第5話
放課後
幸雄と晴明と三人で商店街を回ってる。
「お、これ新刊が出たのか」
本屋の前を通っていると、幸雄が声を出した。
「なになに?」
「マンガか?」
「おうよ。ラブコメのものなんだが、結構面白いぞ。特に妹のキャラがかわいいぜ」
「お前、そういうの好きだな」
「うちは男性家庭だからな。女性は母しかねぇ。やっぱ女兄弟は憧れるな」
「でも、こういうジャンルの妹キャラって、兄弟愛以上の感情を持ってることが多いな。なんでだろう。可愛く感じるより切なさが勝るんだけど」
「さあ。でもこのマンガの妹キャラはあくまで妹ポジだな。主人公をサポートしてるし、主人公も妹が困ったら助ける。実に関係のいい兄弟の絵面だ」
「………なあ幸雄、それの一巻のを借りていいか?」
「お、剛志も呼んで見る?いいぜ。明日持ってく」
「サンキュ」
叔母と甥と言っても、やっぱり俺とチビの実際の関係は兄弟に近いだろう。幸雄もそう言っていたし、ちょっとこのマンガを参考にしてみるか。恵美は、やっぱまだ難しいな。同年代だし、まずは普通な友達の仲になってみよう。
「妹の何がいいか俺には分かんねぇな」
「そう言えば、晴明はリアル妹がいたっけ」
「リアル言うなや。ま、二次元の妹と区別するために言うなら確かにそうだが」
「やっぱ仲悪い?」
「どうだろな。お互いのことを無関心だと言う方がじっくり来るな。あまりお互いの生活のことを話し合っていない」
「同じ家に住んでるのに?」
「幸雄、お前に兄貴がいるんだよな。その兄貴と必要以上な会話をするのか?」
「一緒に遊んでるとか、興味のあることについてとか時々話してるが、確かにお互いの生活についてそんなに話してないな。なるほど、そういうことか」
「そう。同性の兄弟でもそうだから、異性の兄弟はもっと気をつけなければなんねぇところが多い。それを頭に入れる方がいいぞ、剛志」
「バレたか」
「お前、滅多にこんなジャンルを読んでねぇからな。そして、多少お前の家庭事情も知ってた。推理すんのにそう難しくない」
「そっか。昨日尊さんの再婚相手が来てたんだっけ。んで、お前の新しい妹は何歳?」
「同年代と十二歳。どっちも女性」
「いきなり二人もか」
「そしてどっちも年頃な女の子。なんつうか、ご愁傷様」
ダチ二人に同情された。確かに思春期でウブな男子高校生には激しい環境変化だな。その同年代が、実は新しい母ちゃんでなければ。
「んなことより、買うのかあれ?」
「そうだな。剛志も興味を持ったし買うか。ちょっと待ってて」
そう言って幸雄はレジに向かった。俺と晴明は待ちながら本屋の中を見て回ってる。
「これは噂をすればってやつか」
「晴明、どうした?」
フラフラしてるうちに、晴明が急に止まって呟いた。視線の先は一人の少女が立っていた。少女もこちらに気づいて近づいて来る。
「兄ちゃん」
「おう。と、俺の友達だ」
「どうも、影山千明です。よろしくお願いします」
「これは、ご丁寧に。前田剛志だ。よろしく」
やっぱ晴明の妹か。にしても、
「似てねぇな」
「よく言われる。ま、異性だし似てたらそれはそれで何か嫌で、仕方ねぇんだけど。ところで千明、一人か?」
「いいえ、友達と一緒。多分、そこら辺にいると思う、と噂をすれば」
「千明ちゃん、お待たせ。探した本を見つかりました」
千明ちゃんの友達であろう小さい少女がこちらに駆けてきた。なんつうか、世間が以外と狭いってのはこういうことだな。言うまでもなくその友達がチビであった。俺はすぐさま知らんぷりして、チビもすぐに対応してくれた。マジでチビのくせに察しがいいすぎだろとも思ったが、まあとりあえず今は堪えよう。
「よ、昨日ぶりだな、チビ」
「あれ、ロリコンさん?なんでここに?」
「んや、ダチと遊びに来ただけだが。お前こそ何してたんだ?後、俺はロリコンじゃねぇ」
「友達と参考本を探していました。今見つかったので支払いにいくところでした。それと、私はチビじゃありません」
「知り合いか、剛志?」
「ああ、ちょっとな」
「そちらの方に昨日、捜し物を手伝ってくれました。態度は少々失礼ですが、まあ手伝ってくれたことに関しては感謝してます」
「なるほど。それにしても、チビ、ですか。確かにびわちゃんに似合うあだ名ですね。プフッ」
「ちょっと、千明ちゃんまで!今笑ったでしょう!」
「笑って、ない、かわ、いいと、おもうよ」
「腹を押さえながら言われても説得力ないんですけど!」
からかわれるチビ。何だ、ちゃんと友達がいんのか。
