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#13 女性傭兵と宗教戦争

「もう大丈夫キュー、フレイマー?」

「ああ、大丈夫さ……心配かけたね。」


 リシリーからの言葉にフレイマーは、笑顔で返す。

 地牢竜(ヘルワーム)の卵争奪戦より、既に二月が経とうとしていた。


 フレイマーはようやく全快し、まだ日が浅い。


「ところで……ユキジの具合はどう?」

「ああ……まだ、あんまり走り回れないキュー!」

「そうか……心配だな。」


 フレイマーはリシリーの言葉に、顔を曇らせる。

 地牢竜(ヘルワーム)の卵争奪戦で彼が孵したモンスター・フリージングレオのユキジは。


 その舞台となった危険ダンジョンが、卵の寿命そのものでもある生命計(ライフメーター)をすり減らす性質を持っておりそれにより孵りながらにして寿命が短い状態なのである。


「ユキジ……改めて。この前はありがとうな、君が力を貸してくれなければ、僕もブリューム先生も危ない所だったよ。」


 フレイマーはユキジに憂いの視線を向けつつ、彼に問いかける。


「ぐるっ! ぐるる……」


 ユキジは一度は元気に応えるが。

 すぐに弱った様子で、再び伏せってしまう。


「大丈夫、ユキジちゃん!」

「! ブリューム先生……」


 と、そこへ。

 アウレリアが急いでやって来た。


 卵殻機関(インキュベータ)開発を手掛ける彼女は、モンスターの生命の書(ライフグラム)治療にもやや詳しく。


 ユキジの医者のようなこともやっていたのだ。


「何かすみません、僕らのせいで大学府に帰るタイミングを逸してしまわれたみたいで」

「いいえいいえそんな! 大学府には暫く休むと言ってありますからご安心を。私は自分の意思でここにいますから!」

「そんな……ありがとうございます。」

「いいんですって!」


 アウレリアはフレイマーの言葉に、やや照れながら答える。


「ユキジちゃんが心配ですし……それに。ボーンさんにはまだ助けてもらった御恩を返せていませんから……」

「フレイマーさん! 何か欲しいものはないかしら?」

「! え……エレナ王女お!」


 アウレリアがドギマギしながら尚も言葉を紡いでいる所へ、エレナが横槍を入れて来た。


「え? い、いえそんな……」

「遠慮することはないわよフレイマーさん。……わ、私とあなたの、仲なんだし……」

「いやエレナ王女! あなたとボーンさんはそんなに親しくないでしょ!」


 アウレリアも負けじとエレナに食ってかかる。


「あらブリューム先生。王女である私に逆らう気かしら?」

「生憎あなたに傅く愚民はここにはいません! そもそもあなた、ある意味お尋ね者なんですからとっととヴーレへ王国にお帰りください!」

「な……ゔ、ヴーレへ国民をバカにしたわね!」


 アウレリアとエレナは口論と睨み合いとなる。


「え……ええっと。何か分からないんですけどお二人とも喧嘩は」

「まったくバカ息子! そんなんじゃ女の喧嘩は止まりゃしないよ! ……アウレリアちゃんに王女様、あんかバカのために喧嘩することないからねえ。」


(タチが悪いことに)自覚のないフレイマーは二人の喧嘩に右往左往するが。


 そこにフレイマー母が割って入った。


「違います、お母様! フレイマーさんはバカなんかじゃありません!」

「ええそうですとも、ボーンさんがバカだったら私たち助けられてませんから!」

「あ、そ、そうかい……な、なんか嬉しいねえ!」

「いや……何で喧嘩止めに入って喜んでんのさ母さん!」


 しかしフレイマー母もなんだかんだで親バカか。

 二人から息子を褒められて喜び。


 フレイマーはますます訳が分からず、困惑するばかりである。


 さておき。


「キュー! クウマたちの高い高いにユキジの高い高いがプラスされて嬉しいキュー!」

「あ……こら! それをクウマたちや、ユキジにまで……覚えさせちゃうと! 高い高い癖がユキジにまで付いちゃうだろ!」


 そこへリシリーが毎度お馴染みというべきか、クウマたちにユキジを加えたペット衆に高い高いをされている所をフレイマーは見咎める。


「もううるさいねえバカ息子、やらせてやりゃいいじゃないのさ! 自分の躾力のなさをリシリーちゃんたちのせいにするんじゃないよ!」

「だーから、お母様!」

「ボーンさんはバカじゃありません!」

「あら……ありがとう別嬪さんお二人♡」

「もう……だから何で母さん喜んでんの!」


 場はこうして、どんどん混乱して行くのだった。


 ◆◇


「ふう……ここが、新たな職場か。」


 それから数日後。

 フレイマーは、新たな勤め先たる傭兵団にいた。


 無論、支団長待遇で。


「フロマ帝国の依頼により、同国の国教――世界教の聖地を守る戦いに駆り出されることになりまして。是非有名なボーン殿にご協力いただければと。」

「あ、はい……よ、よろしくお願いします!」


 スリング傭兵団のうら若き大団長サリー・スリングからそう請われ、フレイマーは同傭兵団傘下に再び雇われ傭兵団長として雇われることになっていたのだ。


「うーん、しかし……ちょっと肩身狭いかも。」


 フレイマーはしかし、周りを見渡して頭を抱える。


 それはスリング傭兵団に、大団長はじめほとんどの団員が傭兵としては珍しく女性が多いからだった。


 なので場合によっては、ハーレムにもなり得るのだが。


