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#14 バラバラ傭兵団

「こら貴様ら、戦闘前だぞ! ……ボーン支団長、卿の団員たちを何とか纏められなければ困る。分かるな?」

「は、はい!」

「はい、すみません修道士部隊長……」


 フレイマーは、自支団を纏められない不甲斐なさを指摘されてしまう。


「何やってんだ支団長様あ! 言い返してやれよ、ほら! 男だろ?」


 そこにフィナンスが、さらに絡んで来る。


「ガイルさん! 今は仲間割れしている場合じゃない、これは」

「仲間? あたしたちやそこの修道士さんたちはライバルさ! どっちが武功を挙げられるかの、な!」

「ガイルさん……」


 フィナンスを宥めようとするフレイマーだが、彼女は言うことを聞こうとしない。


「(まったく……だけどおかしいな。見た所唯血巨人(ユニブラッドマトン)の部隊が見当たらない。これって)」


 フレイマーは敵たる悪魔教部隊を見渡し、首を傾げる。


 彼の言う通り、黒の騎体がひしめき合う同部隊はどれもこれもゴーレムアーティフィシャルアダーマーばかりである。


「(遠距離戦で事足りるとでも思ったのかな? なら舐められたもんだな……)」


 フレイマーは唇を噛みながら悪魔教部隊を睨む。


「あいつら、護衛の唯血巨人部隊もなしに攻めて来たぞ!」

「ふん、舐めてくれおって! 部隊長!」


 国教会部隊もフレイマーと同じことに気づき、部隊長に呼びかける。


「ああ、笑止千万! 国教会部隊攻撃開始、ボーン支団長! 支団を纏めて臨戦態勢を。取れるな?」

「あ、はい!」


 部隊長も決断を下し。

 フレイマーにも指示を出して来る。


「そういうことだ! 精々、素早く盾ぐらいにはなれるようにしておけ女傭兵共!」

「な……あたしらをまたバカにするのか!」


 しかしそんな部隊長やフレイマーの意思とは裏腹に。

 国教会部隊とボーン支団配下のフィナンスら傭兵たちとの間で、またも諍いが起こる。


「こら! また仲間割れしているな!」

「は、すみません部隊長!」

「ガイルさんたちもやめないか!」

「ムカついて黙っていられるかよ!」


 これまた、部隊長の鶴の一声で黙る国教会部隊に対し。


 ボーン支団は中々纏まらぬ有り様だった。


「よし、者共! 敵城砦への攻撃を開始せよ!」

「はっ!」

「! 応戦せよ、国教会部隊!」

「はっ! 

