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第3話

「とりあえず、最初からだ。最初から順番に話してくれ、親父」

「了解。最初ね。そう、最初は九年前ーー」


その言葉で俺はすスマホを取って番号を入力して電話をかける。


「あ、もしもし。警察ですか。今目の前にロリコンがいるんですけど……」

「待て待て待て待て待て!!!通報しないで!!話を聞いて!!やましいことはないから!!!」

「そ、そうです、剛志くん!!私たちは純粋な気持ちで結ばれてプラトニックな関係で付き合ってます!!けしてやましいことはしていません!!」

「お姉ちゃん、尊さん、落ち着いて。それ、やましいことをしている人の言い訳ですから。それとアンタ、現実逃避したい気持ちは分かりますがいちいちボケしない。話が進めませんから」

「…チッ、わぁったよ」


納得出来ずにいても俺はスマホを締めた。俺を見た親父は「何でびわちゃんの言うことを素直に聞いて僕はしかとされるの…」と文句を言ったが、この親父、自分の今の立場を分かってねぇのか?あぁ?


「言っておきますが、私の対しての先程の行動、アンタを堪えることも出来ますからね」

「さぁせん」

「というわけで、尊さん、話の続きをどうぞ」

「ありがとう、びわちゃん」


そして親父は安立姉妹との出会いから今に至るまでの経緯を語ってくれた。


***


九年前、安立家は事故に遭った。両親は死亡、娘の二人は傷を負ったが二人共命は助かった。

しかし、事故のショックで姉は心を閉ざし、妹は記憶を失った。元々子供でまだ物心がまだついていなかったが、事故の後両親のことを完全に忘れてしまってた。幸い、姉のことは覚えたがその姉が妹に対しても心を閉ざしていた。

その時に彼女を助けにやって来たのは親父だった。親父は児童精神科の医師で、彼女たちのメンタルケアをしていた。最初は困難だったが、親父の動力で姉の心が少しずつ開いて行き、姉妹の関係が修復ことが出来た。そして事故から一ヶ月、姉、安立恵美は通ってた小学校に復帰することが出来た。

その時点で、親父の仕事が終わったはずだが、そのまま当局に任せたら姉妹はバラバラになる。それを防ぐために親父は姉妹の保護権利を得て知り合いの施設に二人を暮らせてもらっていた。そう、親父は二人の恩人だった。

施設に暮らしたいた時、親父は最低でも一週間に一回姉妹の様子を見に施設に通っていた。二人はすっかり親父に寄り添っていた。特には姉の方は、子供心でありながらも、親父を好んでいた。


そして二年後、母ちゃんが亡くなった。その当時、息子の俺から見ても親父は虚ろと見えた。大切な人をなくした親父の気持ち、子供の俺は理解出来なかった。そんな親父が施設への訪問は止めてなかった。その時に安立姉は親父の異変を気づいて励ました。親父か安立姉妹を救ったように、安立姉は親父を救った。そのおかげで、親父が調子を取り戻しことが出来て、今まで俺との二人生活を上手くすることが出来た。

月日は流れて、安立姉が高校に入った時親父に自分の気持ちを告った。親父自信も、救ってもらったときから安立のことを他の子供と別で大切だと思っていた。二人は本当の家族になろうと決めた。


***


「そして、今年の二月、恵美が16歳になった時に手続きをして僕たちは再婚した。施設も学校のこともあってすべての関係者に話した後恵美が二年生に上がった後にこちらに引っ越しするに決まった。はい、これで僕の話が終わった」


