表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隻眼の冒険者  作者: 綾川朱雨
第三部
78/97

19. リーン編

 カミラに詳しく聞こうとしたとき、ディアナが目の前に現れた。


「来るよ。準備しな」

「わかりました」


 耳をすますと、地響きのような音が聞こえる。それに呼応するように、心臓の鼓動が速く、大きくなっていく。


「あんたはどうすんだい?」


 ディアナがアリシアを見る。


「私は、下に降ります」


 エヴァンが作った、壁の下に。


「大丈夫なんだね?」

「はい」


 それは、魔物の間近で戦うということ。


「じゃあ、連れてくから、つかまりな」

「ありがとうございます」


 アリシアとディアナが消える。

 もう、戻れない。


「カミラ。ディアナさんが戻ってきたら、俺から離れてディアナさんの近くに」

「エヴァンの近くにはいない方がいい?」

「長距離の攻撃を放てる魔物もいる。その攻撃を俺に集めるから、近くにいない方がいい」


 エヴァンが大量に攻撃することで、魔物のヘイトを集める。エヴァンの防御を破れるような魔物はいないはずだが、カミラを守る余裕があるかどうかはわからない。


「怪我したら、怒るからね」

「カミラもな」


 戻ってきたディアナが、エヴァンの前に立つ。


「エヴァン。下にいるやつらに言いたいことある?」

「俺の攻撃範囲に入ったら死ぬって伝えてください」

「了解。じゃあ、カミラちゃんはこっち」


 カミラに軽く手を上げると、カミラが手を上げ返す。


 音がどんどん大きくなっている。エヴァンは、口角を上げた。


「ひさびさに、やりがいがありそうだな」


 血がわき踊る。




 魔物の姿が見えた。その直後に聞こえた爆発音に、カミラは思わず耳をふさいだ。


「始まったね」


 ディアナがつぶやく。


「なんで、あんなに……?」


 魔物はまだ多くない。あんな大爆発を起こす必要はなかったはずだ。それなのに、エヴァンはあれだけの爆発を起こした。


 魔術の無駄遣いは、オーバーヒートを起こす。エヴァンにテレパシーで言った方がいいだろうか、と思ったとき、ディアナに肩をたたかれた。


「あれでいいんだよ。エヴァンだって、配分がわからないほどばかじゃない」

「ですが……」

「あれは、士気を上げてるんだよ。炎も、爆発音も、興奮させるからさ」


 それに、とつけくわえる。


「後ろにエヴァンがいるから大丈夫だって、思えるだろう? あんだけの力を見せられたら」


 それはたしかにそうだ。あの安心感は、大きい。


「スタンピート初めてのくせに、なかなかやるよ、ほんとに。本能なのか、策なのか知らないけどさ」


 エヴァンのことだ。きっと、そんな難しいことは考えていないのだろう。それでも、背中を押される。

 自分も、なにかしなければならない。


「私、何をしたらいいですか?」

「今はなんもしなくていい。温存してな」


 カミラの不安に気づいたのか、ディアナが笑う。


「しばらくはエヴァンひとりでもおさえられる。そのあとも、下の冒険者だけでできることはやってもらう。あたしらの仕事はサポートだからね。今戦ってるやつらが疲れたときに、頑張らないといけないんだよ。だから、それまでは温存」


 カミラは、大きく息を吐いた。言われた通り、今焦っても仕方がない。


「怖いかい?」

「怖いっていうか……」


 説明できない。だが、何かすっきりしない。


「エヴァンの目、見てみな」


 大魔術をガンガン使っているエヴァンを見る。その目を見て、ぞわっとした。


 エヴァンが戦っているところを見たことがないわけではない。こんなに近くで見たことはなかったが、顔を見たことがないわけでもなかった。ダンジョンで戦っているときとはまったく違う。


 いつも優しい目には、灼熱の炎が宿っている。目が合うだけで身がすくみそうな、らんらんと輝く強い瞳。


 口もとには、敵を食いちぎりそうな笑みが浮かんでいる。


 絶対的な強者の目。あんな目で見られたら、動けないだろう。勝てる未来が見えない。あのまま燃やされてしまいそうだ。


「すごいだろう?」

「……はい」


 呆然と、うなずいた。


 あの目に恐怖を感じないわけではない。だが、それ以上に、あの目と真っ向から向き合いたい。


「バーナードもそんな目をするんだよ。だから、あたしは負ける気がしない」


 ディアナが押し寄せる魔物を見据える。


「あいつらが気持ちよく戦えるような舞台を整えるんだよ。それが、あたしらの仕事」


 カミラはそれにうなずいた。体のもやもやは消えている。代わりにあるのは高揚感と、どこか胸の底にある冷静さ。


「いい目になったね」


 そう言うディアナの目は、どこまでも鋭い。


「なんだ、以外と楽しそうじゃないか」

「……エヴァンに任されたので」


 それが高揚感の原因だとわかっている。


 これまで、ずっと後ろで守られていた。危ないところには、立たせてもらえなかった。これまでだったら、スタンピートがあるとなったら、リーンまで来ることをダメだと言われただろう。そこまででなくても、ここにはいさせてもらえなかったはずだ。


 何が、エヴァンの認識を変えたのかわからない。だが、エヴァンが自分を対等に見ているような気がして、それが純粋にうれしかった。


「そうかい。じゃあ、それにこたえないとね」


 下から高く魔術が上がった。けが人の合図。


 ディアナが下に消える。カミラは、まわりを見渡した。エヴァンとバーナードの攻撃範囲は心配ない。カミラが手助けをしなければならないほど弱くない。下の冒険者も、今はまだ余裕がありそうだ。ならば、まだ動かなくていい。


 紅の小刀が光をはじく。


「アリシア」


 思わずそうつぶやいた。同じヒヒイロカネでも、バーナードとアリシアは戦い方がまったく違う。バーナードは、豪快で荒々しい。それに対して、アリシアは最低限の動きで魔物を倒している。繊細で、なのに大胆な動き。


 あんな動きをするところは見たことがなかった。というより、アリシアが武力で制するところを見たことがなかった。前もって問題を片づけるか、聖気で消すか。だから、ヒヒイロカネを使うアリシアを見て、不安になる。ここまでやらなければいけない状況に。


 だが、不安になっても何も変わらない。できることをやるしかない。


 エヴァンに任されたのだ。ならば、期待を超える成果をだしてやろうではないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