1. ギアトーレ編 Ⅱ
タイトルが第一部と同じだとわかりにくいため、
ギアトーレ編Ⅱに変えました
エヴァンはカミラの剣をはじき、返す刀で首に自分の剣を突き付ける。
「はい、俺の勝ち」
「何でこんなにあっさり負けるかな……」
カミラが床に座り込んだ。肩を大きく上下させている。さらに、額には汗。
「やり始めてから少ししか経ってないんだから、当たり前だろ」
ギアトーレに戻ってから、ダンジョンに潜らないときはギルドの下の練習場で、剣を練習するようになった。
「タルアに入ってから素振りを始めて、一月とちょっとかな?」
「その程度で俺が負けたら、俺が情けないだけだな」
剣をメインに戦うことはほとんどないとはいえ、まったくできないわけではない。ギルドで真ん中くらいの実力はある。
「でも、少しは出来るようになってる?」
「構え方はぶれなくなってきたけどな。けど、実践はまだ無理だ。しばらくは素振り」
「……だよね」
「変な癖がつくと直せなくなるから、きちんと形が出来るまではそのままだな」
自己流で強い人もいるにはいるが、それでもある程度基礎ができているうえでの話だ。
エヴァンの場合は、自己流にするところまでいかなかったので、ある意味、手本のようなものである。
「でも、矢は当たるようになったんだろ?」
「まあ、前よりは。感覚がつかめてきたからね」
もともと目がいいというのもあるのだろうか。カミラの矢の上達は目を見張るものがある。
「そういえば、あそこ顔出す?」
「あそこって?」
「ほら、あの武器屋さん。名前なんだったっけ? 私が弓矢買ったところ」
まだギアトーレから出る前に、二回行ったところだ。確か、名前は……。
「ローランドだったか?」
「そうそう、そこ。こっち戻ってきてから一回も行ってないから」
「弓の調子が悪いとかいうわけではないんだな?」
カミラがうなずく。
「うん。でも、矢も減ったから買いたいんだよね。だから、挨拶もかねて」
「じゃあ、今から行くか」
「エヴァンがA級だって知ったら驚くだろうね」
そう。エヴァンは結局A級に戻ったのである。紆余曲折あったが、魔術の実力が前と変わらなかったからだろう。
「そうだな。でも、カミラが行ったら喜ばれると思うぞ。気に入られただろ?」
「でも、そのとき買ったオリハルコンの剣、もうないけどね」
「俺がユリシーズにあげたからな」
代わりに、愛用していたミスリルの剣が返ってきたのだから、エヴァンとしては損はしていない。
「今頃、あいつの物置の肥やしになってるだろうな」
ユリシーズが剣を使うとは思えない。
武器屋「ローランド」は、冒険ギルドとダンジョンのちょうど間くらいにある。実に行きやすい場所だ。それなのに顔を出さなかったのはなぜか、と聞かれると少し困る。実のところ、理由などない。用がなかっただけだ。
「いらっしゃい」
扉を開けると、おじさんの声が聞こえる。
「お、あのときのお嬢ちゃんと兄ちゃん」
覚えてくれていたようだ。カミラのことはともかく、エヴァンのことまで覚えているとは思わなかった。さすがは商売人、といったところか。
「お久しぶりです」
カミラがカウンターに近づく。
「何を探してる?」
「矢を補充しようと思って。同じ物ありますか?」
カミラが矢を一本差し出すと、おじさんがカウンターから出てきた。
「何本だ?」
「十本で」
「はいよ」
天井近くまである棚から、矢の束を取る。
「そういや、あのオリハルコンの剣はどうした? 二人とも違う剣を使ってるみてえだが」
「ああ……、その……」
カミラが困ったような顔をする。助け舟を出したいが、何も思いつかない。
普通の剣なら、折ってしまったとか欠けてしまったとか言えばいいが、オリハルコンの剣なんて、折りたくても折れるものではない。すくなくとも、折れたという話は聞いたことがない。欠けたという話も聞かない。要するに。とんでもなく丈夫なのだ。
「逃げるときに、落としてしまって……」