そう言っていた親父の横に俺は、話のスタートから数えると五本目のジュースを一気に飲んだ。


「ぷわ〜」

「剛志、聞いてる?」

「聞いてる聞いてる。悪ぃがこんな重い話、呑みながらじゃねぇと耐えられんわ」

「それジュースだよね?アルコールではないよね?」


そうだけど、アルコール呑めたらよかったのにな。ったく。


「にしても、俺がバカをやらかしていた時になんつう人生を歩んできたんだよ、親父」

「……ごめんね」

「何でだ?」

「今まで剛志に話していなかった。剛志を信じていなかった訳でもなかったが、それでも……」

「そりゃ仕方ねぇだろ。俺もガキだったし。話してくれても何が出来るなどたかが知れてる」

「剛志……」

「ただ、これだけを答えてくれ。親父、本気だな?」

「……うん。前々から恵美とびわちゃんの幸せを望んている。自分の手で幸せにしてあげられるのなら、その道を僕は選ぶ。いや、もう選んだのだ」

「尊さん……」

「安立」

「は、はい!」

「親父と生きていく道はけして楽じゃねぇ。世間の目はもちろん、これからも色々な困難が待ち受けてるだろう。それでもお前は親父と一緒にいたいのか?」

「……はい。尊さんと一緒なら大丈夫。とは言えませんが、覚悟は出来ています。世間になんと言われようと、どんなに辛いことが起きようと、私は尊さんの側に尊さんを支えます」


これで二人の答えを聞いたな。俺はチビに視線を向ける。あいつは話の最初からずっと俺のことを見てた。俺の反応を伺ってたのだろう。つまり、こいつの答えはもう聞くまでもねぇ。ったく、これだから察しのいい娘は。


「分かった。お前たちがそう決めたなら俺は何も言わねぇ。ほぼ部外者だしな。お前たちがどんな気持ちで決断を出したのは俺には分かんねぇ」

「剛志……」

「剛志くん……」

「おい、アンタ、」

「だから、今俺がやれることはお前たちを受け入れることだけだ。そして、これからは家族として支え合おうぜ。言っとくが家族相手だと俺は遠慮なしだぞ。それで構わねえのなら、これからもよろしくな」


俺の言葉に皆ポカンとした。おいおい、チビまでなんだそのヅラは。これじゃ俺の方が恥ずかしいじゃねぇか。誰か早く何か言ってくれ。俺の願いを叶えたように安立姉が席から立って俺に向かってお辞儀した。


「こちらこそ!剛志くんにいい母親になれるように頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!!」

「いや、母親のくだりはいいから。さすがに同年代の女子を母親だと思えないわ。家計図の上では確かにそうなるが、とにかくあだーー恵美は親父のことを頼む。ま、恵美に何か頼みたいことがあればそのときに頼っちゃうから恵美も遠慮なしで頼む」

「はい!!」

「剛志、ありがとう」

「おう。これからは、親父がしっかりな」


親父と恵美は俺の祝福?の言葉でお互い笑い合っていた。家族でいられるように俺が最後の壁だったんだろ。これで、俺たち前田親子と安立姉妹は全員の合意で家族になった。チラッと隣を見てるとチビもホットしていた。 


***


話が終わって俺と安立姉妹は彼女たちの寝所を準備していた。この家に空き部屋は一つしかない。書類上、親父と恵美が結婚してもさすがに同じ部屋にするのがまずいので姉妹二人は同じ部屋に寝ることになった。

っていうか同級生が親父と同じ部屋で寝るの俺の精神が耐えられんわ。そういえば親父のやつ、もう手を出したのかな...やだ、知るのが怖い。

姉妹が持っていたのはただの着替えや私生活に最低限の必要なもので、残りの持ち物は後日施設から送ってもらうことになったらしい。

準備してる途中、ふと恵美が声をかけた。


「しかし、剛志くん凄いですね」

「何が?」

「最初にこの家で会ったときすぐ私をわかったでしょう。ほら私、学校にいるときの印象が違うから」

「あああ、それか。別にたいしたモンじゃねえよ」

「ううん。だって今まで学校の人が私を気づいたのは剛志くん含めて二人だけですよ。街でこんな姿で歩いているときに何度かいくつかのクラスメートとすれ違うことがあったのに」

「へえ。ちなみにもう一人は?」

「剛志くんの知っている人だよ。クラスメートの高村くん」

「幸雄か。あいつああ見えて結構周りを見てるからな。それにあいつ、恵美のことがす...す...」

「剛志くん?」

「スタンドアップ・ザ・ヴァンガード!!!」

「剛志くん!?」

「コラ!!何カードファイト始めてるんですか!!って、スタンドアップと言ったくせに何で転がってんだよアンタ!?」

「大丈夫。プレヤー()が座っても寝てても、俺のヴァンガード(分身)はちゃんと立てるから。彼に任せば万事オーケーだから。っていうか、俺が代わりに惑星クレイで戦うから、地球で俺を代わって学校行ってほしい」

「はぁ?この私がそれを許すと思うのですか?バカ言わないでさっさと仕事しなさい」

「イエスマム」

「二人共本当に仲がいいですね。何かわからないけど息ぴったり」


バカをやってる俺、それを叱るチビ、恵美はそんな俺たちを温かい目で見てた。だが俺らそれどころではなかった。

やべえええええ!!!完全に忘れとったあああああああ!!

