表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隻眼の冒険者  作者: 綾川朱雨
第二部
42/97

5. ギアトーレ編 Ⅱ

 テントの中に入ったが、今夜はお酒を飲んでいないため、あまり眠くない。


「エヴァン、もう寝る?」

「もう少し起きててもいいかなって思ってるけど」

「じゃあ、私も起きてようかな。まだ眠くないし」


 カミラが椅子に座る。エヴァンもその向かいに座った。


 カミラも眠くないらしい。そもそもアリシアは寝るのが早い。朝がカミラとエヴァンより早いのだから当たり前だが。


 それに比べると、エヴァンとカミラは夜に起きていることが多い。


「それにしても、エヴァンって軍に顔が利くの? お世話になったことでもあるの?」

「軍に世話になったって、嫌な言い方だな」


 まるで、逮捕されたかのような言い方ではないか。


「だって、軍の屯所に入った瞬間、『あ、エヴァンさん』って言ってすぐに奥に通されそうだったじゃん。それをエヴァンが断っただけで」

「まあ、A級だからな、俺は」

「それが何か関係あるの?」

「ちょっと面倒な話だぞ」


 カミラがうなずく。エヴァンは、こめかみを指で触った。アリシアと違って、説明は得意ではない。


「そもそも、軍人と冒険者の違いは知ってるか?」

「えっと……。軍人は人が相手で、冒険者は魔物と魔族が相手、だっけ?」

「そう。それが原則だな。それの例外がA級冒険者だ」


 カミラの頭に疑問符が浮かぶ。


「説明が行ったり来たりするかもしれないけど、それはごめん」


 一応、前置きだけする。


「冒険者は魔物と魔族だけを相手にする。だから、人を相手にするのは禁止されてるんだ。国全部をまき込むような大戦でなければ、戦争とか反乱が起きたときに冒険者は参戦してはならない」

「それに対応するのは軍人だから?」

「ああ。だけど、A級冒険者は違う。簡単に言うと、戦争が起きたら戦場に駆り出されるし、反乱が起きたら鎮圧に力を貸す。つまり、軍の手伝いをする義務がある」


 カミラがうなずいた。きちんと伝わっているらしい。


「何でA級だけ?」

「自分で言うのはなんだけど、強すぎるからだな。A級が本気を出したら、町のひとつやふたつ、一日でなくなる。それだけの力を使わないのは馬鹿らしい」

「エヴァンならそれくらいできそうだね……」


 やろうとは思わないが、A級の三人が力を合わせれば国ごとなくなるかもしれない。


「俺が冒険者になる前だけど、反乱の鎮圧に駆り出されたことがあったらしい」


 詳しく聞いたことはないが。


「話変わるかもしれないけど、A級って条件何なの?」

「厳密に言うなら、軍人十人でも敵わないって判断されたらA級になる」

「どういうこと?」


 どういうこともなにも、そのままである。


「冒険者が刃向かったときに、軍人十人で押さえられるかどうか、が境目なんだよ。それが不可能だとされたらA級。その代わり、軍から監視される」

「待って。根本的なことを聞くけど、冒険者と軍って対等なの? それだったら、強制はできないよね?」

「そこから説明した方がよかったか」


 もう一度、頭を整理しなおす。


「立場は軍の方が上だ。さっき、軍人と冒険者の違いを聞いただろ?」

「うん。相手が違うって言ったね」

「それだけじゃなくて、一番はシステムなんだ。軍人は国に雇われている。だから、成果とかに関係なく、毎月一定の給料をもらっている。その代わり、戦争とかの有事のときには、命を投げ出してでも国を守らないといけない。簡単に言うと、国に雇われてるんだな。だから、戦う義務がある」


 それだから、エヴァンは軍に入りたくなかったのだ。規則が多いところはめんどくさい。そういうのは向いていない。


「それに対して、冒険者はもっと自由だろ? ギルドに雇われているわけじゃない。成果に応じて金はもらえるけど、それも義務じゃない。金がどうしても欲しいのなら危険を冒してもいいし、そこまで金が必要ないのなら少し魔物を倒すだけでもいい。どうするかは全部冒険者に委ねられている」

「つまり?」

「つまり……、軍は国に縛られているが、冒険者はそういうわけじゃない。というわけで、必然的に軍の方が立場は上になる」


 カミラがうなずいた。理解してくれているらしい。よかった。


「だから、冒険者は常に軍に監視されている。ギルドを通して、だけどな」

「監視されているの?」

「武器持ってるんだから当たり前だろ。どこか他の町に行くときもギルドに申請しないといけないし、他国に行くことは許されていない。それは、ギルドが、まあつまり軍が冒険者の居場所を把握するためなんだ」


 そして、小さな罪、例えば盗みだけでも、冒険者の資格ははく奪される。武器を持つことには、それくらいの責任が生じる。だが、冒険者はみんなそれくらいは当たり前だと思っている。冒険者が団結して反乱を起こしたら、相当な勢力になることをわかっているからだ。


「だから、A級は軍に命令されて駆り出されるってこと?」

「ああ。だから、俺は軍に顔が利くし、ちょっとしたことなら優先して協力してくれる。あっさり俺の質問に答えてくれたのも、そういうことだ」

「大変なんだね、A級って」


 エヴァンは首を横に振った。


「普段はさして意識することないからな。それに、義務がある代わりに、他の冒険者よりも権利を持ってる」

「権利? どんな?」

「一言で言うなら、人を殺す権利」


 カミラの目が見開かれる。身を乗り出してくる。


「エヴァンって人殺しても捕まらないの!?」

「違う違う。俺の言い方が悪かった。そういうわけじゃない」

「どう考えても、エヴァンがそう言ったでしょ」


 エヴァンは部屋の壁に立てかけてある剣を指さした。


「例えば、俺があの剣でカミラを襲ったとする。そのときにカミラが自分の剣を抜いて俺を殺したら、それは罪にはならない」

「正当防衛だもんね」

「だけど、例えば俺がアリシアをこれで襲ったとする。それをカミラが止めようとして俺を殺したら、それは罪になる」


 カミラが首を傾げた。


「私は関係ないから?」

「ああ。普通は許されない。それが許されるのは軍人とA級冒険者だけだ。軍人は市民を守ることを目的としているから、市民が傷つくとなったら犯人を殺してもいい。で、A級冒険者もそれと同じ権利を持つ」

「あ、そういう意味? うん、安心した」


 意味もなく人を殺したら捕まるに決まっている。むしろ、普通の人よりも罪が重いかもしれない。


「その代わり、他の冒険者よりは監視されてる。だから、俺は毎日ギルドに顔出してるだろ? ダンジョンに入ってないときは」

「そうだね。そういえば。別に毎日行く必要はないんだけど」

「A級は、ダンジョンに居ない限り、毎日行かないといけないんだよ。まあ、移動中に近くにギルドがないときは仕方ないけど、そのかわり自分がとこにいるのかは逐一報告しないといけない」


 カミラが目をこする。


「なんか、面倒だね」

「だから、面倒な話になるって言っただろ」

「そうじゃなくて、いろいろやらないといけないの。私はもっと気楽だからね」


 少ししゃべり方が舌足らずになっている。眠いらしい。エヴァンはつられるようにあくびをした。


 考えてみれば、アリシアの家を出てからかなり時間が経っている。


「寝るか?」

「んん、寝る」


 カミラが立ち上がる。


「おやすみ」

「ん。おやすみ」


 明日の朝、起きられる自信がない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