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#10 求めるは二つ

「お父さん……? が、このダンジョンに……?」


 フレイマーはアウレリアの言葉に、尚も戸惑っていた。


「ええ、キルス・ブリューム。この世界に唯血巨人(ユニブラッドマトン)――正確には卵殻機関(インキュベータ)を生み出した人物。そして行方知れずになってもう十年以上経つわね……」

「あ! そういえばブリュームって……す、すみません失念してました……」


 フレイマーはしかし、はっとする。

 そう、アウレリアの父キルスは卵殻機関(インキュベータ)の開発者である。


 そのことはこの世界で知らぬ者はいない筈なのだが、フレイマーは自分でも訳は分からないながらも失念していた。


「いいえいいのよ……もう十年以上前のことだから。だけど私は忘れられなかった、だから……研究にかこつけてでも、私は父を見つけたかった!」

「ブリューム先生……」


 フレイマーはアウレリアの話を聞きつつ、前方に目を向ける。


 ボーン支団は尚も矢印形陣形を保ちながら進撃し続けている。


 そこに群がって来るは死地竜(デッドリーワーム)の大群だが、半ば勢いで支団はそれらが放つ熱線を唯血巨人搭載のフリージングレオ卵による冷気の壁で押し切り突破していく。


「……降ろして。」

「え?」


 が、アウレリアは不意に。

 フレイマーに対し、思いも寄らぬことを言い出した。


「私の案内が要らなくなった所で降ろして! ごめんなさい、結果的にはあなた方傭兵団を巻き込んでしまったけど……これは私の問題。だからもう、あなたたちには……」

「ブリューム先生……」


 アウレリアの言葉に、フレイマーは一瞬考え込む。

 そして。


「……駄目です。」

「……え?」

「ブリューム先生は、案内が済めば用済みになるようなものじゃないんです! いえ、ものではありません人です! だから……先生がやはりお父上を探されるとおっしゃるなら僕もあくまで付き合います!

