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隻眼の冒険者  作者: 綾川朱雨
第二部
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15. 王都編

 アリシアが教会の奥に歩いていく。その後ろ姿が完全に消えたことを確認して、エヴァンはまた扉を開けた。


「悪いな、アリシア」


 アリシアの言っていることは理解できる。だが、納得できるかは別問題だ。


 たとえエヴァンが狙われているとしても、そう簡単にやられるつもりはない。エヴァンを捕らえるなど、できるはずがない。それこそ、軍を一部隊連れてくるか、A級の二人でも引っ張ってこない限り。A級の強さは伊達ではない。


 今は、じっとしていたくなかった。何もできないとわかっていても、解決しないとしても、動いている方が落ち着くのだ。


 近くの屋台に声をかける。


「グリフィン商会の本店はどこですか?」

「グリフィン商会? それでしたら、あっちに行けばいいですよ。三つ目の門で右に曲がって、あとは大通り沿いにまっすぐ。少し歩きますけど」

「ありがとうございます」


 女性が指差した方向に歩く。大通りを行けばいいだけなら、わかりやすくていい。


「あのとき、あそこを通らなければ……」


 小道から大通りに合流する道。まがった瞬間に、カミラは消えた。つまり、犯人はカミラとエヴァンの行動を把握していた。


「あの道で、気付かないはずがない」


 大通りならまだしも、あの人のいない道であとをつけられていたのなら、間違いなく気づいた。だから、あそこには人がいなかった。


 だとしたら、大通りで待ち伏せされたとしか考えられない。だが、カミラがどこから大通りに合流するかなんて、予想できなかったはずだ。それなら、なぜ。


「すべての合流地点に人を置けば何とかなるだろうが、そこまでするか?」


 こうやって何かを言っていても、誰にも聞かれないのは、人が多いところの利点だ。すべてが、にぎやかな談笑に消えていく。


「そもそも、目的は……?」


 カミラを誘拐したのが、カミラの能力目当てなら、まだいい。それなら、カミラは殺されることはない。だが、そうでなかったら? グリフィン商会への復讐、そんな目的だったら、カミラはきっと殺される。


「あとは、やっぱり俺が狙いか」


 エヴァンの能力か、権力か、金か。エヴァンを捕らえた時点で、権力は使い物にならない。だが、十分だろう。何をしたいのかはわからないが、エヴァンの能力でもってできないことは、そんなにない。


 エヴァンは、とっさに振り返った。異様な気配。何がおかしいのかは説明できない。だが、何かが違う。


 近づいてきた男の腕をつかむ。それをひねりながら、まわりを警戒する。こいつひとりではない。


「カミラ」


 耳元でそうささやかれ、つかんでいた手から力を抜いてしまう。


「何だ?」

「おとなしくしろ。でないと、カミラの命は保障しない」


 ふっと、体から力を抜く。カミラは、まだ生きている。どうせ、この町中で魔術を放つわけにはいかない。関係ない人を巻き込んでしまう。


 まわりの人は何も気づいていないのか、ふつうに歩いている。


「両手を後ろにまわせ。止まるなよ」


 ゆっくり歩きながら、両手を後ろにまわす。カチャン、と音がして、腕に冷たいものが触れる。


「何をした?」

「手錠だ。あばれるなよ」


 試しに腕を少し動かすと、硬い音がした。これでは、ほとんど動かせない。この男を引き離して逃げることも不可能だ。腕が動かないと、走れない。


「お前らの目的は俺か? カミラか?」

「さあな。お前はただ、言うことを聞いていればいい」


 男の声色に変化はない。


「じゃあ、今どこに向かっている?」

「お前の目的地と一緒だ」


 グリフィン商会。ということは、カミラを誘拐した犯人はグリフィン商会だ。やはり、何かが起きている。カミラが感じていた違和感は、正しかったのだ。


 エヴァンは、声に出さずアリシアにわびた。アリシアの言っていたことはだいたい当たっていた。エヴァンが狙われているかもしれない、とアリシアは言っていたのだ。それを軽く見た結果がこれだ。次会ったら、怒られるだろう。次に会えるといいが。


 大丈夫。アリシアは、鋭い。たぶん、何とかしてくれる。そう、信じるしかない。


 そしてエヴァンは、中から壊せることを願うしかない。


「ひとつ、教えろ。お前は何で、グリフィン商会に向かっていた?」

「さあな」


 おそらく、この男は中心人物ではない。言うことを聞いているだけだ。だから、エヴァンを害することはできないし、カミラを傷つけることもできないはずだ。


 だから、思いきり嘲笑う。


「お前はただ、俺を連れて行けばいいんじゃないのか?」


 相手の言葉をもじって。


「お前、自分の立場をわかってるのか?」

「俺とカミラを殺すことはできないんだろ?」


 エヴァンをわざわざ拘束して連れて行くということは、犯人は生きているエヴァンを欲しがっている。そして、カミラが殺されていないのも、同じ理由だろう。ならば、よほどのことをしない限り、殺されることはない。


「殺さずとも、痛めつけることは簡単だ。女の顔に傷を残したくはないだろ?」

「……だから、こうしておとなしくしてるだろ」


 カミラを人質に取られてる以上、下手なことはできないのだ。だから、黙って連れていかれている。


 救いは、アリシアが狙われていなさそうなことだ。


「俺を連れて行ってどうする?」

「さあな」

「A級にこんなことをして、ただで済むと思っているのか?」


 ただの冒険者ではない。軍に監視されるほどの存在。だが、


「A級だからいいんだよ」


 男はそう言った。何を考えているのか、わからない。


「そんなに質問しても、答えねえよ。黙って歩け」


 そう言われてしまえば、そうするしかない。どうせ、まともに答えてくれやしない。表情は見えないし、声色もまったく変わらない。聞く意味がない。


「最後に、ひとつだけ。俺が言うことを聞けば、カミラには手を出さないな?」

「必要以上に痛めつけたりはしねえよ。お前が言うことを聞くんならな。あいつも貴重な人材だ」


 やはり、カミラの力もエヴァンの力も欲しいのだ。だが、すべての言うことを聞くわけにもいかないだろう。しかし、それを考えるのは、話を聞いてからでいい。


 無事でいてくれ。ただ、今はそれだけだ。

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