下で、ろくに日も当たらないような薄暗くて寒い物置部屋。

 貴族令嬢に相応しいドレスは一応与えられたが、それを着るのは父親が屋敷にいる時のみで、それ以外はお仕着せしか与えられてはいなかった。

 

 そして何よりも辛かったのは、ウッドクライス伯爵家の庭には緑が極端に少ないことだった。

 

 王都だというのに、ウッドクライス伯爵家の敷地はかなり広大だった。しかし屋敷の周りにはほとんど木が植えられていなかった。

 芝生さえなくて石畳で覆われているなんて何なの?

 最初のうちジュリアはかなり戸惑った。農園育ちで緑大好き少女のジュリアは、この屋敷に連れて来られてからというもの、気分が絶えず下降気味だった。

 そう。孤児だった頃よりよっぽど悲惨な生活だった。


 もっとも庭の奥には多種多様の植物が植えられてあって、立派な薔薇園もあったのだが、自由に動き回れなかったジュリアは当初それを知らなかった。

 

 ジュリアは何度も逃げ出そうとしたが、すぐに見つかり家に連れ戻された。

 自分のことなど邪魔で疎ましく思っているはずなのに、何故この家に留めようとするのかが不思議だった。


 しかし一月前、その理由が分かったと彼女は思った。政略結婚をさせるために自分が必要とされていたのだと。

 

 二人の姉達は父が持ち込んで来た縁談話を強く拒否した。

 いくら今勢いがあると評判の家で、父親が仕事の重要なパートナーにしたい相手とはいえ、伯爵令嬢である自分達が格下の男爵家に嫁入りだなんて冗談ではないと……

 

 貴族は家のために政略結婚するのは当り前、そう教えて下さっていたのは姉達ではなかったのですか? 

 文句言わないで父親の命令は守りなさいよ。

 ジュリアは心の中で毒づいた。

 

 しかし、彼女は押し付けられたその話を素直に受け入れることにした。

 そしてすぐに相手方の求めに応じて、男爵と顔合わせをすることになった。

 

 何故彼女が伯爵家の言いなりになったのかといえば、彼女は自分がエセ貴族令嬢だと自覚していたからだ。

 仮に高位貴族のところへなど嫁がされたら、速攻で化けの皮が剥がれて彼女は追い出されてしまうだろう。

 いや、離縁されるのは構わないが、好きでもない相手に純潔を奪われた挙げ句に捨てられたのではたまらない。子供が出来ていたらさらに悲惨だ。

 

 伯爵より下位貴族に嫁ぐのであれば、そう簡単には追い出されはしないだろうとジュリアは思った。

 それに農園を経営しているというのも魅力的だ。

 ああ、緑が恋しい。

 

 それにとんでもなく嫌な相手だったら、それこそ逃げ出せばいいのだ。

 婚約でもすれば外へ出る機会も増えて、逃げ出すチャンスもきっとあるに違いない。

 

 そう思ってこの婚約話を受けたのだが、ジュリアは相手のプラント男爵と顔合わせをして驚いた。

 

 

 父親の仕事パートナーならば父親と同年代のおじさんかと思っていた。

 それなのに、洒落たカフェで彼女の目の前に座っていた男性は、ジュリアとそう年の変わらなそうな若い青年だった。

 しかも鮮やかな紅いサラサラ髪に、明るく輝く緑色の瞳をした絶世の美男子だった。その上背が高く引き締まった体躯をしていた。

 

 プラント男爵はまるで高貴な真っ赤な薔薇の花のようだとジュリアは思った。

 男の人を表現するには相応しくはないかもしれないが。

 

「ロマンド=プラントです。

 今回の話を受けて下さったことを心から感謝しています」

 

「初めましてプラント男爵様。

 ええと、大変言いにくいのですが、私はジュリア=ウッドクライスと申します」

 

「はい」

  

 男爵はニコニコしながら頷いたので、ジュリアはあれ?と思った。

 もしかして見合い相手の名前を覚えていないのだろうか? 

 そう思って、彼女は仕方なく確認を試みた。

 

「この度のご縁談、ウッドクライス家の誰とのお話だかご存知でしょうか?」

 

「もちろんです。

 ハーディス=ウッドクライス伯爵のご令嬢である貴女とですね」

 

 男爵は何を今更言っているのだという顔をして言った。

 

「ええと、ウッドクライス家には三人娘がおりまして、私ではなく姉達との縁談だと勘違いをされてはいませんか?」

 

 いくら格下の男爵様とはいえ、こんな美丈夫なら女性などよりどりみどりなのではないだろうか?

 仕事の繋がりで相手を選ぶとしても私はないだろうとジュリアは思ったのだ。

 

 その証拠に男爵は最初にジュリアを見て一瞬驚き、その後で少しムッとした顔をしたのだ。

 読んで下さってありがとうございました!


 話の流れで辻褄が合わなくなって変更したところがあります。

 申し訳ありません。


 2022年7月25日

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