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隻眼の冒険者  作者: 綾川朱雨
第三部
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15. ハリトス編

15話抜けてました。すみません

 仮説を立てた翌日。聖地に続く道を登る。


『聖地が毒って考えると、一気に来たくなくなるよね』

『まあ、一日いたところで、そんなに害はないだろ』


 そうでなかったら、聖地に人が入れないようになっているはずだ。


『アリシアに会えるといいけど、たぶん無理だよね』

『あんなこと言われたら俺らが捜そうとするのは読めてるだろうからな』


 それでも会えないと思ってああ言ったのなら、たぶん、会えるようなところにはいない。


 だったらどうしてここに来たのか。アリシアに会えないことはわかっている。それでも、少しでも手がかりが欲しかった。


『こんなこと言ったらあれだけど、アリシアがあっさり受け入れるとは思わないんだよね』

『受け入れる?』

『ずっと聖地にいるってことは、それだけ危険ってことでしょ? それを「はい、そうですか」ってあっさり言うようには見えないんだけどな。できる限りあがきそう』


 そう言われてみれば、そうかもしれない。使える手札を全部使ってでも、アリシアなら何とかしそうだ。


『アリシアでも、教会には逆らえないんじゃないか、さすがに』

『教会に逆らえないのか、神に逆らえないのかで、けっこう変わってくるよね』


 教会という組織に逆らえない、というだけなら、それは権威の問題。ならば、教会を上回る権力を連れてくればいい。王の盾か、それこそ国王か。


 だが、神に逆らえないというのなら、それはどうしようもない。この世に、神を超える存在などいない。


『アリシアがそこまで信心深いかって、微妙だよね。アリシアはけっこう教会に行ってるけど、私たちに強要することはなかったし』

『それが俺らに配慮してただけなのか、本気でどうでもいいと思ってたかは、さすがにわからないな』


 アリシアは、自分のことを話さない。こうやって改めて考えて見ると、エヴァンもカミラも、アリシアのことをほとんど知らない。


 人の波に逆らわず、教会に入る。


『なあ、カミラ。気を悪くしたら、申し訳ないんだが』

『なに?』

『カミラの両親の葬式のときのアリシア、覚えてるか?』


 カミラの傷は、きっとまだ癒えていない。だから、こういうことは聞きたくなかった。だが、カミラは小さくうなずいた。


『そんなに気を使わなくていいよ。私は、そんなに弱くない』


 揺らぐことのない、強い瞳。


『覚えてるよ。あんなアリシア、初めて見たから』

『あれって、アリシアと教会が不仲ってことだよな』


 アリシアは、同じ聖職者に思い切り冷たく当たっていた。相手の話に理論的に反論することもなく、頭ごなしに、上から言い放った。あんなこと、普段のアリシアは絶対にしない。


『まあ、教会の裏切り者を王の盾に密告したわけだし、立場は悪いよね』


 魔石を賊に流していたことを、アリシアは王の盾に伝えた。それのせいで、関わっていた聖職者は罰せられたらしい。


 教会は、神の組織。外から監視することは難しい。だからこそ、アリシアのやったことは、あまりに大きかった。


『いやがらせのセンが濃いよな、そうなると』

『まあ、あんな決まりがある時点で、教会の立場の高い人は知ってるってことだもんね。聖地の強すぎる聖気が毒だってこと』

『いやがらせだけが理由なんだったら、まだ何とかなるかもな』


 アリシアが聖地にいなければならない絶対的な理由がないのなら、まだ救いはある。


『なんで? いやがらせだとしたら、もっとこじれて面倒なことになりそうだけど』

『アリシアは、王の盾に守られてる。だから、この事実を王の盾に伝えればいい』

『守られてる? アリシア個人が?』


 ふつうだったら、ありえない。王の盾が個人を守るなど。


『アリシアは、王の盾に密告した。だから、教会からしたら鼻つまみ者でも、王の盾からしたら貴重な人材だ。これからも、何かあったら王の盾に教えてくれるかもしれないから。まして、密告で立場が悪いアリシアのことは、ある程度は守るはずだ』

