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隻眼の冒険者  作者: 綾川朱雨
第三部
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6. ハリトス編

 様子のおかしい人に会ったのは、その一回きりだった。そのあとは大きな問題もなく、ハリトスにつく。


「すごい人!」


 夕方なのに、すごい人だ。いや、夕方だから、か。


「ほとんどが聖地に来た人だな」

「こんなに人がいるんだね」


 興奮気味のカミラが人ごみにまぎれそうになり、その手をつかむ。


「迷子になるなよ。頼むから」

「あのねえ、私をいくつだと思ってるの」


 たしか、十九歳だったはずだ。


「俺より年下だろ」

「むう」


 久しぶりに、カミラがうめいた。


「テレパシーもあるし」

「お前は、迷子になりたいのか?」


 迷子になっても大丈夫、ということが聞きたいわけではない。


「そうじゃないけど」


 カミラがエヴァンの手を握り返す。顔に熱がのぼったのを隠すために、顔をそむける。


「お熱いねえ」

「なっ」


 ふりかえったユリシーズが肩をすくめる。


「仲のよろしいことで」

「ユリシーズ」


 なんと言おうか考えていたときに、口をはさんだのはアリシアだった。


「そういうことを、言うもんじゃないわよ」

「へいへい」


 ユリシーズがまた前を向く。


「なんなんだ、あいつは」

「からかいたかっただけじゃない?」

「まあ、そういうやつだからな」


 ユリシーズの言動はいつだって理解できないし、理解したいとも思わない。むしろ、理解できたら負けだと思っている。そのときが来るとしたら、それはエヴァンの性格も破綻したときだろう。




