2-3 星空の誓い
剣を突き付けられたカミラが口を尖らせた。
「いつからあったの? この穴」
「ちょっと前に開けた」
カミラに攻撃を当てるより、罠を仕掛けた方が効率的だと、途中で気づいた。なにせ、エヴァンの視線の先と剣の指す場所の両方から離れなければならないカミラの行動は、エヴァンでも読める。だから、あらかじめ地面に穴を開けて、土魔術で上だけ覆っておき、カミラをそこに誘導した。
「足とか怪我してないか?」
カミラは今、腹と地面が同じ高さくらいになっている。不意打ちで落とされたのだ。足をくじいていないといいが。
「大丈夫だけど、出られないから、引き上げて」
カミラが両手を伸ばしてくる。だが、それを腕力だけで引き上げるには疲れすぎている。
「カミラ。つかまってろよ」
自分の腕につかまらせ、土魔術で穴の底を上げる。
「そうするんなら、先言ってよ」
地面に戻ったカミラが、体の汚れを払う。
「悪かったよ」
「まあ、いいけど」
カミラが地面に座る。
「つかれた」
「オーバーヒートか?」
「いや、頭がつかれた」
きっと、カミラはあの目の奥でエヴァンの動きを分析していたのだろう。それは、疲れるはずだ。
「おつかれさん」
隣に座って頭をなでると、肩に頭をもたせかけてきた。
「ねえ、エヴァン。私、どうだった?」
「びっくりした。強くなったな」
「ほんと?」
その問いに、うなずく。
「俺が罠をしかけるとか、相当のときだけだからな。空間収納もかなり使えるようになってたし」
「ユリシーズがやっての、思い出したんだよね」
少し、嫌な予感がした。
「なあ、カミラ」
「なに?」
「カミラって、収納するときどこに収納するとか考えてんの?」
カミラが首をかしげる。何を聞かれているのかわからない、というように。
「どこも何も、同じ空間に収納されてると思うけど。あれが欲しいって思ったらそれが取り出せるから、それで困ったこともないし」
「やっぱりか」
「それが、どうかした?」
非常に言いにくい。だが、黙っていても解決しない。
「さっき、俺の土魔術と水魔術を収納して防御しただろ。ってことは、収納されてる荷物、みんな泥だらけなんじゃないか?」
「あ……」
カミラが荷物を取り出す。カミラの弓と矢、カミラとエヴァンの服、食料、テント……。
「全部ドロドロのビショビショなんだけど!」
カミラが叫ぶ。
「買いなおしだな、全部」
どちらが悪いとかいうわけではない。エヴァンは攻撃をしただけだし、カミラはそれを空間収納で防御しただけだ。
「ああやって防御するの、いい案だと思ったんだけどな……。毎回こうなるのは、ねえ」
「収納の場所を分けられるようになったらいいだろ」
「簡単に言ってくれるね」
カミラが口をとがらせる。
「お前なら、できるだろ」
なにせ、戦っている最中にこれまでできなかったことができるようになったのだ。かなり、素質はある。
「まあ、頑張るけど」
「エヴァン」
バーナードから声をかけられる。慌てて、立ち上がった。カミラも立ち上がる。
「それで、どうする?」
カミラをA級にするかどうかは、エヴァンが決められる。バーナードとディアナに反対されたら話は別だが、このふたりはエヴァンの決断を尊重してくれるだろう。
カミラの未来を、自分が握っている。
「テレパシーと空間収納をかなり使えていますし、風魔術と矢も正確に使えています。テレパシーと空間収納は貴重ですし、これからいろんな場面で役に立つでしょう」
答えなど、とうに決まっている。
「A級にふさわしい。俺はそう思います」
バーナードとディアナが顔を見合わせる。
「ディアナは、どう思う?」
「いいんじゃないかい、それで。血術は使いこなせれば、誰もかなわない武器になる」
バーナードがうなずいた。
「攻撃が主のエヴァン相手にどこまでやれるかって思ってたんだけどな、あそこまでやれたら十分だ」
「じゃあ……」
「一応、ギルドマスターの方で議論はするからな。金のリボンをもらえるのはもう少し先だろうが」
それは、A級と認めるということ。
「ありがとうございます」
「カミラちゃん、頑張ったね」
「ほんとに、ありがとうございました」
エヴァンと戦う前、カミラはディアナとなにか話していた。内容はわからないが、血術を持っている人にしかわからない何かがあるのかもしれない。
「じゃあ、あたしとバーナードで報告してくるから」
「いや、おふたりだけに行かせるのは……」
「疲れてるだろう? 報告ならあたしらだけでもできるからさ。それに、三人飛ばすのは無理だからね」
ディアナは、手でつかんでいるものとなら一緒に瞬間移動ができる。つまり、飛べるのはディアナと、あとふたり。
「エヴァン」
バーナードが、エヴァンの肩に手を置く。
「立ち止まるな。強くなれよ」
「はい」
前にバーナードと対戦した後にも言われた言葉だ。あのとき、引き分けという形だったものの、もう少しやっていれば確実にエヴァンが負けていた。
それでもA級と認められたエヴァンにバーナードが言ったのだ。A級になったところで立ち止まらず、もっと強くなれ、と。バーナード自身が常にそれを掲げているからこそ、あれだけ強いのだろう。
「バーナード。行くよ」
「ああ」
バーナードがディアナの手を握り、ふたりが消える。
「やっと、俺に並んだな」
「うん」
「死の領地で『守られるんじゃなくて、横に立つ』って宣言してから、意外と時間かからなかったな」
星のきれいな夜だった。
「覚えてたの?」
「忘れるわけないだろ。俺に並ぼうなんて命知らず、これまでいなかったからな」
「その言い方はひどくない?」
「冗談だ」
忘れていないのは本当だが。
「うれしかったんだよ。俺の強さを敬遠しないで、横に並んでやるって言われたのが」
カミラのまっすぐさにひかれたのは、いつからだったか。
「あだ名と二つ名、楽しみだな」
「誰がつけるの?」
「A級で。カミラに発言権はないからな」
おかげで、エヴァンのあだ名は爆発狂だ。二つ名の魔人はまだしも。
「まあ、楽しみにしてるよ。変なあだ名付けないでね」
「変なあだ名をつけるのが恒例なんだよ。あきらめろ」
「むう」
膨れたカミラの頬を指でつつく。
「どうせ買い物行かないといけないだろ。お祝い買ってやるから、何が欲しいか考えとけ」
泥だらけになった物たちを、買い替えなければならない。
「考えとくね」
カミラが、とびきりうれしそうに笑った。
番外編2つ目完結です。
あれだけフラグをたてておきながら本編でできなかった、カミラがA級になる話でした。




