表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隻眼の冒険者  作者: 綾川朱雨
第三部
63/97

4. ギアトーレ編 Ⅲ

 山の中の細道を歩く。


「あ!」

「気をつけろ」


 石につまずいたカミラを支える。


「大丈夫か?」

「うん。ありがと」


 光があまり差し込まず、地面は薄暗い。とはいえ、うっかり燃え移してしまうのも怖く、エヴァンは火をつけていない。


「ねえ、アリシア。なんでおおきい街道を使わないの? ここって、普段人が通らない道だよね?」

「事情があるのよ」


 人のいるところを避けているのだろうか。死の領地に向かうときは、エヴァンが危険だったため人の多いところはなるべく避けた。それと似たような事情があるとしたら。


「ユリシーズがいるからか?」

「俺のせいじゃねえよ。順番が逆だ」

「順番?」


 詳しく聞こうとしたとき、何かを感じた。鋭くまわりを見渡す。アリシアが剣に手をかける。ユリシーズの目も少し鋭い。


「え、なに? どうしたの?」

「カミラ。下がってろ」


 カミラは目がいい。だが、遠くが見通せない森の中では、あまり役に立たない。


「なにか、来る」


 エヴァンにも何も見えていない。だが、殺気を感じる。いや、殺気というほど強くはない。ただ、ぞわぞわする感じ。大したことはないかもしれないが、用心するに越したことはない。


「だから、言ったろ」

「よかったと言うべきかしらね」


 ユリシーズとアリシアが意味深なことを言う。


「エヴァン。あなたも下がってて」

「なに言って……」


 アリシアの戦闘能力は高くない。魔物を消せるだけの聖気は使えるようだが、それもひどく消耗するらしい。


「あれは俺の獲物だ。手を出すなよ」


 ユリシーズがにやりと笑う。


「……わかった」


 よくわからないが、ユリシーズがなんとかするのなら問題はない。何が起きているのかはまったく理解できないが。


 目を細めていたカミラが、小さく声を上げた。


「あれ」

「あそこか」


 指の先に、人影がある。一人ではない。走ってきているわけでもなく、フラフラと歩いている。


「ユリシーズ。どうする?」

「俺一人でやってやるよ。その代わり、話聞いとけ」

「わかったわ」


 この二人の間では話が通じているらしい。ならば、エヴァンが言うことはない。それに、相手が人間だと、エヴァンにとっては分が悪い。負けるという意味ではなく、力加減を少し間違えるだけで死なせてしまうかもしれないからだ。


「なんか、おかしくない?」

「おかしいな」


 人は全部で六人。足取りが怪しいし、目の焦点も合っていない。一見酔っぱらいのようだが、酔っぱらいが山の中を歩いているはずがない。


「じゃ、またな」


 ユリシーズが軽く手を振り、消える。その瞬間、六人が倒れた。


「カミラ。水出してくれる?」

「わかった。大丈夫なの? この人たち」

「気絶しているだけよ」


 アリシアが倒れている一人の肩を叩く。


「……んん?」

「聞こえますか」

「え?」


 男が起き上がる。不思議そうな顔で、キョロキョロとまわりを見る。


「なんで、こんなとこに……?」

「大丈夫ですか?」

「えっと、すみません。どういう状況ですか?」


 アリシアがちらりとエヴァンとカミラを見た。何も話すな、という目。


「ここに倒れていたので、声をかけたのですが、お怪我はありませんか?」

「倒れてた? ここに、ですか?」

「はい。他の方も、そちらに」


 男が立ち上がる。


「えっと……、ご迷惑おかけしました」


 男が声をかけると、倒れていた五人も起き上がる。全員知り合いのようだ。みんな、最初の人と同じような顔をする。わけがわからない、という顔。カミラが水の魔石を配る。


「何かに襲われたのですか?」

「すみません。まったくわからないんです。気づいたらあなたに起こされてて」

「記憶の最後はどちらにいましたか?」


 六人が顔を見合わせる。


「俺らは行商人なんです。ここの近くにもう一本道があるんですけど、そこを歩いてました。そのあとは、何も覚えていなくて」

「誰かに会ったりはしましたか?」

「してません。記憶にある限りは」


 アリシアがうなずく。


「荷物はどうしましたか?」


 六人がカバンをあける。やがて、ほっとしたように息を吐いた。


「ここに全部あります」

「先ほども聞きましたが、お怪我はありませんか?」

「ありません」


 アリシアが、来た道を指さす。


「あちらに行けば、町があります。そこで軍に事情を説明した方がいいでしょう。本当は付き添いたいのですが、先を急ぐ身ですので」

「わかりました。ありがとうございます」


 六人を見送ったアリシアが、ため息をついた。


「どうした? っていうか、何が起きた?」

「知らなくていいわよ」

「ちょっと、その言い方はないんじゃないの? 聞いてるだけなのに」


 冷たく言い放ったアリシアに、カミラがかみつく。アリシアに会った直後を思い出すような光景。


「言い方が悪かったわね。私も話せないのよ。勘弁してちょうだい」

「あれが聖地に行く理由?」

「それもあるわよ。それだけっていうわけではないけれど」


 言ったアリシアが、一歩後ろにさがった。


「危ないわね」

「いい神経してるな」


 アリシアが一瞬前まで立っていた場所に、ユリシーズがおりてくる。


「どうして、人の真上に落ちてくるのかしら?」

「よけられるだろ、どうせ」


 またこの調子で言い合いが続くかと思ったが、ユリシーズが腕を組んでまじめな顔になる。


「で、どうだった?」

「収穫はないわ。何も覚えてないみたい」

「まあ、予想通りだな」

「ええ、まあね」


 さっきの人たちの記憶がなかったことは、予想通りだったらしい。アリシアは、あの人たちに話しかける瞬間から、嘘をついていた。記憶がないとわかっていたから、適当に話を作っていたのだろう。


「それで、あなたは取り逃がしたの?」

「外聞悪いこと言うなよ。取り逃がしたわけじゃねえ」


 ユリシーズがおもしろそうに言った。


「見つからなかったんだよ。いなかった」

「どういうこと?」

「さあな。今はわかんねえよ」


 わからないと言いながら楽しそうなのは、さすがはユリシーズといったところか。趣味が悪いというべきか、なんというべきか。


「そう」


 短く言い、アリシアが歩き出す。エヴァンとカミラは顔を見合わせた。


「ついていけばいいんだよね?」

「たぶんな」


 仕事がかかわっているのなら、アリシアは絶対に話さない。それなら、聞くだけ無駄だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