 明日聖地に行くと言うので、とりあえず宿をとる。


「高くない? ギアトーレの二倍はしてるよ」

「そりゃ、どれだけ高くても、誰かは泊まるからな」


 聖地に行くにはハリトスに泊まらないといけないのだから、多少高かろうが泊まるしかないのだ。


「それに、あんまりボロボロのところはいやだろ?」

「それはそうだけど」


 ベッドもなく、雨風だけは防げそうなところなら、もっと安く泊まれる。だが、それはさすがに悲しい。


「アリシアは、朝から別か?」

「ええ。聖職者は登る道が違うから」


 聖地は山の上にある。その道が、ハリトスからしかつながっていない。


「道って一本しかないと思ってたな」

「ふつうは知らないわよ。隠してあるの」


 見つかって、そこを聖職者以外が通ることを防いでいるのだろう。


「じゃあ、アリシアとはお別れかあ。仕事はいつ終わるの?」

「わからないわよ。それは」

「それじゃ、いつ会えるかもわからないじゃん」


 カミラがさみしそうに言う。


「そうは言っても、わからないものはわからないわよ」

「聖地の中で会えるかもしれないだろ?」


 そう言うとアリシアが首を横に振った。


「私を見かけても、話しかけないでよ」

「なんで?」

「そういうものだからよ」

「むうう」


 カミラが口をとがらせる。


「そんな顔しないの」

「だって、しばらく会えないんでしょ?」


 アリシアがカミラの頭をなでる。


「ひとりになるわけじゃないんだから、いいじゃないの」


 カミラがエヴァンに視線を向け、次の瞬間、真っ赤になった。それにつられたのか、エヴァンも自分の頬が熱くなるのを感じる。


「案内はしてあげられないけど、昔の教会とか絵とかたくさんあるから、楽しんで」

「うん」

「私はそろそろ部屋に戻るわ」


 アリシアが立ち上がる。


「カミラも戻るか?」

「どうしよっかな。そんなに疲れてないし」

「じゃあ、ちょっと外出るか? いろいろ店とかあるし」


 少し遅い時間だが、夜になるほどにぎやかになるのがハリトスの特徴だ。今くらいの時間がちょうどいい。


「そうだね。じゃあ、そうする」


 部屋を出ようとするアリシアのすそをカミラがつかむ。


「お仕事頑張って。またね」


 アリシアがちいさくほほえむ。


「おやすみ」




 アリシアが部屋に入る。


「よう」

「女の部屋に勝手に入るなって、何回言ったらわかるのかしら」


 あきれたように言いながら、アリシアがベッドのふちに腰掛ける。ユリシーズがその向かいに座る。


「何か用?」

「聖地見てきた」

「まさか、入ったわけじゃないでしょうね」


 顔をしかめるアリシアに、ユリシーズが手をひらひら振る。


「入ってねえよ。近くまで行っただけだ」

「そう。それで?」

「あれ、人の聖気じゃねえな?」


 アリシアが足を組み、ため息とともに吐き出す。


「……よくわかったわね」

「強さが違う。あんな聖気、人は持ってねえだろ。天使のか?」

「ええ」


 ユリシーズが先を促すように、顎を軽くあげる。


「人が天使との子をもうけたときに、天使が人と子を聖気で守ったのよ。魔族とか魔物に脅かされないように。そして、天使が滅びたあとも、なぜかなくならなかった」

「なくならないようにするくらいは可能だろうな」

「あれが、唯一の証拠よ。天使がいたっていう」


 腕を組んだユリシーズが、ふうん、とつぶやいた。


「すげえ聖気だよな」

「あなたの邪気の方が強いでしょう」

「そりゃそうだろ。そこまで強い聖気だったら、逆にまずいだろうが」


 アリシアが肩をすくめる。


「まあ、それもそうね」

「お前らはわかってるんだろ? 人間は理解できねえな」

「あなたに理解されたいとは思わないわよ。強さを持っているあなたにわかるはずがないわ」


 断言するアリシアに、ユリシーズが肩をすくめて笑う。


「そんな面倒なこと、理解したくもねえよ。興味ない」

「でしょうね」


 冷たく返し、アリシアが大きく息を吐く。


「それで、あなたはどうするつもりなの?」

「どうするって?」

「わかってるくせに、聞き返さないでちょうだい。まさか、聖地に入るつもりじゃないでしょうね」


 ユリシーズが足を組み、顔を聖地の方に向ける。


「昨日、入るつもりはないって言ったろ」


 そう言って、視線をアリシアに戻す。


「入ってもいいんだけどな、別に。邪気は隠せるし、あの程度の聖気なら俺には問題ねえし」

「万が一のことを考えたら、入ってきてほしくないわね。あなたを敵に回すのは面倒だわ」


 その言葉に、ユリシーズがニヤリと笑う。おもしろいおもちゃを見つけた子どものような、いや、そんなかわいいものではない。


「俺のこと、味方だと思ってんの?」

「少なくとも、敵ではないでしょう? 味方とは思ってないわ」

「味方になってほしい?」


 その問いを、アリシアが鼻で笑う。心底くだらない、というように。


「あなたが味方についたら、それこそ無敵でしょうね。でも、絶対にいやだわ。取引で一時的に協力するならまだしも、あなたみたいな性格の人が味方だなんて、ろくなことにならないわよ」

「言ってくれるなあ。傷ついた」


 ユリシーズが口をとがらせる。


「かわいくないわよ。あなたがやっても」

「誰がやったらかわいいわけ?」

「カミラがやったら、かわいいわね。よくやってるけど」

「そこでエヴァンって言われたら、本気でどうしようか悩んだな」


 まあ、男が口をとがらせたところで、かわいいものではない。


「聖地に興味はねえよ、さっきも言ったけどな。だから、何もなければ入るつもりはない。聖地を混乱させても、そんなに楽しいことにはならなさそうだからな」

「何かあったら入るつもり?」

「おもしろそうなことがあれば」


 眉を寄せたアリシアが、


「あなたがおもしろがるようなことが起こらないことを祈るわ」


 と吐き捨てると、ユリシーズが笑った。


「運命もすべて俺の手の上、なんてな」

「やめてくれる? 気持ち悪い」

「ひっでえ」


 ユリシーズが立ち上がる。


「これ以上グダグダしゃべってても意味ねえしな。俺は消える」

「できれば二度と現れないでちょうだい」

「さあて、それこそ神の采配次第だな」


 風が吹き、アリシアが目を閉じる。


 次に目を開けたときには、ユリシーズはおらず、何もない空間があるだけだった。

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