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#15 燃え盛る傭兵の冷やし方

「モンスターたちが何故……いや、そうか! あの雇われ支団長が!」


 呆然とするフィナンスだが、すぐに合点する。

 今空中に浮かぶモンスターたち――と、リシリーも含めるが――はフレイマーのペットたちであると。


「まったく……また来るなんて、どこまでもお節介な子たちだなあ!」


 フレイマーもその光景を見つつ、言葉とは裏腹に楽しそうに言う。


 さすがにというべきか、ユキジの姿はない。


「くっ……おのれ!」

「今だ、国教会部隊! 全隊悪魔教部隊に向けて再照準、攻撃再開!」

「はっ!」


 そうして悪魔教部隊の目が空に向いた隙に。


 フロマ国教会部隊のゴーレムアーティフィシャルアダーマーたちは悪魔教部隊に、魔法弾攻撃を浴びせかかって行く。


「ぐうっ!」

「おっと! まったく、敵も味方もお構いなしかい!」


 が、その魔法弾幕は。


 悪魔教部隊の接近戦部隊と対峙していたフレイマー騎にも、その悪魔教部隊諸共消し去ってやらんとばかりに迫る。


「ああすまんが、この程度は避けてくれよ支団長さん! こんなんでやられてんじゃ、支団長の名折れだろ?」

「そういうことだ、ははは!」

「く……ああ、そうだな! なら、そこは自己責任でってことだよね!」


 しかし、ここでやられてやるフレイマーではなく。


 先ほどと同じく、あらかじめ無数の剣が貫通させてあり剣山纏う触手となっている自騎の触手を振るい。


 自騎への魔法弾攻撃を回避する一方、悪魔教部隊の接近戦部隊へは魔法弾が当たるようにその中を掻い潜っていく。


「くう……待てえ傭兵団長!」

「ぐう! だ、ダメだ……これでは!」


 悪魔教接近戦部隊もフレイマー騎を恨めしげに睨むが。


 厚い魔法弾幕により、彼らはまったく動けぬままであり手も足も出ない。


「くっ……総員、撤退! 撤退!」


 悪魔教部隊は、これでは敵わぬと。

 撤退して行く。


 ◆◇


「……くそっ! これじゃあ、あたしらの出番が何一つないじゃねえか!」


 これを見たフィナンスは、歯軋りするが。

 その時だった。


「……っ! く……はあ、はあ!」

「! フィナンス、どうしたの?」


 フィナンスは突如、呼吸が乱れ。

 自騎も膝をついてしまう。


 かくして、リシリーたちのおかげで聖地争奪戦緒戦は幕引きとなった。


 ◆◇


「本っ、当に申し訳ありません!」

「ええ、フロマの国教会部隊(クライアント)からクレームが……まあ、悪いのはウチの娘たちなんですけど。ボーンさんには、あのジャジャ馬たちを従えるだけの能力を見込んでいたのにな〜!」

