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#23 卵甲殻艦と帝国の野望

「ガルルルッ! な、何だガルあれは……」


 ウルォをして、その肝を冷やさせるもの。


 それは今、目の前に浮かぶ巨大な卵――アーク曰く、卵甲殻艦(アーマードジャーム)テュポン(ドラゴギガント)――である。


 ◆◇


「運よく残っていた予備の卵殻炉(ライフリアクター)と、本来エネルギー源となるはずだった地牢竜(ヘルワーム)卵の欠けを補うための大量の死地竜(デッドリーワーム)卵……これらがあってようやくお蔵入りを免れましたね、卵甲殻艦(アーマードジャーム)!」


 この戦場をやはり毎度のごとく高見の見物するアークは空を見上げ、歓喜している。


 そう、本来ならばこの卵甲殻艦(アーマードジャーム)――ひいては、その卵殻炉(ライフリアクター)は高出力モンスター卵対応型の卵殻機関(インキュベータ)なのだが事実上高出力モンスター卵専用であるため地牢竜(ヘルワーム)卵がなくば使えない。


 いや、使えないはずなのだが。


「更に改血機(トランスブリーダー)による調整を、その大量の死地竜(デッドリーワーム)卵に施し使用することで数だけでは補えなかったエネルギー面も賄えるようになりましたよ……さあ!」


