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隻眼の冒険者  作者: 綾川朱雨
第一部
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16. イマリナ編

 地上に戻るには体が疲れすぎていた。

 カミラにテントを出してもらい、椅子に座る。


「戻らなくていいの?」

「ギルドへの報告は一日くらい遅れても大丈夫だろうし、安全だって約束してくれたからな」

「エヴァンが約束させたんでしょうが。脅して」


 そうとも言う。

 アリシアがグラスに水を入れ、人数分机に置いて自分も座る。


「最後は迷惑かけちゃったわね」

「操られないようにしたんでしょ? あ、羽」


 カミラがかばんをあさり、アリシアに羽を渡す。


「渡すの忘れてた」

「ありがとう」

「あのとき、何をしたんだ?」


 アリシアは聖気に囲まれていた。


「剣に聖気をまとわせただけよ。いつもよりかなり強くして、しばらく保てるようにしたけれど。本当は気を失うつもりじゃなかったんだけど、聖気を一気に使いすぎたみたい」

「今は大丈夫なの?」

「ええ。大丈夫よ」


 顔色も悪くない。


「そういえば、あの矢、役にたったぞ。あってよかった」

「何があったの?」

「あれさあ、何が起きてたの? 言われたから使ったけど、全然わかってないんだよね」


 カミラは聖気を感じなかったらしい、それならわからなくても無理はない。


「あのとき、俺はドラゴンのどこを攻撃してるのかわかってなかった」

「待って。テレパシーを切っていたの? エヴァンは眼帯をとればいいとして、カミラはどうしたの?」

「あ!」


 カミラが声をあげる。


「それで、アリシアにテレパシーを使えって言ったんだ。切ったら私が幻覚を見ちゃうから」

「そういうことだ」


 気を失っているアリシア相手にテレパシーを使えるのかは不安だったが、うまくいってよかった。


「ドラゴンは斬ってもすぐに再生していたからな。急所を狙うしかなかった。だけど、俺には急所がどこなのかわからない。だから、カミラに見つけてもらった」

「それで私はアリシアの矢を使ったけど……。でもはじき返されたよ。それに、エヴァンには私の矢がどこにあたったのか見えないはずでしょ?」

「ああ。見えない。だから、普通の矢じゃなくて、アリシアが銀粉をつけた矢にしたんだ」

「そういうことね」


 アリシアはわかったらしい。


「私の聖気を込めた銀がついていたあの矢は、邪気を浄化するわ。エヴァンは、浄化されたところを斬ったのね」

「そういうことだ。はじき飛ばされたとしても、場所だけはわかるからな」

「へえ……。よく思いついたね、そんなこと」


 あのときは必死だった。だから、思いついたのかもしれない。


「そんな風に使うとは思っていなかったわ。せいぜい少し浄化に使うくらいだと」

「あれがなかったらもっと大変だっただろうからな。助かった」

「役に立ってよかったわ。少し重かったはずだから、難しかったと思うけど」


 矢はほんのわずかに重さが違うだけでも、落ちる速さや飛ぶ距離が変わる。


「そんなに離れてなかったし、風魔術で補助したから」

「よく一発で当てられたな。俺の指示がなかったのに。成長したな」


 カミラの頭をなでる。


「なんかねえ、頭の中でエヴァンの声が聞こえたんだよね」

「俺の声? テレパシーは切ってたんだろ?」

「そうじゃなくて。なんか感覚的にって言うの? それに従ったら当たったんだよね。指示が染みついてたのかな」


 これまで何回カミラに指示をしただろう。そんなことが起こってもおかしくないのかもしれない。


「じゃあ、それに助けられたのね。何かが味方してくれたのかもしれないわ」


 アリシアが「神」と言わずに「何か」と言ったことが少し気になった。だが、アリシアの問いですぐに消える。


「それで、これからどうする? ユリシーズについて少し情報が入ったけれど」

「そうだな……。ユリシーズに会うには死の領地に行くのがいいだろうな」

「死の領地に行くの?」


 深く入ったら帰ってこられないといううわさがあるくらい、危険な場所。


「そりゃ危険なのはわかってるよ。俺も何回か入ったことあるからな。だけど、ユリシーズに会うならそうするのが一番いいだろ」

「だけど、ユリシーズはどこにでも行けるんでしょ? 追いかけたところで会えるの? その確証がないなら、危ないだけじゃない?」

「それは思ったんだよな……」


 ユリシーズが会おうと思わない限り、会えないだろう。だが、


「大丈夫だと思うわ」


 とアリシアがあっさり言った。


「ユリシーズがおもしろいことを求めているのなら、自分に会いに死の領地にまで来る人を放っておきはしないわよ。どこかで接触してくるはずだわ。どういう形かはわからないけれど」

