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#16 悪魔教との再戦

「ああ……これは君があの地牢竜(ヘルワーム)の卵をとって来てくれなければ、起動がまず実現しなかった代物だろうな。」

「あ、あの地牢竜(ヘルワーム)の卵を……?」


 フレイマーは招かれた先の坑道に置かれている卵殻炉(ライフリアクター)を見て、足がすくむ。


 それは歴戦の戦士である彼をして、恐怖心を抱かせるには十分なものだった。


 あの危険ダンジョンで感じた恐怖と、まったく同じ感情を抱いたのだ。


 それはフレイマーどころか、今案内役を務めたツェングすら預かり知らないことだったが。


 その恐怖は、生命の書(ライフグラム)レベルに刻まれたものだったのである。


「……ボーン殿?」

「!? あ……す、すみません。」

「いや……まあ無理もないな。この卵殻炉(ライフリアクター)に恐れを成してしまうのは。」

「あ、はい……」


 フレイマーの反応に、ツェングはむしろ満足げな気持ちである。


「まあ言ってみればこれは、怪物を飼い慣らして怪物を制すといったところだ……」

「! じゃあこれも……」


 フレイマーはそのツェングの言葉に、察したことがあった。


 怪物――地牢竜(ヘルワーム)の卵――を飼い慣らして、怪物を制す。


 その、制す対象の方の怪物とは。

 すなわち、敵国か何かだろうか。


 ではこれも、兵器ということか――


「ん? どうした、ボーン殿。」

「あ、い、いいえ! あ、あのう宰相様。この、卵殻炉(ライフリアクター)は何のためにあるのかな〜と個人的興味があるんですが」

「ああ……自国民へ、安定したエネルギー供給をするためだ! これがあれば、日々の灯りにも困らなくなるからなあ!」

「あ、さ、左様ですか……」


 フレイマーはさりげなく、ツェングに尋ねるが。

 やはりというべきか彼は、真実を告げてはくれないようだった。


 ◆◇


「前方に、騎体影多数あり!」

「ううむ、また悪魔教部隊が来おったか! 性懲りもなく……」


 そうして、前の戦いから一か月ほど経った頃。


 再び辺境地シュタットにフロマ国教会部隊、スリング傭兵団ボーン支団はいた。


 いや、彼らだけではなく。

 悪魔教部隊擁する黒ゴーレムアーティフィシャルアダーマー群も今、迫っている最中だった。


「ボーン支団長。今日こそ大丈夫なのだろうな……?」

「は、はい! 大丈夫です!」


 国教会部隊隊長から釘を刺され。

 フレイマーは胸を張って応える。


「本当か……?」


 部隊長は、首を傾げているが。


「あたしらが、あの男支団長に従わなきゃいけないなんて……」

「しょうがないよ、ガイル姐さんがそう言うんじゃさ!」


 ボーン支団の女性傭兵たちは、まだまだ不満ながらもフレイマーに付き従ってくれるようである。


「皆、聞いてほしい! まだこいつを信じた訳ではないが……少なくとも、こいつ()()()()()()()()いい者たちだ! だから……今回だけでもいい、どうか信じようじゃないか!」