「あんないい剣をか? もったいない」
「すみません」
おじさんは矢をカウンターに置いた。
「謝ることじゃねえよ。お前さんらが無事でよかった」
そして、エヴァンの腰を見る。
「兄ちゃん、剣変えたのか?」
「はい」
「見せてくれ」
剣を抜いて、カウンターに置く。
「ミスリルじゃねえか。それも、純度がけっこう高いな。いい剣だ」
「ありがとうございます」
純度が云々は良くわからないが。自分の剣が褒められると嬉しい。まして、長く愛用している剣なのだ。
「どこで買ったんだ?」
「これはもらったんです。親しくしてた冒険者が怪我で引退するって言うんで、もらいました」
魔術の効率的な使い方やら、野宿の仕方やらを教えてくれた。とにかく世話になった人だ。今どうしているかは知らないが、ギルドの運営に関わっているのかもしれない。
だからこそ、ユリシーズから剣を取り戻したかった。
「ほお。大事に使えよ。これはなかなかのもんだ」
「はい」
矢と引き換えに、カミラがお金を払う。今回も、少し割引してもらったらしい。
「お嬢ちゃんは、武器以外でも目利きできるのか?」
「まあ、一応、少しは」
オリハルコンの剣を買ったときは、重さと光の反射で本物を見抜いた。だから、おじさんに好かれているのだ。
「何かあるんですか?」
「ああ。ここから二本奥に行ったところに、店があるだろ? ちょっと上等なところ。そこで、ワインの目利きをやってるらしくてな」
「ワイン、ですか? 珍しい」
酒はそこらで売ってはいるが、ワインなんてめったに見ない。エヴァンも、数えるほどしか飲んだことがない。そもそも酒好きではない、というのもあるが。
「詳しくは知らんが、当てられたら、食事が無料らしい。行ったらどうかと思ってな」
「そうですね。行ってみようかな。ありがとうございます」
おじさんに手を振られ、店を後にする。
「どうする?」
「せっかく教えてもらったし、行くか」
「アリシアにも声かける?」
アリシアにはギアトーレについてから会っていない。エヴァンとカミラは宿に泊まるかダンジョンにいるか。アリシアは教会にいるか、自宅にいるか。行動範囲が違うからか、見かけもしない。
「声だけかけるか」
「久しぶりだもんね。家にいるかな」
「いなかったら諦めるしかないな」
教会まで晩御飯の誘いをかける気はない。
アリシアの家は、町のはずれの墓地の近くにある。
カミラが扉を叩く。
「はい」
「あ、アリシア。いたんだ」
「人の家にいきなり来て、それはないんじゃないかしら」
アリシアは片手に本を持っている。読書中だったらしい。
「何か用?」
「あのね……」
カミラがおじさんから聞いた話をする。
「というわけで、行こうかと思うんだけど、アリシアも来ない?」
「行かないわよ」
冷たい、というよりは、ひどく呆れた声。
「巫女が大衆の店で食べてたらおかしいでしょう。そういうことはしないわよ。それに、お酒も飲めないわ」
「そうか。聖職者だもんな」
教義かなにかで、そう決められていた。他にもたくさん決まりがあるはずだが、思い出せない。
「それは知ってるのね」
「まあ、さすがにな」
冒険者は酒が好きな人が多い。いつ死ぬかわからないから、酒で楽しみたいのかもしれない。その中でも特に酒好きな冒険者が、自分は聖職者じゃなくてよかった、と言っていたのだ、酒が飲めないから、と。それで覚えているに過ぎない。
「二人で楽しんできなさい」
「はあい」
扉が閉められる寸前、カミラが手で押さえた。
「ねえ、今晩遊びに来てもいい?」
アリシアはかすかに眉をひそめる。だからといって嫌がっているわけでもない、というのはわかっている。だてに長く一緒に旅をしていたわけではないのだ。
「……勝手になさい」
オッケーということらしい。
今度こそ、扉が閉められた。
第二部開始です。
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