 アークは大量の卵殻炉(ライフリアクター)子機と本体と接続させ。


 その子機一つ一つに、生命の書(ライフグラム)を少々改造した死地竜(デッドリーワーム)卵を搭載し子機を並列することで出力不足を補うことができたのだった。


 ◆◇


「ガルルルッ! 何を恐れているガル、者共! 敵が空にいるなら、俺たちも空に行くガル!」

「ウォオオン!!」


 そうして戦場では、現れた卵甲殻艦(アーマードジャーム)に怯みつつも。


 後衛にいるウルォの言葉により、前衛の混血魔獣ハイブリッドキメラティクス群は一斉に翼を広げ。


 勢いよく、羽ばたいて行く。


「! 支団長。」

「ああ……そういえばあのモンスター型唯血巨人、羽があったな。」


 フレイマーらもこの様を見て声を上げる。

 しかし。


「ガルルルッ! そ、空は慣れないガル……」


 混血魔獣ハイブリッドキメラティクスの中でウォロル族戦士は、やや怯える。


 そう、これまで彼らが空を駆けなかった理由はここにあった。


「ウォオオン! だがそれで動きを止めてしまえば戦士じゃないガル! 行くガル者たち!」

「ガルルルウォオオン!」


 だが戦士たちは、自らを鼓舞し。

 慣れぬ空にも、果敢に混血魔獣ハイブリッドキメラティクスを駆り向かって行く。


「宰相様!」

「ううむ、目障りだ! だが奴らごときにまだ全力は出すまい……成長フェーズを一段階上げよ、撃ち落とす!」

「は、ははあ! 成長フェーズ、一段階上げ!」


 卵甲殻艦(アーマードジャーム)司令室より、ツェングが号令を出し。


 たちまち卵殻炉(ライフリアクター)周囲にあるその子機多数のうち、一部に張り付いている防護服着用の作業兵が成長フェーズレバーを引き上げる。


 それにより。

 卵甲殻艦(アーマードジャーム)の上部卵殻の一部が開き。


 そこより、何かが覗く。


「! な、何だあれは!?」

「あれは……ん!?」


 尚もフレイマーら地上の部隊が戸惑う中。

 その開いた上部卵殻の一部内より、前方広範囲に熱線が放たれる。


「ウォオオン!」

「グルルル!」


 それにより空中の混血魔獣ハイブリッドキメラティクスたちは、瞬く間に一掃される。


「グル! おのれ……よくも! 皆、俺たちも行くガル!」

「ガルルルッ!! ウォオオン!」


 それを見たウルォは、怒り心頭に発し。

 自身を含め、残りの地上部隊を鼓舞し。


 飛び立つために混血魔獣ハイブリッドキメラティクスを駆り、その翼を広げ助走を始める。


 しかし。


「ははは……さあ、そろそろ終わりだ! 成長フェーズを更に引き上げよ、これより巨人(ギガント)形態に移行する!」

「はっ!!」


 ツェングの更なる指示を得て、卵甲殻艦(アーマードジャーム)にも更に動きが生じ。


 たちまちその巨大卵型艦体には割れ目が走り、そのまま全ての卵殻が開かれる。


 そう、これはすなわち。


「ガルルルッ! 待て、動きを止めるガル!」

「あ、あれは……た、卵が巨人型になるガルか!?」


 ウォロル族部隊は、そのただならぬ動きに驚き動きを止める。


 これはすなわち、巨大卵から巨人が孵ったかのような動き。


 いや実際に卵甲殻艦(アーマードジャーム)は、その巨大卵型から巨大な唯血巨人(ユニブラッドマトン)の姿となった。


「ち、超巨大な唯血巨人(ユニブラッドマトン)!?」


 その姿にはウォロル族のみならずフレイマーら非獣人部隊も、息を呑んだ。


 それはやはり、卵から出来た鎧を纏ったような蛇獣人型巨人の姿である点は通常の唯血巨人(ユニブラッドマトン)と同じだが。


 大きさがまず、その通常型の六倍はあり。

 更に両膝下は、蛇の尾のような形状であり長く。


 その身体中に、無数の蛇を生やしていた。


 そうした超巨大唯血巨人(ユニブラッドマトン)型に変形した卵甲殻艦(アーマードジャーム)テュポン(ドラゴギガント)は、地上にその蛇型脚を下ろす。


「ガル!」

「グル!」

「くっ、皆! 一旦退がるぞ!」


 その地響きと共に、ウォロル族と非獣人部隊双方は大きく体勢を崩す。


「宰相、奴らかなり驚いています!」

「ははは、そうだろうなあ……さあ、更にこの力を見せつけてやる! 全身の蛇頭部砲塔より斉射だ、目標ウォロル族混血魔獣ハイブリッドキメラティクス群!」

「了解! 全蛇頭部砲塔、ウォロル族混血魔獣ハイブリッドキメラティクス群に向けよ!」


 その間にテュポン(ドラゴギガント)は、全身から生える蛇を混乱する混血魔獣ハイブリッドキメラティクス群に向け。


 その蛇たちの目や口に、エネルギーが滾る。

 そして。


「斉射!」

「ガルルル……ウォオオン!!」

「ガルッ……皆!」

「お、お逃げくださいガル! 族長!」


 テュポン(ドラゴギガント)全身の蛇から、火線が無数に広範囲に斉射され。


 それにより混血魔獣ハイブリッドキメラティクス群は、焼き尽くされていき。


 わずかな幸運を得られたウルォのものを含む騎体のみが、そこより逃れていった。


「そうだ……思い知ったか騎獣遊牧民族め! 貴様ら蛮族共ごときがこのユロブを統一しようなどと笑止千万! このフロマこそ……大陸の覇者だ!」


 そうして焼け爛れた混血魔獣ハイブリッドキメラティクス群の残骸が散らばる戦場を睥睨し、ツェングは高らかにそう宣言する。


「さて……次は。」

「!? ひ、ひい!」

「あ、あの超巨大唯血巨人(ユニブラッドマトン)が、こちらに目を!」


 更にテュポン(ドラゴギガント)は頭を巡らし、非獣人部隊の唯血巨人(ユニブラッドマトン)を睨む。


「ふふふ……虫けらのごとき小型! いや失礼、従来型の唯血巨人(ユニブラッドマトン)群を駆る小国の者共! よく聞け。これより我らフロマ帝国は貴様らユロブの諸国に対し、大陸統一すべく宣戦布告する! 心してかかるがよい……」


 ツェングは、そう高らかに宣言した。


 ◆◇


「さあ王子様、次は何をして差し上げましょうか?」

「い、いやよい! 服ぐらい自分で」

「いえいえ、それは私たちが」


 その少し後、ヴーレヘ王国にて。

 なんとマルダが、メイドたちに囲まれていた。


 ――頼む、雇われ傭兵団長! お前の家に亡命させてくれ!


 ――え……? (まいったな、エレナ王女もいらっしゃるのに……そうだ)いえ王子、それは無理ですよ! うちはしがない商会傘下の、非国家による宿場都市ですから。亡命というのは国同士でやるものですから、そうですね……ヴーレヘ王国に亡命されては?


 ――何!? (おお……ヴーレヘ王国、あそこはエレナ王女のいらっしゃる所!)そ、そうだな! ま、まああそこなら亡命してやってもよいぞ!


 こんなやり取りがフレイマーとの間であり、マルダはヴーレヘに亡命したのだが。


 残念ながら、当然エレナの姿はなく。


 たちまちマルダはかつての敵国王子ということでヴーレヘ国民からその溜飲を下げるがごとく、こうしてメイドらから赤ちゃん扱いをされる嫌がらせを始め。


「さあ、次は王家直属拳闘士のサンドバッグ……いえ、練習のお相手の時間でちゅよ!」

「い、いや今サンドバッグと言ったな貴様! ひ、ひいい! た、助けてくれ!」


 様々な嫌がらせを、受けることになったのだった。

 が、その時である。


「か、火急! 火急! ふ、フロマより早馬が参りまして……わ、我が国を含めた周辺諸国に宣戦布告を!」

「!? な、何!? ……ぐう!」


 ヴーレヘ王城内を駆け巡った報せと共に、近くで地響きがする。


「な、何事だ!? ……な、あ、あれは!?」


 驚いたマルダをはじめとする者たちは、城外を見て驚く。


 それは。


「さあヴーレヘ王国……我らはフロマが使いである! 今しがた宣戦布告をしたばかりであるが……さあ! この超大型の唯血巨人(ユニブラッドマトン)たる卵甲殻艦(アーマードジャーム)テュポン(ドラゴギガント)と戦うか降伏か! 選ぶとよい!」


 先ほどのフレイマーたちとの戦場から離脱し、やって来たテュポン(ドラゴギガント)より。


 ツェングの声が、高らかに響く。


 ◆◇


「そ、そんな……私のヴーレヘが、また!?」

「はい……申し訳ありません!」


 実家に帰って来ていたフレイマーから告げられた真実に、エレナはその場にへたり込んでしまう。


 そう、あのウォロル族との戦い――ひいては、フロマのテュポン(ドラゴギガント)の初登場よりほんの数ヶ月の間に。


 フロマはそのテュポン(ドラゴギガント)の力によって、ユロブ大陸諸国を次々とその手中に収めていたのだった――


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