#5 スキル・暴食者
「おうりゃああ!」
「ドラッガー君、そんなに一人で出しゃばっちゃダメだ!」
尚も鬼神の如き戦いぶりを見せつけるワイトだが。
そんな彼を援護すべくフレイマーは部隊を率いて橋城を降りて来ていた。
「邪魔しないでください、雇われ傭兵団長の分際で!」
「ああ、まあその雇われどうのは否定しないんだが……ただ、邪魔じゃない! 助けに来たんだよ!」
「! 助け?」
フレイマーの叫びにワイトは、ふと耳を傾ける。
「そりゃそうさ、どう見たって多勢に無勢じゃないか! こんなのを相手にするなんて、誰にだって無理に決まっている! だったら、仲間がいるんだよ!? 僕たちを頼ればいいじゃないか! そんな、一騎当千の騎士じゃないんだから!」
「な……!」
が、ワイトはそのフレイマーの言葉にカチンと来る。
――お前にはこのドラッガー家を継ぐなんて無理だ!
「俺には、こんなに多くの相手がどうせできないって言うのか!」
「え!? ど、ドラッガー君?」
既にアドンの唯血巨人部隊はそこまで迫っていた。
しかしワイトにとっては、もはやそんなことはどうでもよかった。
「ふん、見てろよ! 俺だって……」
言いながらワイトは、操縦桿を操り。
それにより上げられた唯血巨人の右手に握られた剣を見る。
ワイトは、フレイマーの言葉に思い出していたのだ。
かつて一族から侮られた、屈辱を。
――由緒正しきドラッガー家の偉大なるスキルを継承しないとは何事か!
――それどころか、よりにもよって絶やすべくして絶やされたあのスキルを復活させるなどと……もうよい! そなたはこのドラッガー家の人間ではない!
「悪いが……これは、俺が独自に継いだものさ! これを否定するならば……たとえ神だろうが悪魔だろうが容赦はしない!」
「!? ど、ドラッガー君何を!」
ワイトは意を決する。
そうだ、もはや俺は誰にも止められないと。
「……マイロード、暴食者! 喰剣 オブ トゥルース!」
「な、何だこれは!」
「!? な!」
が、ワイトは何やら呪文を唱えると。
途端に彼が駆る唯血巨人の剣は何やら黒い殺気を纏い。
かと思えば、彼が駆る唯血巨人は目にもの止まらぬ速さを発揮し。
「はあー!」
「……ぐううう!?」
「ど、ドラッガー君……」
敵の唯血巨人もゴーレムも関係なく切り裂いて行く、敵機を喰らう一騎当千の機体と成り果てる。
「ま、魔法か!? いや、違うこれって……」
「ああ……剣術スキルだよ!」
ワイトは自身の剣術スキルを発動させる。
仕組み自体は一度神に呼びかける形式の魔法に似ているが。
スキルの場合、呼びかける対象は神ではない。
そのスキルそのものである。
「さあ見ていただけましたか雇われ支団長たちい! そして皆! これがうちの見る目なきバカ親たちによって絶やされた剣術スキル、暴食者ですよ!」
「た、絶やされた剣術スキル……?」
フレイマーはやや困惑しながらも、ワイトの騎体を見る。
「ええ、その通りです! さあ、どうですか! 舐めないでくださいよ俺を!」
「う、うん舐めてはいないけど……なら! 余計一人で行っちゃダメだよ!」
ワイトの騎体はそれだけ言うや、再びアドン軍の騎体軍へと飛び込んで行く。
「でも剣術スキルか……俺はどうなってたっけ、マイロード! ……お?」
フレイマーはワイトの騎体を結局は見送りつつ。
彼は素早く、自身のスキルを探るための術を唱えた。
…… 借りだらけの雇われ傭兵団長
「借りだらけの……やれやれ、まんまこんなスキルがあったとはね!」
奇妙な話に映るが、フレイマーはスキルではなく純粋な剣技にのみ頼って来たために自身のスキルについては把握して来なかったのである。
「支団長! ワイトを援護しなければ!」
「あー……うん、まあそうしたいのは山々なんだけど。あれじゃあね。」
支団の傭兵たちが、フレイマーを促す中肝心の彼は。
「おうりゃあ! さあどうしたあ、雑魚どもが!」
ワイトが自騎を駆って剣を振るい、敵軍を薙ぎ倒して行く様を見て考えあぐぬく。
これは、どうすべきか――
が、その時だった。
「ん! な、何だ! どうした、言うことを聞け!」
「ん?」
突如として、ワイトの騎体が。
その身より発する黒い殺気をより強くし、コントロールを失い。
かと思えば。
「う……うわあああ!」
「くっ! こ、こらワイト! 騎体を立て直せ、味方まで攻撃してどうすんだ!」
「わ、分かっているが……き、騎体が急に言うこと聞いてくれなくなっちまったんだよ!」
ワイト本人も戸惑っていることに。
その騎体は暴走し、敵味方関係なく目につくものを攻撃している。
「まさか……スキルが暴走してるのか!?」
フレイマーはそこでふと気づく。
先ほどワイトが言っていた言葉もある。
絶やされた剣術スキル――
「ドラッガー君には悪いが……絶やされるには、それなりの厄介さがあったということらしいね!」
フレイマーは歯軋りする。
「支団長! アドンの騎体群の第二陣が迫って来ます……くっ! あ、ゴーレムの攻撃が!」
しかし、部下が状況が立ち止まっている場合ではないと告げる。
「ああ、そうだね……くっ、こうなれば。」
フレイマーはふと、自らの操縦席の後ろで脈打つそれに目をやる。
「まあ今はこんなとはいえ、ドラッガー君はここまで頑張ってくれた訳だし! その借りを返すには、孵さなきゃいけない……でも孵したら、また罰金という名の借りができる……ははは、こりゃあジレンマだな」
フレイマーは頭を掻く。
不潔にも、フケが舞うが。
「……なんてな! こんなの……ジレンマって言うほどのものでもない! 答えは……決まってるからなあ!」
もとよりこんな事態が初めてではないどころか、もはや似たような経験ならばベテランの域に到達している彼である。
こんな時に取る行動は、たった一つ。
そのまま手をかけるのは、成長ボリュームのレバー。
そう、フレイマーは。
「……悪いなおやっさん!」
―― いいか、もう聞き飽きたと思うが……金は返しても、卵は孵すなよ!
「……約束、守れそうにない!」
一瞬は迷うが。
結局、限界まで引き上げる。
このままでは再び、卵が孵ってしまうが。
「仕方ない、か……行っくぜーオウジャ! 頑張って生まれて来いよ!」
◆◇
「! ぐるっ!」
「キュー? どうしたんだキュー、ワシジたち。」
その頃、ヴーレへ王国内の宿屋で待機していてリシリーとペットたちだが。
ふとそのペットたちが起き上がり、外を見始めたのである。
「キュー……もしかして、フレイマーに何かあったキュー?」
リシリーはふと合点する。
この子たちが騒ぐ理由は、それかと。
◆◇
「これはこれは王女様、ご機嫌麗しく……」
「な、何ですかいきなり! この無礼者!」
そうした戦闘が外で繰り広げられている中。
ヴーレへ王城のエレナ王女の部屋に、乱入者がいた。
「初めまして……アドン王国第一王子マルダです! この度あなたを、お迎えに上がりました……」
「! て、敵の王子……なら尚のこと立ち去りなさい! ここはあなたの来る所では!」
言葉こそ気丈だが、心中は全く穏やかではないエレナは。
足をガクガクと、震えさせるのだった。