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隻眼の冒険者  作者: 綾川朱雨
第三部
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12. ハリトス編

 食べ物を買って戻ってみると、カミラとバーナードがしゃべっていた。打ち解けたのはいいことだ。


「買ってきましたよ」

「そこ置いとけ」


 棚を指さされ、そこに置く。


「今食べないんだったら、なんで俺ひとりで今買いに行かされたんですか」

「いいじゃねえか、べつに」

「まあ、いいですけど」

「なあエヴァン、今夜遊ぼうぜ」


 その意味がわからないわけではない。


「嫌ですよ。どうせ負けますもん」

「あれは勝つためにやるもんじゃねえよ。たまにはいいだろ?」

「そんなだから、ギャンブラーって呼ばれるんですよ」


 バーナードの二つ名は華颯。そして、あだ名はギャンブラー。


「いいだろ。それは俺の勝手だ。あんたも来るか?」

「カミラに変な遊び教えないでください」


 遊ぶ、が何を指しているのか分かったカミラは、顔を輝かせた。


「一回やってみたかったんだよね」

「カミラ……」

「だいたい、変な遊び教えるなって、私そんなに子供じゃないから」


 本当は、賭け事なんてしている場合ではない。アリシアに何か起きているかもしれない。だが、あせったところでどうにもならないし、カミラの気分転換になるのなら、少しくらいはいいのかもしれない。ずっと明るいふりをしているが、無理しているのがわかる。


「わかりました。今夜だけです。連日は付き合いませんから」

「わかってるって。じゃ、今夜な」

「じゃあ、近くで宿取ってくるので」


 荷物はカミラが空間収納で全部持っているが、宿はまだ押さえていない。


「ここに泊まってけよ。それくらいのスペースはある」

「いいんですか?」

「ベッドはねえけど、寝袋使えばいいだろ? このへんの宿は治安悪いしうるさいから、やめておいた方がいい」


 ハリトスは、基本的に治安がいい。しかし、一本はずれたら、そこはもう未知の領域だ。治安は悪いし、夜中まで騒ぎ倒す。うっかり観光客が入り込むと、最悪の場合は出てこられなくなる。


「じゃあ、遠慮なく」


 好意に甘えさせてもらおう。




 地下に入ると、そこは外とは違う世界だ。


「ここ、本当に正規の賭場なんですよね?」


 思わず、小声で確認する。


「お前らを違法なところに連れてくわけにはいかないだろうが」


 ということは、普段ひとりのときには違法の賭場にも行っているということだ。いいんだろうか。


「こんな感じなんだ」

「はぐれるなよ、頼むから」


 興奮気味のカミラを押さえる。


「適当な時間になったら声かけるからそれまで好きに遊んどけ」


 それだけ言って、バーナードが離れて行ってしまう。


「どこ行く?」

「どれでもいい」


 この雰囲気があまり好きではないから、賭場が嫌いなのだ。働かないのに、金を得られる興奮。その異様さが苦手だ。


「エヴァンはどれかやったことないの?」

「あのゲームは一応教えてもらったな。勝てたことはないが」


 そう言って、カードゲームをやっているテーブルを指さす。


「どんなやつ?」

「手元に五枚のカードがあるだろ? あれに描いてある数字とか記号で、強い弱いが決まる。最終的に一番強い手札の人が勝ち」


 作戦やらなんやらと、まじめにやろうとするとかなり奥が深いらしい。エヴァンから見たら、運を競っているようにしか見えない。だから、あまり楽しめたことはないし、勝ったこともない。


「やってみようかな」

「がんばれ。俺は見てる」


 テーブルに近づくカミラに、ついていく。




 カミラが場にカードを置いた。


「また負けた」

「何敗目だ?」

「五敗目かな。少ししか賭けてないから、そこまで損はしてないけど」


 カミラも相当に弱い。まあ、初めてなのだから仕方がないが。


「いい加減、一回くらい勝ちたいんだけど」


 エヴァンはこのゲームを運で勝つものとしか思っていない。だが、実際は違うらしい。相手の表情を見て、相手がどれくらいいい手札なのかを考えて、ときにははったりをかます。そして、どのタイミングでカードの交換を止めるかが重要だ。