 戦いの前にフィナンスが、他の女性傭兵たちに対して言った言葉である。


「ありがとう、ガイルさん!」

「だ……だから勘違いすんじゃねえって! わ、私はあんたのお母様たちに免じてとりあえずは認めるだけだって言ってるだろ!」


 フレイマーは自騎から、傍らのフィナンス搭乗騎体に声をかけ。


 フィナンスは顔を真っ赤にして返事する。





「宰相! 国教会部隊、再び悪魔教部隊との戦闘に入りました模様!」

「うむ……ようやく最終起動実験が開始できる!」


 一方、聖地近辺の地下坑道内。

 試作型卵殻炉(ライフリアクター)を前に報告を受けたツェングは、ほくそ笑む。


「よし……成長レベルを限界一歩手前まで引き上げよ! 最終起動実験開始だ!」

「り、了解! 卵殻炉(ライフリアクター)、最終起動!」


 ツェングの指示により部下は、卵殻炉(ライフリアクター)操作盤の成長レベル調整レバーを引き上げる。


 ◆◇


「さあ改めて……忌々しき世界教の者共! 我らが部隊に――ひいては偉大なる大魔神様に刃を向けるなど笑止千万! その不遜さ、裁かねばなるまい!」

「応! ……マイロード、Amy! 地獄の業火(ヘルファイア) オブ トゥルース!」


 悪魔教部隊より、その言葉と共に。

 黒ゴーレムアーティフィシャルアダーマー群の杖先から生み出された炎弾が集まり。


 魔力弾幕となって、フロマ国教会部隊へと襲いかかる。


「ふん、舐めるな大魔神の手先共! ……マイロード 、Yechaviah! 敵軍照準(ターゲットエネミー) オブ トゥルース!」

「マイロード Melohel! 魔軍撃滅(イビルズパニッシング) オブ トゥルース!」


 しかし、フロマ国教会部隊も負けじと。

 こちらも無数の魔力弾幕を放ち、両陣営の火球同士が空中でぶつかり合う。


「さあガイルさん! 僕たちは」

「ああ分かってる! ……行くぞ、皆!」

「応!!」


 そんな両ゴーレムアーティフィシャルアダーマー部隊のぶつかり合いをよそに。


 フレイマー以下ボーン支団は、目の前を睨む。

 それは。


「見つけたぞ、傭兵共! この前はよくもやってくれたな!」


 敵黒ゴーレムアーティフィシャルアダーマー群による接近戦部隊が、迫って来ている光景だ。


「それはこっちのセリフだ! 行くぜ一応の支団長、ここはあたしらで!」

「ああ! だけどガイルさん、仕切るのは僕なんだけど!」


 フレイマー本人も含めたボーン支団が、フロマ国教会部隊の守りに入る。


「ふん、その中央を突破してやる! ……全悪魔教接近戦部隊、真理機関(グリモワール)連結!」

「了解!!」

「!? な、敵がこちらに向かって来るでもなく……動きを止めた?」


 が、悪魔教接近戦部隊はそこで。

 フレイマーの今の弁にあったように、急に動きを止めた。


 これは。


「さあ……マイロード、大魔神! ……生意気な奴らを、御自らご葬りくださいますよう!」

魔神の凄み(イビルプレッシャー) オブ トゥルース!!」

「む!? ……な、何だあれは!?」

「な!?」


 と、動きを止め固まっていた黒ゴーレムアーティフィシャルアダーマー群より突如、巨大な紫の光の柱が上に飛び出し。


 かと思えばその光の柱は、山羊の如き角を二つ生やした巨人の上半身のような形に変わる。


「こ……これは……?」

「さあ大魔神! あなた様に歯向かう不逞な輩共を……何卒!」

「だ、大魔神……? ぐっ!?」


 フレイマーらが戸惑うのをよそに、果たして悪魔教接近戦部隊隊長のその言葉と共に。


 その大魔神なる上半身のみの巨人は両腕を振るい、たちまち周囲に衝撃波をもたらす。


「ぐうあ!」

「!? あ、あれは悪魔教部隊か! ぐあ!」


 その余波は、今悪魔教部隊本陣と遠距離戦を繰り広げるフロマ国教会部隊にも及び。


 同部隊の魔力弾幕は、大きく乱れる。


「おお、同胞たちがよくやってくれたぞこの機を逃すな!」

「応!!」

「く、ぐああ! あ、悪魔教部隊の魔力弾幕さらに激化!」


 その隙を見逃さぬ悪魔教部隊は、たちまち弾幕による苛烈な波状攻撃を加えていく。


 いや、それだけではない。


 ――……セヨ。


「ひいっ!? な、何だ! だ、誰かが私の頭の中に……き、気持ち悪い!」


 ――……解……放……セ……ヨ……


「な、何なんだお前は……や、やめろ! わ、私にな、何を吹き込む!? や、やめろ!」

「!? ど、どうしたんだいガイルさん!」


 明らかに普通ではない様子のフィナンスだが。

 彼女の脳内には、前の戦いの時と同じ声が流れ込んで来ていた。


 ――そうだ、よく思わないだろうフィナンス・ガイル? その思いを我らが崇め奉る大魔神の御許にて解放せよ……


 そう、前の戦いで敵黒ゴーレムアーティフィシャルアダーマー群に触手で絡みつかれた際に流れこんで来た、あの声と同じ声が――


「フレイマー・ボーン……男なのに、私たちの支団長! 許さない……許さないいい!」

「! な……が、ガイルさん!?」


 たちまち、フィナンスは自騎を駆り。

 その龍人型唯血巨人の右腕触手を振るいながら、フレイマー騎へと迫る。


「許さん! 許さんぞフレイマー・ボーン! よくも……よくも男である貴様が私たちの支団長なんかに!」

「ち、ちょっとガイルさん! それはもう……許してくれたはずだろう!」

「ぐっ! こ、この!」


 それを見てフレイマーは。


 こんなこともあろうかと剣たちを抜いておいた自騎の右腕触手で、フィナンス騎を絡めとり肩に担ぐ。


「く、離せ!」

「ああ悪いけど……元のガイルさんに戻るまで離さないから!」

「ははは、どうした仲間割れなどと! 今でございます……我らが大魔神!」

「ぐっ……」


 しかし、本陣に続き悪魔教接近戦部隊も隙は逃すまいとばかりに。


 頭上の巨人上半身に命じ、それは大きく両腕を振りかぶる。


 嵐の前兆である。


「く……このままじゃ!」


 と、その時であった。


 バリバリバリツ!


「ぐ、ぐああ!」

「ぎゃああ!

「ひいい!?」

「!? な……な、何だあれは!?」


 ()()は、何の前触れもなく現れた。

 現れたのは、巨大な山。


 それは勢いよく今しがた密集隊形をとっていた悪魔教接近戦部隊の上に被さり。


 瞬く間に、潰してしまった。


「や、山が落ち……いや、待て!」


 が、フレイマーはその山に違和感を覚える。


 それは山ではなかった。

 更に言えばそれは、現れたものの全てではなかった。


「こ、これは……さ、三本指の右前脚……!?」


 フレイマーはあまりの驚きに、頭が追いつかないが。

 それでもかろうじて、状況を一つ一つ把握する。


 その山は、今しがたフレイマーが言った通り右前脚に過ぎず。


 更に、フレイマーたちに掛かる巨大な影。


 それらは現れたものが、途轍もなく巨大であることを意味する。


 それは――


「も……モンスターが!?」


 見たこともない巨大モンスターが、フレイマーたちの頭上に胴を浮かせていた。


 ◆◇


「……がるる!」

「キュー? どうしたキュー、ユキジ?」


 その頃、ボーン家では。

 ユキジがただならぬ気配を察知したのか、空に向かい一吼えしたのだった。

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