『王の盾に言った人が殺されるなんてことがないようにってこと?』

『ああ。だから、王の盾を味方につけられさえすれば、何とかなるかもしれない』


 ただ、これだって希望的観測にすぎない。そんなに簡単にいくことではない。


『魔石を流してたのは、明らかに犯罪だったから、王の盾は教会に介入した。だけど、聖気の危険性がどれほどなのかもわからないのに、王の盾がアリシア個人のために教会を引っ掻き回すとは思えない』

『言いたくないけど、メリットないよね。王の盾からしたら』

『これ以上教会の立場を悪くしたら、下手したら教会が国に逆らいだす。それも、表立って。そうなる可能性を考えたら、たぶん王の盾は動かない』


 エヴァンは詳しくは知らないが、国は難しいバランスの上に立っている、ひとつが崩れたら、すべてがくるってしまうほど、絶妙なバランスで。それは、カミラが誘拐されたあとに、アリシアが話していたことを聞けばわかる。


『ってことは、アリシアがすぐに死んじゃうくらいに危険なことになってたら、王の盾は助けてくれる。けど、何年も先に影響が出ることなら、助けてくれないってことか。うーん、難しい』

『危険じゃない方がいいけど、そうなると王の盾が動けないだろうからな』

『アリシアって、いつもこんな難しいこと考えてたんだね。頭痛くなりそう』


 カミラがこめかみを押さえる。エヴァンも、頭が混乱してきた。いつもはこんなに考えることなどない。戦うときは本能に身を任せるし、そもそも頭を使わなければいけない状況にはめったにならない。


『今の聞いた?』

『なにを?』

『今話してる人が言ったこと』


 前では、聖職者が何かを話している。


『まったく聞いてなかった。なんか言ってたか?』

『ここは神が作った土地だから、神に選ばれたラミが生まれるまでは、誰も立ち入れなかったんだってさ。だから、ここで人が生活してることもなくて、教会を作れたって。今聞くと、笑っちゃうよね』


 カミラは、にこりとも笑っていない。


『人が立ち入らなかったのは、本能的に濃すぎる聖気が危険だってわかってたからか』

『そうなるよね。なんか、教会が全体的に信用できなくなってきた』


 アリシアは、聖地の聖気が毒であることを知っているはずだ。そうでなかったら、あんなことを言い残さない。


 知っているのにああして神の教えを説くのは、どんな気持ちだったのだろう。


 なぜアリシアは、それをわかっていながら誰にも言わなかったのだろう。これも、国のバランスを崩さないためだろうか。


『なあ、さっきなんでアリシアがあっさり受け入れたのかって言ったよな?』

『うん。なんとかしようとするそぶりもなかったから』


 嫌な予感がする。


『アリシアが聖地にいなかったところで、そんな大問題じゃないよな』

『それは教会の事情もあるだろうからわかんないけど、そんな大事ではないよね、たぶん』


 それなのに、どうしてアリシアはおとなしく従ったのか。アリシアの教会での立場は知らないが、王の盾に会えるくらいだから、それなりに高い地位にいるはずだ。ならば、逆らう方法も一つくらいは持っているはずなのに。


『考えられるのは、誰かに脅されたってことか』

『脅して、聖地にいさせてるってこと? でも、アリシアを脅せる材料なんてあるかな』

『ユリシーズ、か?』


 それ以外に、思いつかない。


『魔物とか魔族を悪って言ってる教会の人間が、魔族とふつうにしゃべってたら問題だよな』

『でも、ユリシーズなら教会に襲われたところで、何とかなりそうじゃない? ユリシーズを守るためにアリシアがあんなことするかな?』

『襲われるのはユリシーズじゃない。アリシアだ』


 人質に取られているのはユリシーズではなく、アリシア自身。


『どういうこと?』

『神の言葉にそむいたアリシアは、ただじゃいられない。何らかの、罰を受ける』

『その罰としてもっとひどい目に合うか、聖地にいるかってこと?』


 カミラが顔をしかめる。


『反吐が出る』

『どうあがいても助けられそうにないのが、きついな』


 どうしようもない。今は、動けない。その事実が、ひどくもどかしい。

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