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隻眼の冒険者  作者: 綾川朱雨
第一部
19/97

18. ナホマ編

 ナホマのギルドに入る。アリシアは、外で待機している。ギルドの上の人と個人的に会うことは、あまりよくないらしい。違う組織なのだから、そういうものなのだろう。


「ご用件は、何でしょうか?」

「支部長にお会いしたいのですが。E級のエヴァンと、同じくE級のカミラです」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 受付の人が中に消える。


『そんな簡単に支部長に会えるの?』

『会いたいって伝えることは誰でもできる。ただ、そんな簡単に会える人じゃないな。俺は色々事情があるだろ? だから、たぶん会わせてくれる』

『そっか』


 だが、今回ばかりはそれだけではない。


『カミラの級が上がっているだろうからな。その話は支部長からされることになっている』

『上がってるといいな』


 受付が戻ってくる。


「こちらへ」


 奥に通される。通されたのは支部長室だった。

 受付が外に出て、扉が閉められる。


「ナホマの支部長は今外しておりますので、副支部長の私が応対します」


 頭を下げられる。


『なんか、これまでと全然違うね。もっと冒険者らしい人だったのに』

『副支部長だからな。事務方なんだろ』


 支部長にはそれなりの実力を持ち、冒険者を引退した人がなる。何かが起きたときに、武力でも対応できるように。


 一方、副支部長は国の役人がなる。文字が読めなかったり、計算ができない冒険者は多い。そういったことのサポートをするのが副支部長だ。


「おかけください。まずは、カミラさんの方からお話をしましょう。リボンをはずしていただけますか?」


 カミラが、肩につけていた黄色いリボンをはずす。


「本部から許可が下りましたので、あなたの級をE級からC級にします。こちらのリボンをつけてください。そちらのリボンは回収します」


 赤いリボンを受け取ったカミラは、同じところにつける。


「ありがとうございます」

「なくした場合は、近くのギルドに声をかけてください」


 副支部長がエヴァンを見る。


「エヴァンさん。支部長に会いたいということでしたが、ご用件は何でしょうか?」

「ナホマから、死の領地に入る許可をください」


 副支部長は驚きもせず、うなずいた。


「その話は本部からも聞いています。わかっているとは思いますが、一応確認をさせてください」


 指を二本立てる。


「ひとつ目に、死の領地で起こったことに関してギルドは一切責任を負いません。全て自己責任でお願いします。ふたつ目に、C級以上でない者は連れていかないこと。それは大丈夫ですね?」


 質問の形だが、うなずくこと以外許されない問い。いくら事務方だろうが、冒険者を束ねているのだ。そこらの人とは違う。


「はい」

「あの……、アリシアは?」

「同行することに関しては、大丈夫です。問題ありません」


 ギルドはそもそも、聖職者が死の領地に入ることを想定していない。だが、話はきちんと通っているようだ


「アリシアさんについては、教会から許可が下りていますので、特例で認めます。ただし、死の領地は冒険ギルドの管轄ですので、規則に関してはギルドのものに従ってもらいます。今はここにいらっしゃらないようですが、しっかり伝えておいてください」