「あんたがフレイマー・ボーンか……まったく、噂の雇われ傭兵団長様かい! あーあ、こんな支団長の元で働かなきゃならねえとはな!」

「あ、ああ……よろしく、ガイルさん!」


 同傭兵団の団員にして、女性の傭兵フィナンス・ガイルは気怠げにフレイマーに嫌みを言う。


 他の傭兵たちも、あまりフレイマーには好意的とはいえない目を向けている。


 無理もない、彼女たちは傭兵=男性という偏見を嫌い。


 男性の傭兵に負けまいとする気持ちを糧に日々精進している。


 なので、そもそもフレイマーでなくとも男性はお断りということなのである。


 が、彼の悩みの種はそれだけでなく。


「何でか分からないが、王女様やブリューム先生やリシリーには今回の任務について話せなかったなあ……」


 フレイマーは今実家に残して来た女性三人を思い出して身震いしていた。


 それは本能的に嫉妬を買うことを恐れてのことだったが、朴念仁の彼は自分のその本能をうまく言語化できないのであった。


 さておき。


「(まあとはいえ……歓迎されていないのは僕だけじゃないし。それもある程度我慢しなきゃだな……)」


 とはいえフレイマーは、フィナンスたちに歓迎されていないことをそこまで気にしていなかった。


 理由は彼が今心の中で呟いた"歓迎されていないのは僕だけじゃない"という事実。


 というのも。


「何だ、傭兵がこんなにぞろぞろと! それも女ばかり? まったく、フロマ帝室(うえ)も何考えてんだか!」

「な……何を!」


 そこへいちゃもんをつけて来たのは、フロマ帝国国教会修道士である。


 そう、今回は聖地を巡る戦い。

 なので戦いの主役は、彼らというわけである。


 しかし彼らの騎体たるゴーレムアーティフィシャルアダーマーは接近戦を苦手としており。


 それゆえに、敵に接近された際の露払い役として唯血巨人(ユニブラッドマトン)を擁する傭兵団が雇われているというわけである。


「何だ傭兵ごときが、突っかかって来るのか!」

「く……この!」


 自分たちを馬鹿にして来た修道士たちに食いつくフィナンスだが。


 フレイマーは彼女が振り上げた腕を掴む。


「……申し訳ありません、僕からキツく言っておきます。」

「ああ、生意気な傭兵はさっさと手懐けてくれよ支団長さん!」

「ははは!」


 修道士たちはそんな彼らを、嘲笑う。


「離せ!」

「落ち着くんだ、ガイルさん! ここで手荒な真似をしたら」

「私は落ち着いている……だからその汚い手を離せと言っているんだ雇われ傭兵団長! 貴様の怠惰さと汚さが私にも感染る。」

「っ……ああ、すまない。」

「……ふん!」


 フィナンスはフレイマーに手を離させると、そのまま歩いて行く。


「この感じ……クイニッシャー傭兵団以来か。」


 ジュラ傭兵団では大団長はともかく団員からは舐められなかったが、それが珍しいことだったとフレイマーは痛感する。


 ――貴様の怠惰さと汚さが私にも感染る。


「怠惰さと汚さ、か……ははは、おっしゃる通りかも。」


 地味に、先ほどのフィナンスの言葉が刺さるフレイマーであった。


「まあ無理もないか……ここは聖地から少し遠い辺境地シュタット。ここで敵の足止めを命じられたことを最前線に配置された名誉として捉えるべきか。……いや、ボーンはともかくガイルさんたちにそれは無理だな。」


 フレイマーは先ほど去った女性傭兵を思いため息を吐く。


 ◆◇


「! 部隊長……悪魔教の部隊が、迫って来ました!」

「ほう……ようやくか!」


 フレイマーやフィナンスのゴタゴタから数日後。

 ボーン支団と修道士部隊はシュタットの城壁より状況を見ていた。


 水平線から敵たる悪魔教の黒いゴーレムアーティフィシャルアダーマー部隊が迫る状況を。


「よし……ボーン支団も警戒体制に入るよ!」

「いいだろう支団長様よ! あたしらは補欠みたいなもんなんだから、もっと迫って来てから身構えれば。」

「そうよそうよ!」

「まったく、これだから男は!」

「ちょ……君たち! そんな無警戒じゃ」


 フレイマーも自支団を纏めようとして、自騎たる唯血巨人より他の団員搭乗の唯血巨人に呼びかけるが。


 早くもフィナンスの一言によりフレイマーに、女性傭兵たちの反発の声が押し寄せる。


 フレイマーは、タジタジである。


「おやおや……纏まることも出来んのか傭兵って奴は!」

「ははは、いい気味じゃ!」

「邪魔をするなら帰っていいぞ傭兵共!」

「ああん!?」

「ちょ、ガイルさん!」


 この有り様を見た修道士部隊までもが不和の輪に入り。


 開戦前にフレイマーは、かつてない危機に陥る。


「(まったく……どうすりゃいいんだ……)」


 ◆◇


「さあ準備を急げ! 我らがこの実験に如何ほどの資源を割いたと思っている!」

「はっ!」


 その頃。

 何とその聖地関連の地下施設で、フロマ帝国宰相ツェング・ジファン指揮の下。


 唯血巨人の二倍半はあろうかという全高の卵型機関の周りを工兵たちが忙しなく動き回る。


 そう、この機関こそ。


「さあ卵殻炉(ライフリアクター)……ついにここまでこぎ着けた! いよいよ起動実験だ……」


 ツェングは卵殻炉を前に、ほくそ笑む。

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