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隻眼の冒険者  作者: 綾川朱雨
第一部
35/97

34. 死の領地編

 アリシアは一階の応接間にいた。


「大丈夫?」

「ええ。ありがとう」

「起きて大丈夫なのか?」


 アリシアの顔色は、死の領地に入ってから考えると一番よかった。


 というより、どこかすっきりした顔をしている。


「大丈夫よ。怪我をしたわけじゃないし、ゆっくり休んだから。心配かけてごめんね」

「よかった」

「カミラ、食べ物もらってもいい?」

「あ、じゃあ取ってくる」


 昨日の朝から何も食べていないのだ。腹が減って当然である。


 エヴァンは、アリシアの向かいに座った。


「食欲はあるんだな。よかった」

「そこまで心配しなくても大丈夫よ。それより……」


 怪訝な顔でエヴァンを見てくる。


「すごい音がしたけど、何をしていたの?」

「もしかして、それで起きたのか?」

「ええ」


 それは間違いなくあれである。アリシアに聞こえなかったはずがない。


「悪い。魔術を失敗して爆発させた」

「怪我はないのね?」

「遠くでやったからな。大丈夫」


 カミラが戻ってくる。アリシアは干し肉を受け取ると、一口食べた。


「さすがは爆発狂ね?」


 皮肉たっぷりに言われる。からかわれているらしい。


「う……はい」

「でも、魔術が戻ってよかったわ」

「ああ。ちょっと感覚が戻りきってはいないけど、使えはするな」


 エヴァンの隣にカミラが座る。


「これからどうするの?」

「タルアに戻ってからか。決めてないな」


 ユリシーズに会って目を何とかすることしか考えていなかった。そのさきを考える余裕もなかったのだ。


「どうしたい?」

「私は何でもいいけど。とくにやりたいこともないし、やらないといけないこともないし」

「俺もそうなんだよな。とりあえずギルドには顔を出さないといけないけど」


 A級に戻ることになるのか、違う措置をとられるのか。何にせよ、話をしないといけない。


「それってどこのギルドでもいいんだっけ?」

「ああ。ギルドならどこでも」

「そっか。アリシアはどうするの?」


 アリシアは最後の一口を食べると、水を飲んでから言った。


「ギアトーレに戻るわ」

「そうか。あそこに家があるもんな」

「もともとギアトーレの教会に所属しているのよ。仕事も溜まっているかもしれないし、一度戻るわ」

「そういえば、エヴァンって家ないの? 私はないけど」


 エヴァンは首を横に振った。


「俺もない。依頼でいろんなところ飛び回ってたからな」


 家を持たない冒険者はそれなりにいる。移動するならない方がいいし、金銭的に持てない冒険者も多い。


「巫女はひとつの教会に所属しているのか?」

「そうよ。だから、ひとつの街にとどまるわね」

「じゃあ、悪いことしたな」


 アリシアは、エヴァンのせいでかなり長いことギアトーレから離れるはめになった。


 だが、アリシアは首を横に振る。


「教会の依頼だもの。仕事はよほどじゃない限り、誰かがやってくれているわよ。それに、私は特殊だからかまわないわ」

「特殊? 浄化できるってこと?」

「ええ。浄化ができる聖職者は少ないから、依頼を受けたらその場所に行くのよ。だから、私もあまりギアトーレにはいないわ。だけど、ここまで長く空けたのは初めてだから、一応戻るわ」


 A級冒険者と似たようなシステムなのかもしれない。A級冒険者も、依頼を受ければどこにでも行く。もちろん、受ける受けないは自分で決められるが。


「死の領地を抜けるまではさすがに別行動は厳しいけれど、タルアに入ってからは別でいいわよ。ふたりがギアトーレに来る必要はないわ」


 行っていることは正しい。おそらくエヴァンひとりでも死の領地は抜けられるがこの二人には無理だ。それに、何か異常があったときには三人が一緒にいた方がいい。だから、タルアに入るまでは別行動はしない。