関心してみてると、幸雄がもどってきた。
「剛志、清明、お待たせ。あれ、何でチビがいんの?」
「偶然に会った。そしてなんと、チビが晴明の妹の友達らしい」
「へえ、そりゃまた奇妙な偶然だな」
千明ちゃんとチビは改めて挨拶して、俺とチビは二度目の自己紹介をした。いや、今思えば昨日はお互い自己紹介してなかったな。店の中に五人も立てて邪魔なんで、チビにも支払いさせてさっさと店を出た。
「そう言えば、剛志、お前ロリコンだったのか?」
「だから違ぇって言ったろが。後真顔で言うんじゃねぇ。周りに誤解されたらどうすんだよ」
「いや、流石に事実だったら妹に近づかないでほしいというかなんと言うか」
「お前、さっきの言葉と反して妹を大事にしてるんじゃねえか」
「だ、誰が千明のためだといったんだよ。ただ、何かあったら面倒事になるから。それ以外の理由がないから。勘違いするんじゃねぇぞ」
「ツンデレシスコンとかあり得ねぇ」
「流石に引くわ...」
俺たちのそんなじゃれあいをチビたちが見ていた。
「......相変わらずバカやってるね、兄ちゃんたち」
「いつもこうなの、千明ちゃん?」
「うん。今の二人は今日始めて会ったけど、兄ちゃんはいつも友達とバカなことやってる。私が言うのもあれなんですが、子供っぽいなバカなこと」
「そうか」
「ん?どうしたんだ、千明?」
「いいえ。私たちはそろそろこれで」
「そうですね。では、またねロリコンさんとそのお友達さん」
「だ~か~ら~、ロリコン違ッ、てああああ!」
「え、いきなりどうしたんですか?」
ロリコンのことで思い出した。ハナセンセーのお見合いの相手のことだ。
「いやすまぬ。用事思い出した。幸雄、晴明、俺唐沢さんのとこ行ってくるわ」
「ちょっと待って、唐沢さんのところだと?」
「だったら俺たちも行くわ」
「え、何?唐沢さんって誰?」
「俺が唐沢さんだが」
「え?きゃああああああ!?」
チビと千明ちゃんの後ろに征服姿の強面男が自転車を支えて立っていた。
「って、お巡りさん!?」
「唐沢さん、いいところにきたっす」
「前田たちか。どうした?また面倒事に巻き込まれたのか?」
「ロリコンさんたち、警察の人と知り合いですか?」
「待て待て待て!!唐沢さんの前にその呼び方やめろ!!!」
「なるほど。自首に来るのか、前田?」
「誤解っす!!今のはただのじゃれあいなんで、勘弁して下せええ!!」
俺は全力で唐沢さんを説得した。マジで洒落になんねぇぞ、おい!ロリコンは俺の他にいるんだよ!例えば家にいるやつ!!
「わかったわかった。ま、お前がどんな性癖を持ってもそれを堪えることができると俺は信じるぞ」
「だから違いますって...ま、信頼されるのうれしいけど」
「それで良いんですか!?」
チョロイとか言うんじゃねぇぞ、チビ。唐沢さんの信頼はそんな安いモンじゃねぇぞ。ほら見ろ。幸雄と晴明が羨ましがってるぞ。へへ。
「バカっぽい」
千明ちゃんがどっかの明星の魔道師少女の言葉を発した。すいやせん。
「いや、そうじゃなくて。唐沢さん、報告したいことかあるっす。これ、学校のセンセーから聞いた話だけど……」
俺はその場でハナセンセーのお見合い相手のことを話した。帰る前にバッチリ名前も聞いたんでそれも唐沢さんに教えた。
「なるほど、確かに監視が必要かもしれんな。分かった。隣街の交番に連絡する。情報ありがとうな」
「いいえ、善良な市民として当然なことっす!」
俺は敬礼しながら答えた。チビが、誰だよあんた?みたいな目で俺をじっと見てた。唐沢さんの前だから仕方ねぇだろ。
「嬢ちゃんたちも気をつけてな。知らない人についていくなよ」
「「は〜い」」
「お前たちも寄り道はほどほどにな」
「「「うぃーす」」」
「それと、お前らんとこの生徒会に言っとけ。人助けはいいが、学生の本務を忘れないようにな」
「言うだけ言ってみます」
「正直俺らの言葉だけで止めたりはしないと思うっすよ」
「ま、フォローはするんで」
「それで頼む。ではな」
「「「お努め、お疲れさまです!!!」」」
唐沢さんは自転車を乗って見回りを続けた。俺と幸雄と晴明は彼が見えなくなるまでお辞儀し続けた。
「いや、本当に何者ですか、その唐沢さんって?そんなにすごい人ですか?」
「何言ってんだよチビ。唐沢さんは唐沢さんなんだぞ」
「ごめんなさい。意味分かりません」
唐沢さんは男子高校生に尊敬される存在です。それ以上でも以下でもありません。