2-1 星空の誓い
A級になるには、A級の人と戦って、認められる必要がある。実際に軍の人と戦う機会を設けるのは面倒なため、そういうことになっている。
「というわけで、エヴァンに相手してほしいんだけど」
カミラはギルドに、A級になりたいと宣言した。何があってもかまわないように、舞台は周りに何もない平原。バーナードとディアナが、少し離れたところに立っている。
「ディアナさん相手の方がやりやすいと思うけど、いいんだな?」
カミラは、自分の視界を相手に見せる。一方のディアナは、自分の現在位置と行きたい場所を正確に把握していないと能力が使えないらしい。カミラのテレパシーによって場所がわからなくなったら、ディアナは瞬間移動を使えない。
「なに言ってんの。エヴァンとやらないと意味ないじゃん」
それとも、とカミラが口角を上げる。
「私とやりたくない?」
挑発するような笑み。その言葉を、純粋にうれしいと思う。
「まさか。ずっとやりたいと思ってた」
だから、正直に答える。
「じゃあ、いいでしょ」
「手加減はしないぞ」
それが、カミラに対する礼節でもある。本気で挑んでくる相手に手加減をすることほど、失礼なことはない。失礼以上に、それは相手に対する侮辱だ。そんなことはしない。
「わかってるよ」
カミラがバーナードとディアナの方を見る。ふたりは、ただ黙ってこっちを見ている。
「エヴァンは、どっちとやったの?」
「バーナードさん」
「勝った?」
首を横にふる。
「勝敗がつかなかった」
「そんなことあるの?」
「前に言った気がするけど、バーナードさんは近接戦闘、俺は遠距離攻撃が得意だ。俺はバーナードさんから距離を取り続けたから、攻撃はされなかった。けど、逆に俺の魔術もことごとくよけられて、通らなくてな。結局、お互い体力切れで終了」
最後は、ディアナに止められた。
「楽しかったけど、またやりたいとは思わないな」
「楽しかったのに?」
「相性が悪すぎて、戦いにくい」
強い相手と戦うのは楽しいが、もう一度やりたいと思うような楽しさではなかった。
「相性ね。私とエヴァンはどうなんだろう」
「さあ。やってみないとわからないな」
エヴァンが一歩下がると、カミラも一歩下がる。カミラが、矢を一本取り出した。
「いくよ」
「来い。先攻はゆずってやる」
「それは、どうも」
夢見ていた対決が、始まる。
カミラは、大きく息を吐きだした。かすかに、震えている。自分でそれに気づいている。それでも、どうしようもない。どうしたらいいかわからない。
いつかエヴァンと戦いたいと思っていた。それがかなうというのに、心を占めるのは恐怖だった。ずっと一緒にいたのだ。エヴァンの魔術の威力は、よく知っている。味方として見るなら、あれほど心強いものはない。だが、あれが自分に向けられるとなると、感じるのは恐怖だ。
かすかにうつむき、呼吸を整える。
ディアナの言葉を思い出す。この直前、緊張しているカミラに、ディアナが話しかけてきた。そして、「あたしもバーナードと戦うときは、怖かったよ」と言った。「バーナードの剣の強さに、あたしが純粋な武力で勝ることはできない。それがわかってたから、怖かった。だけどそれ以上に、バーナードと戦いたかったんだよ」と。そして、「結局あたしが先にオーバーヒートを起こして負けたんだけどね、勝敗なんてどうでもいいくらい、楽しかったんだよ。A級になってから、強い敵とも大量に戦ったけど、バーナードとやったときより楽しかったことはなかった」と言って笑った。
エヴァンと戦う理由が、A級になりたいからなのか、エヴァンの隣にいたいからか、エヴァンに認められたいからか……。それは、自分でもよくわからない。ただ、エヴァンと戦わなければならないと、わかっている。
顔を上げると、エヴァンと目が合った。その瞬間、ゾクッとした。スタンピートのときの見た、あの灼熱に燃える瞳。その目が、自分をまっすぐに見ている。見られているだけで、身が焼かれてしまいそうだ。
今、エヴァンは自分だけを見ている。自分のことだけを考えている。その事実が、頭を支配する。そして、自分もエヴァンしか見ていない。エヴァンのことしか、考えていない。
心の興奮とは逆に、頭は冷静に澄み渡っていく。エヴァンの呼吸、心臓の鼓動すらわかりそうなくらいに、神経が研ぎ澄まされる。
エヴァン相手に、真っ向から向かったら、確実に負ける。攻撃力単体では、絶対にかなわない。だから、そこでは勝負をしない。
エヴァンが得意なのは、遠距離の攻撃。逆に、近いところに魔術を放つときは、あまり大きな威力のものは使わない。コントロールに失敗して、エヴァンも被害を受けるかもしれないからだ。ならば、一番重要なのは、エヴァンに距離を取られないこと。
その上で、隙を縫って攻撃をする。そして、攻撃を当てるか、オーバーヒートを起こさせる。それしか、ない。
エヴァンの瞳の熱を、まっすぐに受け止める。もう恐怖は感じない。
エヴァンが、口角を釣り上げた。それに笑い返し、手に持った矢を風魔術に乗せた。
カミラが恐怖を感じていることはわかっていた。だから、先攻をゆずった。覚悟が決まったときに、攻撃してくればいい、と。
カミラが恐怖を感じるのは当然だ。だがそれは、エヴァンの方が強いから、というわけではない。カミラの魔術はサポートに向いている。主として攻撃をするのには、あまり向いていない。それが悪いというわけではない。逆に、エヴァンはサポートにはまったく向いていない。魔術のコントロールが苦手な人が後ろにいたら、逆に戦闘に集中できないだろう。
ただ、エヴァンの方が当然ながら攻撃力は高い。そんな相手とやりあうのだから、怖くなるのも無理はない。
それでも、カミラは絶対にエヴァンに向かってくる。それだけの強さを持っている。
うつむいていたカミラが顔を上げる。その目を見た瞬間、心臓が大きくはねた。
ハリトスのダンジョンで見たのと同じ瞳。冷たく、鋭い目。自分のすべてが見透かされそうだ。それが、不思議と不快ではない。
あの目と向かい合いたいと思っていた。あの目に、射抜かれたいと思っていた。
カミラから、もう怯えは感じない。感じるのは全身から発される気迫。
思わず、口角を上げた。カミラが、それに笑い返してくる。
その笑みに、頭の血管が焼ききれそうなほど、興奮した。
番外編2つ目です。




