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隻眼の冒険者  作者: 綾川朱雨
第三部
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13. ハリトス編

 ハリトスのダンジョンは小さい。少なくとも大人数が入るところではないし、A級のエヴァンからしたら、骨のある魔物もいない。だが、カミラの腕試しくらいならちょうどいい。


「小さいとはいえダンジョンあるのに、なんで冒険者がこんなにいないの?」


 ハリトスは、冒険者がほとんどいない。


「宿の値段が高いだろ? 少なくともちゃんとした宿は。かといって治安悪い中で安い宿に泊まってまで、ハリトスにいる利点はないからな。それだったら、他の町の方がいい。ギアトーレとまではいかなくても、イマリナとか」

「懐かしいね、イマリナ」


 ユリシーズを探す途中で入ったダンジョンだ。あのときの魔族のルイは、今どうしているのだろう。まだあのダンジョンにいるのだろうか。変なことはしないようにと脅してあるから、大丈夫だとは思うが。


「ダンジョン入るのって、いつぶりだっけ? ギアトーレ出てから、一回も潜ってないよね」

「そうだな」

「冒険者なのに、こんなに入らないって、なんかね」


 アリシアが聖地に急いでいたのだから仕方がない。それに、毎日ダンジョンに潜って稼がないといけないほど、切羽詰まってはいない。むしろ、エヴァンは一生遊んで暮らせるくらいの金は持っている。


「腕が鈍ってないか心配」

「まあ、なんかあったら助けてやるから」


 ダンジョンに入ると、一気に空気が冷える。カミラが弓を持ち直す。


「なんか、緊張する」

「そんな危険な魔物は出ないらしいから、大丈夫だろ」


 かすかな音と、空気の流れ。エヴァンが気づいた少し後に、カミラが弓矢をかまえる。


 近づいてきたゴブリンが、よろめいた。その瞬間、カミラが矢を放つ。


「お見事」


 矢の腕よりも、カミラの表情にびっくりした。すっと細められた目。そこにあるのは、ただただ冷酷な光。魔物をしとめる、容赦のない瞳。


「うまくいった」


 うれしそうに言うカミラの目から、さっきの冷たさは消えている。見間違いだったかと思うほど、きれいに。


「テレパシー使ったのか?」

「うん。あのゴブリンが私の視界を見たのかはわからないけど、あんだけバランス崩したってことは、たぶんそうでしょ? ありがとね、エヴァン」

「いや。そんなすぐできると思ってなかったから、カミラの実力だな」


 できるんじゃないか、と提案したものの、こんな一回で成功するとは思っていなかった。昨夜、他人の視界を見ることに成功したことと言い、眠っている才能はまだまだ多いのかもしれない。それを少しでも目覚めさせられたことは、純粋にうれしい。


「コントロールもうまくなってるしな」

「やっと慣れてきたかな」


 弓の構えも安定している。この調子なら、もっと上達するだろう。


 気は抜かず、奥へ進む。


「来る」


 カミラがつぶやき、あらたに矢を持って構える。


 その目を見て、ぞっとした。恐怖ではない。興奮か、それとも。あの瞳で見られたら、きっと動けない。横から見ている今でも、こんなに心をつかまれるのに。


 あれは、蹂躙する側の目。ほんの少しの反抗すら許さない、絶対的強者の瞳。


 さっきのは、見間違えなんかではなかった。


「よし、成功」


 いつの間にか、仕留め終わっていたらしい。カミラの目がもとに戻る。いつもの、明るい瞳。


「どうしたの? ボーっとして」

「いや、強くなったなあって」


 エヴァンが戦うときに、圧倒的な高揚感に身を任せるように。カミラは、静かさと冷たさで、敵を射る。


「ほんと?」

「もっと強くなるな、絶対」


 こういう目をしている人は、かならず強くなる。金のために魔物を殺すのではない。体の中のなにかに支配されるように、魔物を殺す。カミラはまだそれを自覚していないが、カミラにはあきらかに素質がある。冒険者としての素質が。


「これは、A級になるのも夢じゃねえな」

「なんか、今日はやけにほめるね?」

「いつもはほめてない、みたいな言い方するなよ」


 カミラはごまかされてくれたみたいだが、あの目を見た瞬間の興奮は、まだ胸の中にくすぶっていた。


 あの瞳と正面から向き合って、手合わせをしたい。それが、いつになるのかはわからない。それでも、いつかは。




 カミラはうれしそうにギルドから出てきた。


「見て見て! これまでで最高金額!」

「おめでとう」

「しかも、今回は自分ひとりで稼いだんだから!」


 カミラのテンションは、かなり高い。よほどうれしいのだろう。


「俺も一回手助けしなかったもんな」

「エヴァン、今日やけにボーっとしてたでしょ。大丈夫?」

「大丈夫だって。さっきも言っただろ」


 カミラの目に魅入られていた。だが、それをカミラに話したところで理解できないだろう。


「それならいいけど」


 歩き出したカミラが、いきなり足を止めた。


「どうした?」

「聖地って、二日連続までしか行っちゃいけないの?」


 カミラの目線の先には、そう書かれた看板が書いてある。


「そう書いてあるってことは、そうなんだろうな。俺も知らなかったけど」


 そんなことは、聞いたこともなかった。


「なんでだろう? 毎日でもお祈りしたい人とかいそうだけど」

「聖地に行く人が多くなりすぎないようにじゃないか? 毎日のように行かれたら、聖地が混みすぎるだろ?」

「まあ、それはそうなんだけどさ……」


 カミラは納得していないらしい。


「なにか引っかかるか?」

「いや、教会は毎日行く人もけっこういるけど、聖地はダメなんだなあって」


 カミラが首をかしげる。


「混みすぎるって言ったって、なんか儀式があるときしかそんなに混まないでしょ? 少なくとも、身動きとれないほどの人にはならないよね?」

「まあ、それはそうだろうな。俺らが昨日行ったときも、そこまで混んでなかったし」

「なのに、なんでダメなんだろう?」


 エヴァンはそこまで気にならなかったが、カミラがやけに気にしているということは、何かおかしいことがあるのかもしれない。こういうときのカミラの勘は鋭い。少なくとも、まったく手がかりがないこの状況では、無視するのは得策ではない。


「バーナードさんに聞いてみるか? 信心深い人じゃないから詳しくはないだろうが」


 バーナードは、たぶん神を信じていない。教会に行ったなんて話は聞いたことがない。


「でも、ここに住んでるってことは、何か知ってるかもしれないよね」

「だな。聞いてみるか」


 聞くのはタダだ。

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