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魔導塔の忌み姫  作者: 綾 風珠
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魔導塔の忌み姫

 

 「何度もため息をつかないでください。こちらまでも憂鬱になりますよ。」


 カタカタと馬車に揺らされながら、不満げに(ハク)が言った。

 それを意に返せず雪蘭(セツラン)は、ため息をついた。


 「諦めてはどうですか? 今回の件ばかりは雪蘭様しか対応ができないのですから。」


 紅い目が雄弁に語る。雪蘭はわかっているとでもいうように軽く頷いた。

 月明かりに照らされて、反射する美しい銀髪を横目で見ながら、いきたくないと

思うのだった。





 「やっほ~。元気してた? 遊びにきたよ。」


 胡散臭さ満開の笑みを顔に浮かべながらアランは魔導塔の一室である雪蘭の部屋

に入ろうとする。

 誰かと思って、扉を開けた雪蘭はすぐさま扉を閉めようとするが

すでにアランが扉の間に靴を挟んでいて閉めることができない。

 諦めた雪蘭が渋々扉を開けると、意気揚々と案内してもいないのに

椅子へに座った。


 「おやおや、どちら様かと思えばあの、絶滅危惧種ではありませんか」

 「やっほ~。元気してた?」


 白の嫌味も気にせずに先程と同じ言葉をいうアランは椅子に座ると足をぶらぶらさせた。


 「ねぇ~。お茶はまだかな~。」


  白はふっと爽やかに笑い、なにかを言ったかと思うと思うと次の瞬間には

何事もなかったかのようにお茶をいれ始めたが


 「この野郎が、魔導塔の管理人にして主導者でなければ今ごろ灰ですよ」


 雪蘭には聞こえていたのだった。 別にいつものことだと割りきって

聞こえないふりをして過ごした。


 「どうぞ、呪力入りの紅茶です。」


 何事もないように人間の体には害のあるはずの紅茶はアランはゴクゴクと

美味しそうに飲んだ。

アランは飲み込んだあとしばらくカタカタと体を震え始めたか

と思うと、


 「ふっ。ふふっ。っあははは! もういい加減学習しなよ。吸血鬼である僕に

 そんなものは聞かないよ!」


 しばらくして耐えきれなかったようで、目に涙を浮かべながら爆笑した。


 「ははっ。っひ。もう……ふひひ。無理」


 ゼーハ、ゼーハと息をしながらも文字通り床を転げ回ってお腹を抱えていた。

それを見た白が呆れたようにため息をつくと、雪蘭をみて、助けを求めてきた。

紅い目で、必死にこいつをなんとかしてくださいと訴えている。

 そこが妙にかわいくて思わず笑い声を漏らした。


 「あ!」


 見事にアランと白の声が重なって呆然と雪蘭が座っている椅子を、椅子だったものを

見るのだった。

 触手がうねうねと動いている。もう生き物になってしまっていた。


「……」


 雪蘭は無言で謝った。




 雪蘭は、その身に膨大すぎるほどの呪力を持っているためか全く制御ができずに

喋る、相手を見つめるといった動作だけでも相手に重い負担をかける。

 最悪は死だ。


 「何度みても驚いちゃうね~。椅子が妖魔にかわってしまうなんてね。」


特に、喋るときは、声に出したときの内容が実際に起こってしまうのだった。


 「今回は笑ってしまったからですね。」

  

 白が疲れたように言う。最近はそのようなことがなかった

からだろう。生命を産み出してしまったときの後片付けは大変

である、


 張本人でも何が起こるかはわからない。唯一分かっているのは

声に出した情報が多ければ多いほど、それに近くなると言うことだ。

逃げろといえば、勝手に体が動き走ってしまう。


 呪力による束縛だと雪蘭たちは解釈している。


 「……今日来た目的を話すよ。」


 ふざけた様子から一転して真面目な口調で話始めたアランは椅子に深く座り

指を合わせる。


 「ある、事件を解決してほしい。」


 そう言った途端白が顔をしかめた。

雪蘭が、コミニュケーションをあまりとれないことを

知って上で依頼をするアランの神経が信じられないのだろう。


 「言いたいことはわかるよ。でも今回ばかりは雪蘭しかできない

…………呪術についてだ」


 白はしかめた顔を納得の表情に変えた。

現在、特異で誕生した雪蘭以外、呪術に詳しいものは皆無に等しい。

妖魔に対抗するために研究を進めるので、ある一定の知識しか

諸国は持ち合わせていないのだ。


 雪蘭は忌み怖がられる存在である一方、呪術の研究を一歩進めるための

人材でもあるわけだ。だから一国の皇族であろうとも処刑される、

その身を研究塔として有名な魔導塔に捧げることで行き長らえてきたのだ。



 「魔導塔は、諸国の援助のもと成り立っている暗黙の不可侵領域。

 だからこそ、魔術等の事件は我々魔術師が解決してきた。

 しかし、呪術に精通しているのは君だけだ。

断れば……」


 死のみ。そう言い、立ち去っていった 魔導塔の主導者(アラン)

残された者の空気は最悪だった。



 静かに旅行の準備を始めた白に向かって声を出した。


 「……都合のいいときばかり頼るのね。」


 最低とでも言わんばかりの声を出す。それによってまた

椅子に変化が起きる。元椅子は完全に意思を持った様子で

雪蘭に話しかけた。


 「ご主人様。僕もつれていってください。」


 そう懇願した元椅子を一瞥して白を見る。

なにも答えたくなかった様子の白だが、見つめ続けた

雪蘭に根負けしたようで声を出した。


 「もう、わかりきっていたことじゃないか」

 「ちがう、私がほしいのはそんな言葉じゃない。

 ……手を差しのべるって言った癖に。」


 パッと後ろを振り向いた白は呆然としたように呟く。


 「覚えてるのか……」


 問いかけられた雪蘭はそっぽを向く。

言わなくてもいいことをいってしまったからだ。


 「なぁ……」


 感情の起伏が激しくなったせいか、白銀に輝く耳と尻尾が現れた。

悲しそうにまつげをふせる。


 『もう寝るわ。話しかけないで』


 「ご主人様。僕もつれてって。」


  ちらりと元椅子に目をやるとすこしの躊躇があったあと、

 白の方を向く。その頃には白は、もう耳と尻尾もなくし、

黙々と準備をしていてこちらを向いてくれそうになかった。


 『好きになさい』


 放っておくことにした元椅子は嬉しそうに跳ねた。



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