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隻眼の冒険者  作者: 綾川朱雨
第二部
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6. ギアトーレ編 Ⅱ

 王都に行くことをギルドに言わなければならない。

 というわけで、朝昼兼用のご飯を食べたあと、ギルドに向かう。


「王都に行くんですよね。わかりました。途中に通った町での、ギルドへの報告を忘れないようにお願いします」

「はい」

「それから、エヴァンさんは支部長が話があるそうなので、こちらへ」


 奥を示される。


「エヴァン、ここで待ってるから」

「悪いな」


 何度も入ったことのある支部長室に通される。


「よお、エヴァン。あのあと、元気か?」

「はい。問題ありません」


 エヴァンの目が治ったと聞いたとき、この支部長は誰よりも喜んでくれたらしい。厳しくても、情に厚い人だ。そのあとも、何度か声をかけてくれている。


「そこ座れ」


 支部長の向かいに座る。


「王都に行くんだよな?」

「はい」

「だったら、カジェは行くか?」


 カジェは王都のすぐ隣の町だ。といっても、交易を中心に担う王都とは違い、漁業の中心となっている。


「通る予定はありませんでしたけど、行くことは出来ます。近いですから」

「それなら、ちょうどいい。もともとお前に振ろうと思っていた依頼なんだけどな」

「何ですか?」


 支部長はため息をひとつついた。


「カジェの海で、リヴァイアサンが出た」

「リヴァイアサン!? 本気ですか?」

「ああ」


 陸の王がドラゴンなら、海の王はリヴァイアサンだ。その巨大さと強さは、他に引けを取らない。


「あのあたりにリヴァイアサンが出るなんて聞いたことがないんですけど」

「俺もない。ただ、事実なんだよ。残念ながらな」

「被害は、出てるんですか?」


 それには首を横に振る。


「今のところはない。というか、漁に出ないように命令してるから、被害がないんだ。陸に攻撃してくるほど近くには居ないから、そこは問題ない」

「それならよかった」

「ただし、カジェは漁業が中心だからな。それを禁止しちまうと、どうしても金がなくなる。住民が早く何とかしてくれって、だんだん荒れてきてるらしい。といっても、出たのは今から十日くらい前なんだがな」


 エヴァンは眉を寄せた。


「十日前に出てるのなら、何でもっと早く依頼を出さなかったんですか? 俺が暇してるのは知ってるでしょう」

「カジェには、海を信仰する人がいる。恵みを与えてくれる偉大な存在ってな。それで、そいつらが反対してるんだ。あれは海がお怒りなのだ。倒すなんてとんでもない。鎮めなければいけないって感じで」

「さっき、早く何とかしてくれって荒れてるって言いませんでした?」

「それはカジェに新しく入ってきてるやつだったり、あとは商人だったり。まあ、とにかく、そういう信仰がないやつらなんだよ。逆に、リヴァイアサンを倒すなって言ってるのは地元の漁師でな」


 支部長の声が苦い理由がわかった。これは、依頼が簡単にできないわけだ。


 タルアはみんなラミ教を信仰しているが、カジェのように独自の何かを信仰しているところはある。それは、神ではないことになっているが、信仰している人にとっては神なのだろう。


 ラミ教すらまともに信じていないエヴァンには、いまいち理解しにくい話である。


「でも依頼することにした、と? それはカジェの総意ですか?」

「いや。今でも反対してるやつは多い。ただ、カジェは王都の近くだろ? 他国の船もそのあたりの海を通る。そいつらに害があったときに、最悪報復として戦争になる可能性もある。だから、リヴァイアサンが王都の近くに行く前に倒さないといけない」

「王の命令ってことですか」


 支部長がうなずく。


 これはよほどのことだ。基本的に、魔物の討伐依頼はその地域が冒険ギルドに言い、それを冒険者が受ける、という形をとる。だが、今回は王の命令。それだけ、反対が根強かったのだろう。