「それは、そこまでして会おうとしている奴らに興味があるからか。それとも、からかって楽しむためか」


 まあ、おもしろいのかもしれない。自分を本気で追っている人をからかうにせよ、観察するにせよ。趣味が悪いとしか言いようがないが、おもしろさのためにダンジョンをこんなことにしたユリシーズなら、やらないとは言い切れない。


「それに、どこかで接触するのなら、死の領地の方がいいわ。関係ない人をまき込みたくはないもの」

「確かに。下手に町で会うよりは人のいない死の領地の方がいいね」

「じゃあ、死の領地に行くか」


 気まぐれなユリシーズの行動を読むことはできない。だから、アリシアの予想にかけるしかない。


「アリシアは来るのか?」

「どういう意味かしら、その質問は?」

「あ、いや。死の領地って魔物が大量にいるだろ。ってことは邪気もかなり濃いんじゃねえの? だから、大丈夫なのかって」


 数日でユリシーズに会えるとは思えない。そして、常に邪気を浄化しなければならないアリシアは、周りに邪気があると負担になる。死の領地に入ることがいいとは思えない。


「心配してくれるのはありがたいけれど、そういうわけにもいかないわよ。わかっているでしょう?」


 アリシアは自分の意思でついてきているわけではない。それがまったくないとは言えないが、一番の理由は教会からの指示だ。だから、アリシアの意思でやめられるものではない。


「教会に言えば何とかなるんじゃないか?」

「あなたから目を離してはいけないのよ。私が断ったら他の人になるだけだわ。だけど、私以上の適任はいないわよ」

「浄化が出来る聖職者が少ないからか」


 アリシアがうなずく。


「それに、これだけダンジョンに入っていたら、疲れにくい浄化の仕方くらいわかってくるわよ。だから、大丈夫」


 言われてみれば、最初の頃よりも疲れていないようにも感じる。


「ねえ。どこから死の領地に入るの? 普通の人が入る場所じゃないし、道なんてないでしょ?」

「道はないな。カミラ、地図出してくれ」


 カミラが机に地図を広げる。


 タルアは、東側は海に面し、西側はふたつの国と死の領地に接している。


「死の領地にくっついてるのはリーン、ナホマ、聖地の三か所だね」

「前に行ったときはリーンから行ったな」

「聖地から行くのは却下よ。エヴァンが聖地に近づいたらどうなるかわからないわ。聖地も、エヴァンも」


 聖地は山の上にある。その山を越えると、死の領地だ。


「聖地は聖気が強いんだったか?」

「ええ。神に最も強く守られている場所だから」

「じゃあ、確かに行かない方がいいな」


 アリシアの言う通り、何が起きるかわからない。下手すれば教会とトラブルが起きるかもしれない。そういうことは避けたい。


「前に行ったんなら、今回もリーンから行けばよくない?」

「いや、リーンはまずい」

「何で? 地図を見た感じ、そんなに死の領地に行くのに大変そうな感じはないけど」


 地図には小さく山が書いてあるだけだ。


「そうだな。山は越えないといけないが、聖地ほど大変じゃない。だけど、まずいんだよ。俺が前に死の領地に行ったのはドラゴンを倒しに行ったときだけど、そのときに依頼をギルドにしたのがリーンだったんだ」

「そうなんだ。それで?」

「リーンの人に顔を覚えられている可能性がある」


 カミラが手を打った。


「そっか。エヴァンがどこにいるのか知られたらまずいから」

「ああ。だから、リーンは通れない。というわけで、ナホマから入るしかないな。行ったことないが」

「私もない。でも、地図を見る感じ、そこまで大変じゃなさそう。山はあるけど」


 死の領地とタルアの境目はすべて山になっている。魔物はこの山を越えてこない。だから、山よりも海側には人が住んでいるのだ。


「私も行ったことはないわね。ナホマに行くとしたらこのルートかしら」

「あんまり大きな街を通らないようにしようとすると、そうなるな。道は悪いかもしれないが、距離は短いし」

「道が悪いのなんて、別に構わないでしょ。もう慣れた」


 一日中ダンジョンに潜っていることだってあるのだ。いまさら道が多少悪かろうが、文句を言ったりはしない。


「じゃあ、それで決まりだな」


 今後の方針は決まった。あとは、うまくいくことを願うだけだ。


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