「わかりました」

「他に聞きたいことはございますか?」


 カミラが首を横に振る。エヴァンも、質問はない。


「ありません」

「では、ここからは違う話になるのですが、死の領地に行くのは急ぎでしょうか?」

「ゆっくりするつもりはありませんが、そこまで急いでいるわけではありません」

「では、依頼をしたいのですが、よろしいでしょうか? 場所はナホマの、死の領地に接するところです」


 死の領地に接するところなら、遠回りにはならない。通りすがりに依頼をこなせるだろう。


「内容を教えてください」

「ナホマのランベという死の領地に接した村で、最近魔物の出没が多発しています。それに関しての依頼です」

「死の領地との境を越えてきている、ということですか?」

「はい」


 死の領地との間には山がある。そして、魔物がそれを越えてくることはほとんどない。だから、人が住めるのだ。


「スタンピートの予兆ではないのですか?」

「それは私たちも考え、ディアナさんに調査を依頼しました。その結果、大量の魔物がランベの近くに押し寄せているわけではなく、スタンピートではない、ということでした」


『ディアナさんって?』

『A級冒険者だ。とりあえず、今は聞いててくれ』


「原因はわからなかったんですか?」


 副支部長がうなずく。眉間に深いしわが寄っている。


「わかりません。ただ、何らかの理由で邪気が移動しているのではないか、と考えています。核が見つかったわけではないので、おそらく強い魔物か魔族が移動し、それに引きずられる形で魔物が来ているのだと」

「なるほど」

「それを調べるには死の領地に入るしかありませんが、ディアナさんは他の依頼も受けており、行くことは難しいです。また、行こうという人もなかなかおらず……」


 まあ、死にたくないのなら行かないだろう。


「原因究明が依頼ですか?」

「まずは、今ランベにいる魔物の討伐をお願いします。こちらからも冒険者を派遣させていますが、人数が多くありません。ですから、討伐の手伝いをお願いします。これの報酬はなく、魔石の買い取りというかたちにさせてもらいます」


 ナホマはそもそも人が多いところではない。冒険者も少ない。さらに、死の領地の近くであるランベには行きたがらない冒険者もいるだろう。人数が少なくなるのは仕方がない。


「わかりました」

「それから、原因究明に関してです。今それが出来るのは死の領地に行くあなたたちだけですので、依頼します。危険な依頼ですので、報酬の三分の一を前払いします。残りは成功報酬ということになります」


 普通、ギルドで前払いされる場合は報酬の四分の一だ。だが、死の領地に入ることになると考えると、三分の一は妥当だろう。


「大義名分も必要ですし、どうでしょうか?」

「わかりました。お受けします」

「報酬はお金でもよいのですが、死の領地に行く以上、それよりも物の方がいいこともあるでしょう。いつも明かりはどうしていますか?」


 人間のいない死の領地で、金は役に立たない。


「火の魔石を使っていますが、あまり使いません。使い勝手がよくありませんし」

「それでしたら、こちらを差し上げましょう。これを前報酬とすることになりますが」


 そう言って渡されたのは、透明な筒のような物。上と下に木がはまっている。


「この中に火の魔石を入れて、魔術を中に向けて使ってください。熱くなりませんし、透明ですから、暗くなることもありません」

「これ、ガラスですよね? 貴族が持つ物じゃ……」


 カミラが言う。ガラスなどほとんど見たことがないが、カミラが言うのならそうなのだろう。


 素材が何であれ、かなり便利そうだ。


「では、それをいただきます」

「わかりました。それから、これはお願いなのですが」

「お願い? 依頼じゃなくて、ですか?」


 エヴァンは思わず聞き返す。


「はい。依頼ではありません。ですので、前報酬はありませんが、もちろんペナルティもありません」

「内容は?」

「死の領地の地図の製作をお願いします。あなたたちが通るルートだけで結構です。水のある場所や歩きにくいところなど、そういったことを書いてくれるとありがたいです」


 死の領地の地図は存在しない。ギルドが地図を欲しがるのは当然である。


「なぜ依頼ではないのですか?」

「やってくれると嬉しいですが、あなたたちが身を危険にさらしてまでやる必要はありません。ですので、お願いという形にしています。さっきも言った通り、前報酬はありません。ただし、地図と情報はその価値に応じてギルドが買い取ります」

「わかりました。できる限りのことはします」


 副支部長が頭を下げる。


「ありがとうございます」

「他に何かありますか?」

「そうですね。では、次はぜひ支部長に会ってください」


 次などあるかわからない。だからこそ、その言葉は「生きて帰ってきてください」となる。


そして、エヴァンはその言葉にうなずいた。


「はい。ぜひ」


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