3-1 そして未来へ
ギアトーレの支部長に、呼び出される。エヴァンだけでなく、カミラも。
「何かあったんですか?」
「ナホマから少し死の領地に入ったところで、魔族がふたり出た」
ナホマ。ユリシーズに会いに行くときに、通った場所だ。そして、カミラにとってはユリシーズに初めて会った場所。
「被害は出たんですか?」
「いや。むしろ助けられたらしい」
「助けられた、ですか?」
支部長がうなずく。
「本人から聞いた方がわかりやすいし、手間もはぶけるだろ。隣の部屋に待機させてるから、話聞いてこい。で、危険がありそうだったら討伐も考える」
「わかりました」
厄介なことにならないことを祈る。
隣の部屋にいたのは、C級の四人パーティだった。男がふたり、女がふたり。
「エヴァンさんとカミラさん」
座っていた四人が立ち上がる。
「座ってくれ」
かしこまった態度をとられるのは、好きではない。エヴァンが四人の向かいに座ると、カミラがその隣に座る。
「魔族に会ったのは、どこだ?」
「ナホマから死の領地に入ったすぐのところです。魔物の退治の依頼で、少しだけ入ったんです」
リーダーなのだろう。大剣を横に持った女が話す。
「そしたら、中位くらいの魔族が出て」
「中位の? C級だと、きつかっただろ?」
B級でも、魔族を相手にするのは厳しい。A級だと、中位は戦える。
「はい。逃げようにも難しくてなんとか応戦してたんです。そしたら、高位の魔族がふたり来て、その中位の魔族を倒してくれたんです」
「高位なのは、間違いないんだな?」
「間違いないです。迫力が全然違ったので」
エヴァンがうなずくと、女が話を続ける。
「それで、そのふたりが逃がしてくれたんです」
「逃がしてくれた? 何か言われたのか?」
女の隣に座っている男が口を開く。
「その魔族が男と女だったんですけど、その女性に『歯向かわないなら見逃すから、帰りなさい』って言われました」
なんとなく、既視感。
もうひとりの女が小さく手を上げる。
「男の方は、中位の魔族を倒す前に『俺の場所で勝手なことするんじゃねえ』って」
なんとなくどころではない既視感。というか、もう確定だろう。
カミラと目が合う。きっと、カミラも考えていることは同じだ。
「その魔族の容姿は覚えてる? 服装とか、髪色とか」
カミラが尋ねる。すると、女ふたりが顔を見合わせて、興奮した様子で言った。
「男の方が、めちゃくちゃかっこよかったんです。背が高くて、黒髪に黒い目だったんですけど」
「顔がすごい整ってて、体もスラッとしてて。で、つまらなそうな目をしてたんですけど、それがまた似合ってて」
まあ、ふつうに見たらユリシーズはかっこいいだろう。性格を知らなければ。
「女性もきれいだったよな?」
「ああ」
今度は男ふたりが顔を見合わせる。
「女性の方は、金髪でした。服はふたりとも黒かったですけど。で、あれも相当顔整ってますよ」
「ちょっと高圧的な物言いが似合う顔って言うか」
アリシアも、かなり美人だ。
「わかった。ありがとう。それで、帰ってきたの?」
「情けないって言われるかもしれませんけど、あのふたりには絶対にかないません。そう思って、おとなしく帰ってきました」
「それが正解だろ。こっちに害をなさないなら、放っておけばいい。無事に帰ってこられてよかったな」
下手に立ち向かっていたら前のエヴァンのようになったか、殺されていたか。
「はい」
「わかった。話してくれてありがとな」
四人に礼を言い、部屋を出た。
ギルドの外に出る。
「どう考えても、アリシアとユリシーズだよね」
「それ以外に考えられないからな」
人を助けて見逃す物好きな魔族も、その容姿も。
「それにしても、ユリシーズのこと知らなかったんだね。あの四人」
「カミラだって、最初は知らなかっただろ」
「まあ、そうだけど。それはE級だからだと思ってたもん」
会ったとき、カミラはE級だった。それが今はA級なのだから、ものすごい成長だ。
「A級とかB級は死の領地に入ることがあるから、ユリシーズの名前は知ってる。けど、C級で死の領地に入ることは珍しいから、知らない人も多いだろうな」
「そうなんだ」
「それより、俺のときにはユリシーズだって名乗ったのに、今回は名乗らなかったことが不思議だな」
会う人間に必ず名乗っているのかと思っていたが、そういうわけでもないらしい。
「ユリシーズって、なんで名乗るんだろうね? 意味なくない?」
「無駄に襲い掛かられないようにするためだろ。正確に言えば、そのせいで無駄に人が死ぬことがないように、か」
「どういうこと?」
カミラが首をかしげる。
「ユリシーズって名前が知られてて、そいつがめちゃくちゃ強いって言われてたら、会っても戦おうと思わないだろ」
「エヴァンは違ったけどね」
「あのときは頭に血がのぼってたんだよ」
あのときのことを後悔しているかと聞かれたら困るが。
「話戻るけど、せっかくだし会いに行く?」
「そうだな。しばらく会ってないし」
リーンのスタンピート、つまりアリシアと別れてから一年近くが経っている。
「なにか手土産とか持って行った方がいいのかな。ユリシーズならなんでも用意できそうだけど」
「お菓子かなにか買って行けばいいんじゃないか。食事が必要じゃなくても、味くらいは楽しめるだろ」
アリシアの体がどういう状況なのかは、いまいちわからない。ユリシーズの邪気で生かされているらしいが、どこまでが人間でどれくらい魔族の性質を持っているのかがわからない。聞きづらいことでもあるから、聞こうと思ったこともないが。
「そうだね。死の領地に入る許可は、どうする?」
「それわかって、会いに行くって言ってたんじゃないのか?」
「どういう意味?」
カミラが不思議そうな顔をするが、首をかしげたいのはエヴァンの方だ。
「今なら、魔族の調査って名目で死の領地に入れるだろ。それをわかって、せっかくだから会いに行くって言ってるのかと思ってたが」
「全然考えてなかった。そっか、たしかに。単に久しぶりに名前を聞いたから会いたいなって思っただけだった」
「危険そうなら討伐も考えるって言ってたからな。調査って言ったら、むしろ金でももらえるんじゃねえの?」
そこまでして金は欲しくないが。
「それは申し訳ないけど、まあ調査には変わりないもんね」
調査といえば調査である。
「じゃあ、許可もらいに行くか」
すぐにおりるだろう。
番外編3つ目です。