 つまるところ、相手のカードがなんなのかさえわかれば、勝てるのだ。自分の手札がよほど悪くない限り。


「……ん?」

「どうしたの?」


 これはいかさまだ。猛烈なるいかさまだ。だが、いかさまはバレなければいいと、バーナードに言われたことがある。つまり、バレなければやってもいい。


 こめかみを指で叩く。テレパシーをつなげ、という合図。


『なに?』

『カミラは、自分の視界を相手に見せることができるだろ?』

『うん』


 頭を整理しながら、伝える。


『で、俺の頭の中の音声を聞くこともできる』

『今さら、なんの確認?』

『つまり、だ。俺の音声を聞けるのと同じような感じで、他人の視界を見ることもできるんじゃないのか?』


 テレパシーがつながっている間、エヴァンはカミラに伝えようと意識しているわけではない。ただ、頭の中で考えていることを口に出す代わりに頭に思い浮かべたらカミラに通じるだけだ。


 つまり、エヴァンが伝えているというよりは、カミラがエヴァンの頭からとっているのだ。


 その理論でいけば、音声だけではなくて、視界でも同じことができる。


『できる……のかな? やったことないけど』


 カミラがこめかみを押さえて、首をひねる。目を閉じたり、口を尖らせたりしている。


 そうこうしているうちに、またゲームが始まった。ゲームが始まったら、エヴァンはカミラの後ろから動けない。いかさまをする可能性があるから、らしい。エヴァンが他の人の手札を見て、他人にはそれとわからないような合図でカミラに伝えるという方法を使えば、カミラは勝てる。そんなことはしないが。


 ゲームの途中、カミラの顔が一瞬輝いた。手札がよかったのか、それとも、できたのか。


「お、お嬢ちゃん、やっと勝ったか」

「やったね」


 カミラが勝った。


「もう一回やるか?」

「いや、いいや。もう遅いし」


 そう言って、カミラがテーブルから立ち去る。


「バーナードさんが呼ぶまでやってても大丈夫だけど」


『いかさまして勝ったって、楽しくないでしょうが』

『あ、じゃあ、できたのか』


 いかさまして勝っても楽しくない。カミラがまっとうな神経の持ち主でよかった、と心から思う。


『できた。でも、体と視界が一致しないから、けっこう気持ち悪い。エヴァンって、あんなん見てて、よく耐えられたよね』

『まあ、あのときはそれ以外に方法がなかったからな』


 エヴァンとて、最初はかなりとまどったし、酔うこともあった。ただ、慣れただけだ。


『でも、できるようになったのなら、かなりいいんじゃないか?』

『とくに使い道が思いつかないんだけど』

『カミラのテレパシーが人以外にも使えるのなら、たとえば鳥の視界を見れば、上空から状況を把握するとかできるだろ? あとは、鳥とかにダンジョンを先行させて、行き止まりになってないか見させるとか』


 鳥の見ている世界が、人間に理解できるものなら、という但し書きがつくが。


『なるほど。それができたら便利かも』

『ついでに思ったんだが、魔物に自分の視界を送るとかもできるのか?』

『理論的にはできそうだけど。やったことはないね。なんで?』


 カミラの血術はまだまだ未知数だ。


『魔物にカミラの視界を送ったら、魔物からしたらいきなり視界が反転するわけだろ? それで混乱したら動きが鈍るか止まるかするだろうから、そしたら矢でも狙いやすいんじゃないかって思った』

『たしかに。今度ダンジョン行ったときにやってみようかな』


「なんだ、お前ら遊んでなかったのか」


 バーナードが近づいてくる。


「どうでした?」

「負け。まあ、いつものことだ」

「そんなんだから、ギャンブラーって呼ばれるんですよ」


 負けがいつものこと。せめて勝っているのなら、そんな揶揄するようなあだ名はつけられなかっただろうに。


「俺が楽しんでるからいいんだよ。そろそろ帰るぞ」

「また負けに来いよ、バーナード」

「うるせえ。次は勝ってやらあ」


 馴染みなのか、からかわれている。A級としての圧倒的な姿を知っているぶん、違和感がすごい。


「また来るか?」

「もういいです」


 カミラがどこか疲れたように言った。


「あんまり好きじゃなかったか。まあ、これも経験だな」


 そんなことを言いながら、エヴァンは何回連れてこられているだろう。まあ、挨拶しなかったわびに、もう一回くらいなら付き合わされてもいい。そんなことを思っている時点で、頭がこの非日常空間に侵されているのかもしれない、と思った

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