17. 王都編
エヴァンは、ゆっくり目を開けた。明るい光が目に入り、一瞬目を閉じる。それから、もう一度目を開けた。
「どこだ……?」
ベッドに寝かせられている。だが、この部屋は見覚えがない。とりあえず、体を起こす。
「ベル?」
ベッドの横に置かれた台。その上に、小さなベルと、「起きたら鳴らしなさい」と書かれた紙がある。
チリン
と心地良い音が鳴った。
少しして、扉が開かれる。
「起きたのね。よかったわ」
「アリシア」
明らかに疲れた顔をしたアリシアは、扉を閉めて近くの椅子に座った。
「体の調子は?」
「大丈夫だ」
「エヴァン。起きたすぐに悪いんだけど、何が起きたのかは覚えている?」
教会を出たこと。連れ去られたこと。そして、地下室。
「カミラは!?」
「大丈夫よ。今は、違う部屋で寝ているわ」
「怪我はないんだな?」
アリシアがうなずく。
「ええ」
「寝ているのも、具合が悪いとかじゃないんだな?」
「大丈夫って言っているでしょう。カミラにつけられていた魔術封じの手錠も、犯人に外させたわ」
エヴァンは、体の力を抜いた。
「よかった」
「正確に言うと、気絶させたのよ。あなたを治療しないといけないのに、すがりついて離れようとしなかったから」
アリシアは、疲れた様子で言った。
「でも、あなたの記憶がなくなっていなくてよかったわ」
「記憶? 何かあったのか?」
「そういうわけじゃないけど、頭を強く打ったみたいだったから、心配していたのよ」
その怪我はない。治療をしてくれたようだ。
「ねえ、エヴァン。私は言ったわよね? あなたが狙われているかもしれないし、動き回っても解決することじゃないって。だから教会にいなさいって、そう言ったわよね?」
「……言われました」
怒られるだろうと思っていたが、案の定怒られただが、怒られているということは、生きて帰れたということ。その事実をかみしめる。
「まあ、こうなるような気はしていたわよ。あなたがじっとしているわけがないと思ったわ」
「あのなあ」
そう言われると、うれしくない。
「責めてるわけじゃないわ。ただ、文句のひとつくらい、言いたかっただけよ」
「悪かった」
「謝らなくていいわよ。どうせ、反省していないでしょう」
そう言われると、反論できない。こうなることをわかっていても、エヴァンはじっとしていなかっただろう。
「さて、まじめな話をするわよ」
「まじめな話?」
「このあと、王の盾が話を聞きに来るわ」
「王の盾!? 軍じゃなくてか?」
アリシアがうなずく。
「王の盾よ」
「何で?」
「それを聞かれても困るわよ。王の命令でしか動かない王の盾なんだから、国王に聞かないとわからないわ」
エヴァンは額を押さえた。
「俺が王都を吹っ飛ばしたとかいうわけじゃないよな?」
最後のあの爆発。あの威力なら、周辺一帯が吹っ飛んでいてもおかしくない。
「安心なさい。話を聞かれるだけよ」
「待て。そもそも、どこだ? ここ」
エヴァンが捕まっていた建物は、完全に壊れたはずだが。
「グリフィン商会の、別の建物よ。幸い、ここは壊れなかったわ」
「あそこの近くだろ? よく壊れなかったな」
「私と一緒に駆け付けた軍が、なんとか抑えたのよ。おかげで、壊れるのはあの建物だけですんだわ」
それはよかった。
「アリシアも来てくれてたんだな。爆発で怪我はしなかったか?」
「ええ。門の前で押し問答していたら、いきなり屋根が飛んで建物が爆発したのよ。さすがに、おどろいたわ」
「巻き込まれなかったのなら、よかった」
じっとしていろ、軍に話しても聞いてもらえない。そんなことを言いながら、なんだかんだ駆けつけてくれるのはアリシアらしい。
「話を戻すわ。とにかく、王の盾が話を聞きに来るから、正直に全部答えてちょうだい」
「服とか、ちゃんとしたものに着替えた方がいいか?」
「大丈夫よ、それで。今起きた人に、そんなことは求めないでしょう」
それにうなずいてから、エヴァンは首をかしげた。こんな服は、持っていない。
「俺の服は?」
「血まみれのボロボロだったから、軍の人が着替えさせたわよ。その服は、一応置いてあるわ」
「捨ててくれてよかったのに。この服は軍に返した方がいいか?」
「さあ。自分で聞きなさいな。さすがに、そこまでは聞いてないわよ」
アリシアは、どうでもいいというように言った。まあ、アリシアには関係ない。エヴァンが服を返さなければいけないか、もらっていいか、など。
「また話がずれたわね。王の盾はひとりずつから話を聞きたいみたいだけれど、もしかしたらカミラがふたりがいいって言うかもしれないわ。そうなったら、ふたりから同時に話を聞くことになるから、一応覚えておいて」
「カミラからはまだ聞いてないのか?」
「言ったでしょう? 気絶させたって。話を聞けるような状態じゃなかったのよ。そうとう錯乱していたから、何かあったんでしょうね」
エヴァンが最後に見たカミラは、縛られてぐったりしていた。その前に何があったのかは、何も知らない。
「あなたが支えてやりなさい」
「アリシアは一緒じゃないのか?」
「一緒じゃないわよ。私は関係ないじゃない。誘拐されたのはあなたたちふたりだし」
おっしゃるとおりである。
「本当は、ここにいる必要もないのよね」
「じゃあ、何でいるんだ?」
「あなたたちを落ち着かせるためかしらね? いきなり王の盾が来たら、おどろくでしょう」
「それはそうだな」
こうやって少し事情を話してくれるだけでも、落ち着く。
「それに、元気な顔も見たかったから」
アリシアが大きく息を吐く。
「目が覚めてよかったわ」
「心配かけた」
立ち上がり、扉に手をかけて振り返る。
「ここからは離れるけど、何かあったら呼んでちょうだい」
「わかった」
扉が閉まり、またひとりに戻った。