「ほ、本当に申し訳ありません!」


 戦いの数日後、スリング傭兵団本営地にて。


 同傭兵団大団長サリーから、フレイマーはお叱りを受けていた。


 それはフレイマーが、やはり同傭兵団をまとめ切れていなかったことに対するお叱りである。


 しかしお叱りと言っても、サリーがいわゆるおっとりした性格であるため。


 さして強い語気のものでもないのだが、どちらかと言われれば女性が苦手なフレイマーは縮こまった様子である。


「ところで……うちのフィナンスちゃんなんだけど。」

「あっ、はい! ちょっと流れでうちで預かってしまったんですが」


 サリーの話に、フレイマーは更に応じる。

 あの戦い直後、突如倒れてしまったフィナンスを。


 来ていたリシリーやペットたちは憐れみ、ボーン家に半ば強引に運び込んでしまっていたのだった。


「……容体はどうかしら?」

「それが……思わしくなくて。」


 フレイマーは決まり悪げに答える。

 フィナンスは、大した傷を負っていないはずなのだが。


 どういう訳か、伏せって動かないのだ。

 と、その時であった。


「キュー、フレイマー!」

「! り、リシリー!」


 突如としてフレイマーとサリーのテントに。

 リシリーが入って来たのだった。


「……こうら、勝手に」

「キュー、それどころじゃないキュー! フィナンスさんがマズイキュー!」

「な……何だって!」

「……うーん……」


 しかし、フレイマーはその言葉に驚く。


 ◆◇


「はあっ、はあ……」

「うーん、すごい汗だね! どうすれば」


 その頃、ボーン家では。

 フィナンスがベッドに伏せり。


 大汗を掻きながら、苦しんでいた。


「くう……やっぱりヴーレヘ本国と連絡をとって、貴重な薬を送ってもらわないと!」

「いや王女様! 申し上げたでしょう、これはどちらかといえば気の病だって。ここは薬よりも、カウンセリングが」

「それじゃまどろっこしいって言ってるのよ!」


 それを競うように看ようとするはエレナとアウレリアである。


「まあまあ別嬪さん方! ここはそんな言い合いしててもこの傭兵さんは治せないよ。しかし……どうしたもんかね……」


 フレイマー母は尚もフィナンスの汗を拭いてやりながら、しかし決定的な手が打てず悩む。


「ただいま! 母さん、ガイルさんは」

「ああ、やっと帰ったかいバカ息子! まあ……傭兵さんは見ての通り、マズイ状態さ。」


 そこへ。

 リシリーと共にクウマに乗り、スリング傭兵団本営地から戻って来たフレイマーがやって来た。


「う、うーん……ひとまず、いろいろ薬は買って来たんだけど」

「あ、ボーンさん……その、フィナンスさんは心から来るこの病状ですからあんまり薬は」

「あ……そ、そうでしたかブリューム先生!」


 しかしアウレリアは、先ほどエレナに言ったことと同じ台詞をフレイマーに対しても使う。


「……がるっ!」

「おや、ユキジちゃん!」


 と、そこへ。

 窓の外に、ユキジがいた。


 何やら鼻先で、窓をコンコンと叩いている。

 開けてくれ、ということらしい。


「キュー、どうしたキュー、ユキジ? ……キュー!?」

「! ゆ、ユキジ!?」


 そうしてリシリーが、ユキジの要望に応じる形で窓を開けてやると。


 ユキジは右前脚を――さすがに危険な爪は引っ込めた上で――屋内に伸ばし。


 そのまま、床に伏せるフィナンスの右頬にそっと当てる。


 すると。


 たちまち、フィナンスの周りにはひんやりとした風が吹く。


 そう、これはユキジのフリージングレオとしての冷気生成能力である。


「ユキジ……ガイルさんを冷やしてあげようとして」

「キュー、ユキジ優しいキュー!」

「あらあら……」

「そうね……まずは、体温を冷やしてあげないとだったわ!」


 これにはフレイマーにリシリー、エレナにアウレリアも感心して見入る。


「くう……うう……」


 フィナンスは、それでも苦しんでいたが。

 やがて、穏やかな表情になっていく。


 ◆◇


 ――傭兵になりたいだと? ふん……女がそんなことを言い出すな!


 ――フィナンス、何ですかその足先の向きは! その股の開きの広さは何ですか! あなたも由緒正しいガイル家の娘ならもっとお淑やかになさい!


「(うるさい……何もかも! 女が傭兵になっちゃいけねえなんてそんな世界……間違ってる!)」


 眠っている間彼女は、夢を見ていた。

 いや、夢というよりは過去の記憶を。


 かつて名商会の出だった彼女だが。

 自分の夢を応援しない両親らに愛想を尽かして出奔し。


 ――ええ、大歓迎よフィナンスちゃん! 是非うちにいらっしゃい、うちは傭兵を目指している女の子たちの集まりだから!


 ――あ、ありがとうございます!


 ようやくスリング傭兵団に、身を寄せることができたのだった。


 しかし、そこで待っていたのは。


 ――ふん、所詮は女の集まりか! そんな傭兵団に頼らなきゃいけないとは、うちも世も末だな!


 あのフロマ国教会部隊と同様に、彼女たちを蔑む者たちだった。


「(そうだ……私たちは孤独! 男はいらない、私たちは女でも傭兵として足る存在であることを証明しなければ!)」


 なのに、サリー大団長は。

 あんな男――フレイマーを自分たちの支団長に据えた。


 ――そうだ、よく思わないだろうフィナンス・ガイル? その思いを我らが崇め奉る大魔神の御許にて解放せよ……


「(くっ……! そうだあの時……私の心中で燃え盛る思いが、膨らんで……私自身を!)」


 フィナンスのその思いは、あの悪魔教部隊の黒ゴーレムアーティフィシャルアダーマーの力に晒された際に一層強まった気がした。


 それは自分を、焼き尽くさんほどに。

 しかし、今はどうしてか。


 その炎が、少しばかり安らいでいくように感じられるのである――


 ◆◇


「どうだいフィナンスさん、味は?」

「ええ、とても美味しいです。ありがとうございます……」


 そうして、更に数日が経ち。

 フィナンスはフレイマー母特製の卵入りオートミールを口にできるほどに回復していた。


「そうだろうそうだろう! これはあたしんち特製の卵を使った粥だからねえ! 食べられるようなら、たんとお食べ!」

「……ありがとうございます。」


 フィナンスはケラケラと笑うフレイマー母に、笑顔を返す。


 ◆◇


「……一応、あんたを支団長として認めてやらなきゃいけねえことは分かった。」

「! ほ、本当かいガイルさん?」


 そうして、車椅子に乗ったままフレイマーに散歩に駆り出されたフィナンスは。


 フレイマーに、そう告げた。


「……か、勘違いすんなよな! あ、あんたのお母様とあのフリージングレオちゃんに免じて許してやるってだけで! べ、別にあんた自身を認めた訳じゃ!」

「ああ……分かっているよふふふ」

「こ、こら! 真面目に聞け!」


 やや照れた様子のフィナンスの話を。

 フレイマーはクスクス笑いながら聞いていた。


 ――あの娘を引き続きお願いするわ、ボーン支団長! あの娘はうちの傭兵たちから姉のように慕われている所があるから、あの娘さえ攻略さえすれば後はうまくいくと思うわよ?


「(スリング大団長……まあ、一歩前進かもしれません。)」


 フレイマーが笑っているのはフィナンスの様子によってだけでなく、サリーのその言葉を思い出してのことでもあった。


 ◆◇


「まさか……あなたたちがあの危険ダンジョンの依頼主でもあったとは驚きました。」

「ああ……だからこそ、君には話しておかねばと思ってな。」


 それから更に数日後。

 フレイマーが極秘連絡を受け一人向かってみれば。


 そこは中が複雑に入り組んだ、フロマ帝国傘下の地下坑道だった。


 案内は、フロマ帝国宰相のツェング自らが買って出ていた。


 その案内先は、無論。


「今回の戦いの目的はな……これを守るためなんだ。」

「!? こ、これは……超巨大な卵……? いや、まさか卵殻機関(インキュベーター)、なんですか?」

「いや……これは卵殻炉(ライフリアクター)と我々は呼んでいる。高出力型の卵殻機関(インキュベーター)だ。」

「ら、卵殻炉(ライフリアクター)……?」


 あの卵殻炉(ライフリアクター)のところだった。

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