 問題はその後だ。アリシアの言う通り、一緒にいる必要はない。


 だが、ユリシーズの言葉が頭に残っている。「心配なら目を離さない方がいいんじゃないか」と。


「いや、俺らもギアトーレに行くか。それでいいだろ、カミラ?」

「私はいいよ。どこでも」

「気にしなくていいのよ」


 エヴァンもギアトーレに用があるにはあるのだ。


「ギアトーレの支部長にはかなりお世話になったからな。挨拶しておきたい、というか、しないとあとでどやされる」

「じゃあ、ギアトーレに戻ろうか」

「わかったわ」


 立ち上がったエヴァンは、あることに気が付いた。


「ユリシーズは?」

「何だ?」


 ユリシーズが応接間の扉を開けて入ってきた。


「何でお前はそうタイミングがいいんだ?」

「俺の名前が聞こえたから来ただけだが。何か用か?」

「俺の剣返して」


 考えてみれば簡単な話だ。エヴァンはユリシーズの邪気を受けて倒れたとき、剣をなくした。だが、あの場にはユリシーズとエヴァン以外いなかった。ならば、持っているのはユリシーズしかいない。


「あの時点で、お前ほとんど見えてなかっただろ? お前が見つけられなかっただけじゃねえの?」

「それはない。ミスリルは感じるんだよ。そういう剣だ」

「だけど、あのとき魔術使えなかっただろ?」

「それでもわかるんだよ。武器屋に入ったらミスリルだけはわかるんだ」


 魔術をまとえる特別な金属。それを、直感で感じられるのだ。だから、あの場に自分のミスリルの剣が落ちていたのなら、気付かないはずがなかった。


「わかったよ。ただし、ただでは返さないぜ?」

「これやるから、返せ」


 一応常に腰に下げていたオリハルコンの剣を床に置く。


「別に剣が欲しいわけじゃないんだけどな」


 つぶやいたユリシーズは、やがてうなずいた。


「まあいいや。それで」


 そう言って、虚空をつかむ。


 その手には、エヴァンが前に使っていたミスリルの剣があった。


「俺のだ」


 それを受け取る。


「どこから出したんだ、今?」

「空間収納の応用。俺の城に、しまってある」


 つまり、城のどこからでも出せるということだ。


 つくづく、反則級に強いやつである。


 ユリシーズはオリハルコンの剣を手に取ると、持ち上げてから手を離した。


 予想通り、それは床に落ちることなく虚空に消える。


「もう出んの?」

「ここにいる理由もないし、そろそろ行くか。動いても大丈夫なんだな?」

「大丈夫よ」


 じゃあ、もういる意味はない。


「もう出る」

「んじゃ、お前らにプレゼント」

「は?」


 嫌な予感しかしない。何をくれるつもりなのだろう。


「そんな変なものじゃねえよ。ここまで来たお前らに敬意を表して、な」


 敬意などかけらも感じられない声でそう言い。また虚空をつかむ。


「一度だけ、呼ばれてやる」

「魔石、か?」


 ユリシーズに一人ひとつ渡されたのは、細いチェーンの通された黒い石。


「そ。魔石」

「これを売れってことか? これくらいじゃ、大した金にはならなないが」

「ちげえよ。言ったろ、呼ばれてやるって」


 意味がわからない。


「俺に会って話したくなったら、その石に魔力を通せ。聖気でもいい。そしたら、一度だけ、お前らのところに呼ばれてやる」

「会いたくなるわけないだろ……」

「まあ、持っとけって。一度きりだから、使いどころはちゃんと考えろよ」


 どう使えと言うのか。まあ、ただでくれるのなら、断る理由はないだろう。


「じゃあ、もらっとく」


 首にかける。


「これを常に持っていろって言うの?」


 アリシアが眉をひそめて言った。


「そこから邪気は感じないだろ?」

「それはそうだけど」

「聖気で覆うぶんには問題ないぜ。中に入れなければ。それくらいの調整はできるんだろ?」

「……わかったわよ」


 アリシアが渋々といったように首にかけ、ローブの中にしまう。


「二人も服の中にかけてちょうだい。魔石を首に下げるなんて、見られたら厄介よ」

「たしかに、そうだね」


 魔石は、ギルドに売るものであり、自分に使えない魔術を補うためのもの。身につけるものではない。


 言われた通り、服の中にかける。


 ユリシーズがニヤニヤして肩をすくめた。理由を聞くのは面倒なので、無視してやる。


「じゃあ、出るか」

「お世話になりました、くらい言ってくれねえの?」

「世話にはなってねえよ」


 目を治す、というのだってユリシーズが言い出したことだ。エヴァンが礼を言う必要はない。


「じゃあな」


 ひらひら手を振ると、ユリシーズは消えた。見送る気はないらしい。そんなことはされなくていいが。


「帰るか」


 人の住むべきところ。タルアへ。


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