 そう……求めるは二つですよ! 」

「ぼ、ボーンさん……」


 フレイマーはしかし、あくまでアウレリアを守ると主張する。


 と、その時だ。


「な!? こ、こいつらは」

「し、支団長!」

「! ど、どうした? ……! これは!」


 陣形の外側にいる兵らから声が上がり、フレイマーが見遣れば。


 先ほどの倍以上の数を誇るであろう、無数のモンスターの影が現れたのである。


 ◆◇


「こ、これって……新手の死地竜(デッドリーワーム)たち……?」

「いえ、こいつらはどうやら……唯血巨人(ユニブラッドマトン)のようです! それも、死地竜(デッドリーワーム)の卵を動力源とする……」

「! な、何ですって?」


 アウレリアは驚いていた。


 今しがた現れたは、死地竜(デッドリーワーム) の群れに見えたがさにあらず。


 フレイマーが言った通りそれは半竜半人型の巨人――唯血巨人(ユニブラッドマトン)の群れだった。


「ゆ、唯血巨人(ユニブラッドマトン)……? ど、どこの」

「何にせよ、どうやら先客がいたようです……味方、とするには難しい先客がね。これは、引き返すのが賢明そうですが。」


 陣形の外側からも、疑問の声が上がる。


「ううん……いや、どうやらそれも無理のようだ。奴さん方は、こっちの補給路と退路を断つつもりらしいよ。」

「! く……」


 しかしフレイマーは、周りを素早く見渡し皆に知らせる。


 今彼が言った通り、相手方の唯血巨人(ユニブラッドマトン)群は陣形の後ろに回り込んで来る。


「陣形を円形に! 補給路を敢えて断つことで地上に何かあったことを知らせよう、救援が来るまでは補給なしだが何とか持ち堪えてみせる!」

「り、了解!」


 フレイマーは素早く指揮する。


 その指示通り、補給路そのものともいえる綱は切られて弾性により地上へと巻戻されて行く。


「ぼ、ボーンさん!」

「ブリューム先生……ご安心ください、と言いたい所なのですが。ちょっと厳しそうではあります。……ですがご安心を、最後には先生だけはお助けします!」

「ボーンさん……」


 フレイマーは傍らのアウレリアにそう伝え。

 前方の敵部隊と、操縦盤にある搭載卵生命計(ライフメーター)の表示を見る。


 やはりジュラの事前の説明通り、このダンジョン内では生命計(ライフメーター)の減りが早い。


 卵の補給も受けられない今となっては、果たして持ち堪え切れるかどうか。


「し、支団長!」

「……陣形外側の騎体は出力を抑え、ひたすら防御に徹しよう!」

「は、はい!」


 しかしフレイマーは、即断を降す。

 この状況で取るべき手段は二つ。


 その一つが、消耗を抑え少しでも長期戦に耐えられるようにすること。


 フレイマーが陣形外側の騎体群に命じたのは、まさにその手段を取るようにすることである。


 だが。


「(長期戦では圧倒的にこちらが不利なのは言うまでもないな。なら……)」


 フレイマーは次に、自騎の後部に目を向ける。

 それは彼が、搭載されたモンスター卵の成長フェーズ限界引き上げの前兆としてやる癖である。


 そう、この状況で取るべき手段の残り一つは。


「……僕は搭載卵の成長フェーズを、限界まで引き上げる! そうして僕の騎体が敵部隊と交戦して時間を稼いでる間に、皆撤退を!」

「え……し、支団長!」

「ぼ、ボーンさん!?」


 いつも通りというべきか、また卵を孵すことだった。


「ああ心配なさらずとも、ブリューム先生は部下の騎体にすぐ乗ってもらいますから!」

「いやそういう問題じゃ……あなたはどうするの!?」

「ああ、まあ僕は……傭兵で、それも支団長ですから!」

「いや、だからそういう問題じゃ……」


 あくまでアウレリアはフレイマーの身を案じているのだが、フレイマーはわざとかズレた回答を返して来る。


「さあて……悪いけど、ブリューム先生を」

「待って! ……ボーンさん!」

「! ぶ、ブリューム先生!?」


 そのままアウレリアを部下の騎体に預けようとするが。


 アウレリアはフレイマーにしがみつき離れず。

 フレイマーもそこまで女性慣れしていないこともあり慌てる。


「何してるんですか! 早く他の騎体に」

「いいえ! 私はこの騎体にいます。人が助かるまいとしているのに、放ってはおけません!」

「ブリューム先生……」


 アウレリアは断固としてその場を動こうとしない。


 まさに戦いの素人の浅知恵とも言えるものではあるが、同時に純粋な思いやりでもある。


「……ありがとうございます、僕たち傭兵は死ぬこと前提で戦わされることも多いですからそう言ってもらえて嬉しいです!」

「! ボーンさん……」


 フレイマーは純粋な喜びに顔を綻ばせる。

 年齢の割には子供のようなその笑顔に、アウレリアは少しドキリとする。


「……ボーン支団、総員撤退開始! 大丈夫、殿は僕――と、ブリューム先生が引き受けるから!」

「!? し、支団長!?」


 フレイマーは支団員全てにそう告げる。

 そうしてそのまま手をかけるのは、成長ボリュームのレバー。


 ―― いいか、もう聞き飽きたと思うが……金は返しても、卵は孵すなよ!


「……今回はおやっさん、関係ないけどいつもこうする時は思い出しちゃうよ。でもごめん! また……約束、守れそうにない!」


 一瞬は迷うが。

 結局、限界まで引き上げる。


 このままでは再び、卵が孵ってしまうが。


「なあに、ここでは卵がすぐ使い潰されちゃうと聞いた時から考えてたことさ……そんな卵はかわいそうだって! だから……せめて、生まれさせてあげたいって!」

「ボーンさん……」


 むしろフレイマーは、晴れ晴れとした顔である。


 ◆◇


「……おもてなしに、感謝いたします。」

「いいんだよ、こんなかわいいお嬢さんを野垂れ死にさせる訳にはいかないからねえ。」


 その頃、ボーン家では。


 付近で倒れていたヴーレへ王国王女・エレナを、フレイマー母が介抱していた。


「いえそんな……」


 エレナは顔を赤らめている。


「キュー! あの時の王女様にフレイマーママがメロメロだキュー……」


 母屋の外では。

 そんな、エレナに掛かりきりなフレイマー母にリシリーは膨れており。


 気を紛らわせる目的もあって、ペットたちと戯れていた。


「! ぐるっ!」

「キュー? どうしたんだキュー、ワシジたち。」


 その時ペットたちがふと、揃って同じ方向を向き始めた。


「キュー……もしかして、フレイマーに何かあったキュー?」


 リシリーはふと合点する。

 やはりこの子たちが騒ぐ理由は、それかと。


 ◆◇


「さあて……実験の首尾は上々ですねえ。ここでも付き合ってもらいますよ、フレイマー・ボーン……」


 そんな危険ダンジョンの外側にいるは。

 やはり、あのフードの商人だった。

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