「マイロード 、Yechaviah! 敵軍照準(ターゲットエネミー) オブ トゥルース!」

「マイロード 、Yechaviah! 敵軍照準(ターゲットエネミー) オブ トゥルース!」

「マイロード Melohel! 魔軍撃滅(イビルズパニッシング) オブ トゥルース!」


 そのまま両軍は照準し合い。

 たちまち双方のゴーレムアーティフィシャルアダーマーの持つ杖より、火球が出て。


 宙にてぶつかり合う。


「! く、始まったか!」

「ボーン支団、今度こそ防戦用意! やらないと、僕らの方が死んじゃうよ!」

「く……止むを得ないな!」


 この状況が、フレイマーが、ボーン支団の傭兵たちに今は国教会部隊といがみ合う時ではないことを告げ。


 慌ててボーン支団の傭兵たちは、防戦の用意をすべく自騎たる唯血巨人の体勢を遅ればせながら整える。


 今回のボーン支団保有の唯血巨人に使われているモンスター卵は、マラク(ビッグヘッドリザード)のものであり。


 それにより唯血巨人は、右腕が尾のような形になった半竜半人型の中距離・近距離戦向きの騎体である。


「部隊長、我らがやや押しています!」

「よし、このまま続けよ!」

「ははは、どうだ女傭兵共! お前たちの出番はなさそうだぞ?」

「何を!」

「待った、ガイルさん! だけど、妙に上手く行きすぎるな。まさか……」


 今の所好調な国教会部隊から、今一度煽りを受け苛立つフィナンスたちを宥めながら。


 フレイマーは自騎の首をキョロキョロさせる。

 この部隊が陽動のためのもので、どこかに伏兵が潜んでいる可能性も捨て切れなかったからだ。


 だが事態は、彼が予想していなかった方向に転がることとなる。


「な……くっ、あのゴーレムアーティフィシャルアダーマー! 何体かはこちらに向かって来ている!?」


 フレイマーが驚いたことに。


 次の瞬間、悪魔教の修道士部隊擁する黒いゴーレムアーティフィシャルアダーマーたちのうち数体は何と。


 味方と国教会部隊が魔力弾の撃ち合いを演じている中、味方部隊の両翼から離脱し。


 国教会部隊の両翼より、迫って来るのだ。


「あれは……?」

「何でもいいよ、あたしらの出番だ遅れるな皆! 接近戦を挑んで来るゴーレムアーティフィシャルアダーマーなんて、自殺をしに来てるようなもんさ!」

「待った! ガイルさん、皆! 勝手に突っ走っちゃダメだ!」


 フィナンスたち女性傭兵は、一度は戸惑いながらも。


 ここは武功を挙げんとばかりに、自騎をそれぞれに駆り。


 支団長たるフレイマーを無視して突っ込んで行く。


 フレイマーは彼女たちを止め切れず、仕方なく自身も自騎を駆り突き進む。


「さあ飛んで火に入る夏の虫だゴーレムアーティフィシャルアダーマー! マイロード、屈辱業火の料理人ディスグレイシーズコック! 炎の剣山(フレイムナイブス) オブ トゥルース!」

「ぐっ!?」

「ぐああ!」

「ぐっ……マイロード、Phoenix! 幻の詩(ファントムポエム) オブ トゥルース……」


 ガイルは一番槍とばかりに。


 自騎の尾状の右腕を振り上げ、そこに炎を纏い何股にも枝分かれさせ。


 目の前の黒いゴーレムアーティフィシャルアダーマーたちに、突き刺して行く――


「どうだ! これで」

「ぐああ! ……ふははは! なんてな、図に乗るなよ傭兵風情が! 偉大なる魔神にお仕えする我らを、舐めるなど!」


 が、その時だった。


 何と黒いゴーレムアーティフィシャルアダーマーたち各々の右腕が、ボーン支団の唯血巨人右腕のごとく尾状に変化し。


 今騎体に突き刺さっているフィナンスによる炎の刃に絡みついて来たのだ。


「ぐっ!」

「な、何これ!?」

「な!? 何故ゴーレムアーティフィシャルアダーマーが接近戦を!?」


 ゴーレムアーティフィシャルアダーマーの触手が絡みついて来たのは、フィナンス騎だけではない。


 他の傭兵たちの騎体にも、絡みついて来た。

 いや、それのみでもなく。


「く!? な、何だこの恐怖は……はあ、はあ!」


 フィナンスは突如としてゾクリと、悪寒を覚え。

 操縦席でガタガタと震えている。


「ふふ、どうだどうだ傭兵共! 我らが唯血巨人を敢えて連れずこのゴーレムアーティフィシャルアダーマーだけで接近戦を挑めば、油断して食いついて来るだろうと踏んでいたが……まさか、ここまで簡単に食いついてくるとはなあ!」

