#20 雇われ傭兵団長再起動
「さあどうぞどうぞ! 粗茶ですけど。」
「ええ、粗茶ですけどどうぞ」
「誰が粗茶だって馬鹿息子が! 嫌なら母親にばっか淹れさせるんじゃなくて自分で入れな!」
「ええ……何その理不尽。」
出した茶を母と同じく謙遜したフレイマーは、その母からお叱りを受ける。
フレイマーは今。
家に押しかけて来た各傭兵団の上役たちと相対していた。
「うん……久しぶりだな、ボーンさん!」
「お久しぶりですね、フレイマーさん!」
「久しぶりだなあ、ボーン!」
「欠勤長いわよ、ボーンさん!」
クラックス・クイニッシャー・ジュラ・スリングの四傭兵団上役たちは口々に、フレイマーに挨拶する。
「ボーン支団長、お久しぶりです!」
何故かクイニッシャー傭兵団の上役ではないワイトも同席しているが、さておき。
「ええ、お久しぶりです大団長方! ああ、お久しぶりだなドラッガー君……それで、皆さん。」
フレイマーは皆への挨拶もそこそこに。
自分から本題を切り出す。
「申し訳ありませんが……今の僕は使い物になりませんので、いずれの傭兵団にも戻ることはできません!」
先ほどフィナンスに言った通りの言葉を、フレイマーはクラックスたちにも告げる。
「ううん、やっぱりか……だけどボーンさん、聞いてほしいですね!」
「! クイニッシャー大団長……」
しかし、最初に食い下がったのはクイニッシャーだった。
「いいですか、今回は小国同士の小競り合いに留まらない! このユロブ大陸全域にまで累が及ぶ話なんだ、だから」
「だとしても……いえ、だからこそ! 尚のことお力添えはできません……僕は、今」
「ああ、分かっています……ペットのことは、お悔やみ申し上げます。」
クイニッシャーは尚説得を続けるが。
フレイマーはそれでも首を縦には振らない。
「でも……いや、だからこそあなたが必要なんです! 何故なら今回騎獣遊牧民族が擁しているモンスターには」
「改血機が使われている、そうですね?」
「! は、はい……」
これまた先ほどフィナンスと交わした通りの内容であり、フレイマーは予想していたとばかりにクイニッシャーに返す。
「さっきガイルさんから同じようなことを聞かされました……でも。すみません、僕は」
と、その時であった。
「わ……私からもお願いするわ、ボーンさん! 私のヴーレヘ王国を奪還して!」
「! う、うわエレナ王女! ダメですよ、今出て来たら」
「!? お、王女殿下!」
思わず出て来てしまったエレナに。
ワイトやクイニッシャーは驚きつつも跪き、フレイマーは大いに慌てる。
「……王女殿下! 只今ヴーレヘの国王陛下より、殿下の御身を探し出せとのご命令を我らは承っております!」
「あ……そ、そうでしたね! わ、私は今父上から探されている者……」
エレナはクイニッシャーからの言葉にしまったと思うも後の祭であった。
そこで。
「……ではいいわあなたたち! ボーンさんには王女命令であなたたちについて行ってもらうから、その代わり私を見逃しなさい!」
「えっ!?」
「な!? お、王女様!」
そんなことを提案し、クイニッシャーやワイトにフレイマー、更には他の傭兵団長たちも困惑させる。
「お願いフレイマーさん! ここは私を助けると思って!」
「で、でも……」
「わ、私たちからもお願いしたいですボーンさん! エレナ王女を見逃すとは、本来私たちからも受け入れがたい提案なのですが……それも受け入れてでも、あなたを得ようと思う! あなたはそれぐらい、得難い存在なんです!」
「そ、それは買い被りですよクイニッシャー大団長……」
懇願するエレナやクイニッシャーやワイトを前にしても、フレイマーは中々首を縦には振らない。
「ぐるっ!」
「ガル!!」
「キュー、フレイマー!」
「! り、リシリーにクウマたち……」
が、ドアの方から聞こえてきた声に驚き見れば。
そこには、ペットたちやリシリーの姿が。
「フレイマー……もう、戦わないキュー?」
「そ、それは……」
「クウマたちは、ユキジの分も戦うって言ってるキュー! フレイマーが行かないなら、キューやクウマたちが代わりに行くキュー!」
「な……!? そ、そんなこと許される訳ないだろう! 傭兵でも何でもない君たちが、そんなこと! 母さんたちだって、絶対に認めない!」
フレイマーはリシリーの言葉を否定する。
しかし。
「すまないがバカ息子! あたしゃただのテイマー、戦う気満々のリシリーちゃんやクウマちゃんたちを止められるほどの腕っ節はないよ! 止めたきゃ自分で止めなってんだ!」
「な……か、母さん!」
フレイマー母はリシリーたちを、止めないと宣言する。