「依頼は受けますけど、その信仰の云々に関しては俺はどうしようもありません。それは、ギルドが何とかしてくれますね?」

「少なくとも、倒したことでお前が攻撃されるようなことにはならないようにする。多少憎まれるかもしれんが、それくらいは許せ」

「まあ、それくらいはいいですけど。カジェに長くいるつもりはありませんし」


 事情が事情とはいえ、魔物を倒して憎まれるというのも変な話である。


「王の命令ということは、報酬はどうなるんです? もしかして、ゼロですか?」


 王の命令なら、無条件に従うのが義務。ならば、たとえ報酬がないとしても、エヴァンは魔物を倒さなければいけない。


 だが、さすがにそれは辛い。魔物を倒すのは慈善事業ではない。


「安心しろ。それはさすがにない」

「よかった……」

「依頼を達成したことに対する報酬は、王宮から支払われる。といっても、ギルドのお前の金庫に入ることになるから、結局はいつもの報酬と一緒だな」


 示された金額は、三万五千タリー。エヴァンは、その桁を数え間違えていないか、思わず二度見した。


「めちゃくちゃ高くないですか? たしか、リーンのドラゴン倒したときが一万タリーだったでしょう」

「いや、少し高いくらいだぞ。今回のリヴァイアサンの方が戦いにくいだろ? まあ、少し色がついてるのは、信仰がなんとやらの厄介ごとに巻き込むからって話だろうな。それに、王様からの依頼だ。値段が、王の価値を示す」


 魔物の討伐に、普通より高い報酬を出す。それは、国王が冒険者を重んじている証であり、また、住民を守るために高い金を出した、というのはアピールにもなる。


 ただただ魔物を倒していればいい冒険者とは違うのだ。考えることが多い。


「魔石に関しては?」

「それは、ギルドが買い取る。値段はその大きさによるな。ただし、魔石に関しては無理をしなくていい。海だから、やりにくいだろ?」


 海の上で戦ったとして、リヴァイアサンを倒したあと海に落ちていく魔石を取るのは手間がかかる。


「そうですね。わかりました」

「なるべく早い方がいいですよね?」

「ああ。王都の用事は急ぎか?」


 エヴァンは少し考えたあと、首を横に振った。カミラには悪いが、グリフィン商会に行くよりもカジェでリヴァイアサンを倒す方が優先だ。


 それに、カミラが急ぐというのなら、どこかで別れればいい。


「いえ。王都の前にカジェに行きます」

「助かる。それで移動の話なんだが」

「旅費ならいりませんよ。俺の用事のついでなので」


 依頼で遠くに行かなければいけない場合、旅費が出ることがある。小さい依頼だと旅費が報酬と同じくらいになってしまうことがあるからだ。


 A級ともなれば、報酬はかなり高額なので、そんなことはあり得ない。それでも、依頼をするときの礼儀として旅費を出してくれることは多い。


「いや、それどころの話じゃない。聞いて驚け。王家が馬を出してくれる」

「馬を? 俺に?」

「一緒に行く人がいるのなら、その人の分も出してくれるそうだ。もちろん、あまりに人数が多かったら話は別だが」


 エヴァンらが死の領地に行くときは、歩いて行った。だが、A級だったときは、馬をよく使った。町で借りられるし、途中で馬亜を変えることもできる。そして、歩くよりよっぽど速い。


「軍の馬ってことですよね?」

「ああ。どうする?」


 エヴァンは馬に乗れるからいい。問題はカミラとアリシアだ。二人は馬に乗れるのだろうか。


 乗れるとしても乗れないとしても、エヴァンはこの申し出を断れない。二人が乗れないのなら、別行動するしかない。


「借ります。そこらの馬よりいい馬でしょうし」

「だろうな」

「何頭借りるかはあとで伝えます。それでも大丈夫ですか?」


 支部長がうなずく。


「どうせ、ギアトーレにいる軍から借りるだけだからな。直前でも大丈夫だろ。あと、途中で軍によってくれれば、馬をかえることもできる」

「至れり尽くせりですね」

「そりゃ、王様からの依頼だからな。何日後にここを出る?」

「二・三日後ですね、たぶん」


 断言はできないが、それより遅くなることはない。


「わかった。出る日の朝に軍に行け。そう伝えておくから」

「ありがとうございます」

「一応言っておくが、カジェの人を刺激するようなことはするなよ」


 子どもに注意するような口調で言われる。


「わかってますよ。大丈夫ですって」

「それじゃ、頼むな」


 エヴァンは支部長室を出た。

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