死なない人
私は死なない人。
どれだけ高いところから落ちても、どれだけ早い乗り物に轢かれても、どれだけ痛みを味わっても、私は死なない。
死なないけど、痛みはある。
刃物で刺されたら鋭い痛みが広がるし、縄で首を吊ったら息が出来なくて苦しむし、硬い物が落ちてきたら沢山の血を流して眩暈がする。
でも、一度死んだらすぐ消える。
それが私。
死なない私。痛くても死ねば元通りな私。死んで蘇る私。
そんな私を見て、皆は口をそろえてこう言うんだ。
いいなって。
ふざけんなって。
死ねって。
私は死なない人。痛みもすぐに消える人。
でもね、言葉の痛みは消えないんだ。
痛みに耐えられなくて、死んでも、死んでも、ずっと心の中。
この痛みが嫌になって、死んでも、死んでも、ずっと頭の中。
ああ、私は死にたい。
死んで楽に成れたら、どれほど幸せだろうか。
あの世は本当にあるのかな。もう一度あの人に会えるのかな。
そんな悲しい好奇心。
でも怖い。
死なない私が死んだら、そこには何が残るのか。
分からない。だから怖い。だからこのままで居たい。
このままで居たい。
このままで。それがずっと続くのかな。
それで本当にいいのかな。
死ねる私に変われたら、どれだけ嬉しいのだろうか。
嬉しいだろうな。楽しいだろうな。
変わりたい。
変わって、笑顔になって、皆に忘れられないくらいの幸せなことをしよう。
そして、この世に私を残して、私は死ぬ。
死んだ後のことは、考える必要なんかない。
たくさん、死んだ私。
たくさん、苦しんだ私。
たくさん、失った私。
たくさん、傷ついた私。
たくさん、痛みに泣いた私。
それで、変わりたいと願った私。
それが今の私。
ここからの私は、変われるのかな。
分かんないや。
でも、悲しかったはずなのに、そんなことを考えていると、自然と嬉しくなる。
幸せは掴めるのか。それは誰にも分からない。
でも、このまま死に続けるだけの私は、きっと幸せにはなれない。
幸せになるために、私は変わる。
変わって、死ねるようになったら、一回限りの人生だ。
誰にも決めさせない。私だけが決められる。私の人生。
私は死なない人。
死なないけど、心はある。
死なないけど、幸せは分かる。
ああ、この心は幸せに向かっていけるだろうか。
そんな言葉と共に、死なない私は死ぬのを辞めた。