「ええ、私もただの学者ですから止められません! それこそ傭兵であるボーンさんが止めてくれないと。まあ……エレナ王女なら国力を総動員して止めてくれるかもしれないですけど!」
「な……あ、あなたさっきの話聞いてなかったの!? 私は、ボーンさんに戦ってもらう代わりに見逃してくれとお願いしたの! ……でもそうね、私も止められないし止めるつもりはない! ボーンさんが行ってくれないんじゃ、代わりにそこのリシリーさんたちに行ってもらいたいし!」
「な……み、皆さん!」
アウレリアとエレナも、リシリーたちを止めないと宣言する。
「まあそういうことだからよ支団長! 行くしかねえぜ? あたしも当然、そこのリシリーとやらたちが行ってくれるなら止めはしねえ!」
「そ、そんな……」
ガイルもまた、リシリーたちを止めないと言う。
「……さあ、ボーン支団長! どうか戦列に加わって下さい、さもないと! ……より多くの人たちや、あなたの大事なペットたちが傷つくことになりますよ?」
「くっ……ドラッガー君、その人質は卑怯だよ?」
敢えてか、ワイトがフレイマーに脅迫するような言い方で迫り。
フレイマーは、すっかり追い詰められた気分である。
「……ボーン支団長! 今人質を取っているのは俺じゃない、この戦乱そのものなんです!」
「む……ああ、そうだね……」
しかしワイトのこの言葉に、フレイマーは俯く。
確かに、分かってはいたのだ。
今この状況そのものが、自分にそう告げていると。
だが。
「でも……やっぱり駄目なんです! ユキジを守れなかった僕に、何が」
「ぐるっ!」
「キュー、リュウジ!」
「ん! あ……」
それでも尚拒み続けるフレイマーだが、そんな彼の気を知ってか知らずか。
あの聖地戦でフレイマーが孵したマラクのリュウジが、前にいるペットたちの間から首をひょっこりと出す。
「フレイマー……ユキジが死んで、リュウジは生まれて来たキュー! 守れなかったなんて、過去のことじゃないキュー! 守るのは、これからなんだキュー!」
「り、リシリー……くっ!」
「ぼ、ボーンさん?」
リシリーの言葉に、フレイマーは顔を覆う。
暫く、そうしていた彼だが。
やがて覆う手で顔を拭い、その手を離し。
じっと傭兵団長らを見据える。
「だ、大丈夫ですかボーンさん?」
「分かりました……どうかやらせて下さい!」
「! ふん……そう来ねえとな!」
「はい、元よりやらせさせていただく所存です!」
「ああ、しっかり働いてもらう!」
「ほほほ、ええ! 戻っていらっしゃい!」
フレイマーは、ついにその返答をし。
クラックス、クイニッシャー、ジュラ、スリングの各傭兵団長は満足げに微笑む。
◆◇
「あれが騎獣遊牧民擁する見たこともないモンスターか……確かに、見たことないな。」
ヴーレヘの国境付近にて。
自騎として充てがわれた唯血巨人内にて、双眼鏡でヴーレヘの王城付近を見たフレイマーは首を傾げる。
警戒に当たるのは、やはり騎獣遊牧民擁するキマイラなるモンスターたちだが。
その姿はモンスターを見慣れているフレイマーが見慣れないものであった。
「ええ……さあ支団長! もう一度一緒に戦いましょう!」
「う、うん……君はもう暴走しないようにね。」
「! は、はい……」
傍らの騎体内で勇むワイトだが。
フレイマーのその一言に、自分の黒歴史を恥じる思いだ。
「ははは……ん? あのモンスター、甲冑を着ている……?」
が、再びモンスター群を見たフレイマーが着目したのは。
そのモンスター、キマイラの姿だった。
モンスターが甲冑を着ていたとしても、何ら違和感はない。
馬鎧ならぬ獣鎧といったところか、しかし。
フレイマーはその鎧の形に、見覚えがあるのだ。
まさか――
「……皆さん。もしかしたら、あの未確認モンスターたちを倒せるかもしれません!」
「え!? ほ、本当か!」
フレイマーはそれにより、解決の糸口を掴んでいた。
◆◇
「ガルルルッ、こんな簡単に国が落ちるとは笑えるガルッ!」
「ふん、所詮は軟弱な人間ガル……ガルルルッ!?」
警戒しつつも、連戦連勝によりやや油断していたウォロル兵だが。
そんな彼らが騎獣上から見た景色は、彼らを驚かせた。
それは。
「さあ皆続いて! このクイニッシャー傭兵団ボーン支団がヴーレヘ王国を奪回するよ!」
フレイマー騎率いる、クイニッシャー傭兵団の唯血巨人群だった。
「ガルルルッ、このお! 出て来るガルッ、人盾部隊!」
「はっ、ウォロルの方々!」
が、そこへ。
ヴーレヘの街を囲む城壁上より、次々と一角獣型や蛇型唯血巨人が飛び降りて来る。
その中には。
「あれはいつぞやのボーン支団か……あの時の雪辱、果たさせてもらうぞ!」
今やウォロル族支配下にあるアドン王国第一王子・マルダだった。