「ああああ、簡単な奴らめ!」

「ぐっ……何を……っ! ひいい!」


 黒ゴーレムアーティフィシャルアダーマー群より敵修道士たちの嘲りが響き渡り。


 フィナンスたちは突っかかろうとするが、やはり足がすくみ自騎を動かせない状態になってしまう。


「ははは、さあこれで」

「待った! 僕を忘れないですか!」

「何? ……があああ!」


 が、その時だった。


 すっかり慢心していた黒ゴーレムアーティフィシャルアダーマー群へと、フィナンスたちの騎体の隙間をすり抜け。


 フレイマー騎の右腕触手が振われて瞬く間に突き刺されていき、フィナンスたちの騎体は解放されて行く。


「な……雇われ支団長!」

「君たち、早く! 君たちの仕事はこんな所で飢え死にすることじゃないだろ馬鹿! 戻って防戦体勢を」

「な……ば、馬鹿とは何だ!」


 戸惑うフィナンスたちに、フレイマーは珍しくキツイ言い方をして反発されるが。


「ぐ……貴様らよくも……っ!? ……ぐああ!」

「がああ!」

「早く、城壁に退がるんだ!」


 すぐに黒ゴーレムアーティフィシャルアダーマー群も再起動し、そこへフレイマーが慌てて再び自騎の触手を打ち込み。


 再度フィナンスたちに、促す。


「く……ああ、分かったよ! 皆行くぞ! だけど雇われ支団長……精々、そこの黒い奴らに触手でやられないようにしろよ!」

「ああありがとう! ……ん? 触手?」


 渋々撤退をするフィナンスの捨て台詞に、フレイマーは首を傾げる。


 そう、彼の目に映る黒ゴーレムアーティフィシャルアダーマー群の右腕は触手などに変化してはいなかったのだ。


「まあいい……えい! このお!」

「ぐう!」

「くそ!」


 フレイマーはしかし、尚も自騎の触手を振るう。

 この触手には、あらかじめ無数の剣が貫通させてあり。


 それにより剣山纏う触手となっているため、今その中距離戦向けという長所を存分に活かすことができているのだ。


「く……どこまでも愚弄してくれる! 皆、再び唱えよ!」

「はっ! マイロード、Phoenix! 幻の詩(ファントムポエム) オブ トゥルース……」


 しかし黒ゴーレムアーティフィシャルアダーマー群も即応し、たちまち呪文を輪唱する。


「!? くっ……何だ、急に身体が震え出して……」


 そう、それは先ほどフィナンスたちを旋律させた原因でもあった。


 たちまちフレイマーの目には、先ほどのフィナンスたちと同じく。


 黒ゴーレムアーティフィシャルアダーマー群の右腕が、ボーン支団の唯血巨人右腕のごとく尾状に変化する様が映る。


「ぐっ……この!」

「ぐあっ!」

「ぐうっ! こいつ、さっきの女たち程には技が通じていない……?」

「くっ……ならば、声を強めよ!」


 しかしフレイマーに対しては、先頃ほどの威力もないようで。


 業を煮やした悪魔教修道士たちは、より呪文の声を大きくして行く。


「ぐっ! な、何だこれは!」

「ひいい……お、恐ろしい!」

「な、何だよ……情けないぞ、威張ってた、修道士さんたちよお……ひいいい……」


 その声は、今城壁を守る国教会部隊やそこに戻っていたフィナンスたちにも伝わり。


 彼らは、恐怖に囚われていた。


「おお……国教会の奴らの攻撃が弱まった! 今こそ攻勢を強めよ!」

「応!!」


 それにより生じた隙を、今遠距離戦に勤しんでいる方の悪魔教部隊も見逃さない。


 彼らにより、より多くの魔力弾が国教会部隊へと放たれて行く――


「させないキュー!! さあやっちゃうんだキュー、クウマたち!」

「ガルルルッ!」

「グルッ!」

「!? な!」


 と、その時だった。

 どこからともなく多量の火炎弾が飛んで来て。


 たちまち悪魔教部隊の魔力弾幕を、相殺してしまった。


「ぐっ……何が」

「キュー、フレイマー!」

「!? り、リシリーにクウマたち……ユキジまで!?」

「な……あ、ありゃモンスターか!?」


 その火炎弾幕の主は。

 今しがた飛んで来た、リシリーやモンスターたちだった。

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