恵美は幸雄が惚れた相手だ。そしてその恵美が俺の親父の再婚相手で俺の新しい母ちゃん。つまり、幸雄の想いは届かぬ。

でもどうやってそれを本人に伝えればいいんだ!?テメェの好きな女は俺の新しい母ちゃんだ。手出しちゃあ、テメェを海の奥底に捨てるからな。なんて言えるか!!コンチクショウ!!!つうか何で俺がこんなことで悩まなければなんねぇんだ!?


「アンタさっきからブツブツ言ってるけどやめてくれません?マジで怖い」

「ハイ、ダマッテサギョウシマス」


***


「ちょっとランニング行ってくる」


幼馴染の悲しい事実(本人知らず)を発覚した俺はとりあえず頭を冷やすためにランニングしながら夜の風に当たることにする。

五キロ走ったらようやく頭を落ち着かせることが出来た。

少し休もう。そう思った俺は人知れずの道の端に腰を下ろした。誰もいない道だと思ったが誰かが俺に近づいてきた。クラスメートの晴明だ。あいつが俺にジュースを差し出した。


「今日誘いを断ったお詫びだ」

「サンキュ。今バイトから帰ったのか?」

「店に歓迎会があってさ」

「大変だったな。お疲れさん」

「おう」


晴明は座ったまま俺の隣に壁に背中をつけていた。俺たちは軽くジュース缶をあたって乾杯して飲んだ。グッドタイミングに来てくれたし、相談に乗ってもらおう。


「今日さ、幸雄から好きな女の子を教えてもらったんだけど」

「今日ってことは同じクラスの子か」

「ああ。名前は幸雄に聞いてくれ」

「分かった」

「それでさ、放課後、幸雄と別れた後俺見たんだ。幸雄の惚れた娘がもう他のヤツと出来上がってんだ」

「え、確信は...?」

「間違いねえ」

「マジか...どうするつもり?」

「分かんねえから頭を整理するのにランニングしてた」

「そっか。ちなみに、相手は学校の人か?」

「いや、年上の人だ」

「...健全なのか?」

「...見た限りやましいことはないと思う」

「それが難しいんだけどな。相手が外道だったらぶっ飛ばすことができるが、学校の外の年上の善良な人だったらかなりキツイぜ。俺のお勧めは幸雄アイツが振られるのを待つことだ」

「やっぱそうだよな~」


相手が知らず野人だったらそれで終わりだが、親父だしな。余計な罪悪感が沸いてきたぜ。やっぱあの親父、いっぺんぶちのめすか。そうと決めればそろそろ帰ろう。立ち上がりながら、晴明に別れを告げる。


「そんじゃ。相談に乗ってくれてあんがとうよ。少し楽になった」

「安い御用さ。っと、最後にこれを持ってけ。来るべき時にアイツを導いてくれるだろう」

「これは...!へ、恩に着るぜ」


***


帰り道、チビが俺を待ち伏せていた。


「お前、子供が外に歩く時間じゃねえぞ」

「子供じゃない。アンタの叔母です」

「家系図の上だろう」


呆れたな。とりあえず、家につれて帰ろう。


「んで、何か話したいことがあんだろう」

「...別に、大したことではないですけど...」

「親父と恵美の関係なら心配ない。俺が悩んでランニングに出て行ったのはまた別の問題だ」

「え、そうなんですか?」

「おうよ」

「それじゃ...なんで悩んでるのか聞いても?」

「いいが、お前らの悩みに比べてすんげえくだらないことだぞ」

「いいです。知りたいから」

「…!」


これはグッと来たな。思わず視線をそらしてしまう。こいつはそれを見逃すはずがなかったのに。


「もしかして、照れてます?」

「まあ、な。この感じ、久しぶりだからな。今まで男性社会で生きてきたからな。童貞だし」

「一言多い」

「事実を言っただけだ」

「真顔で言わない。まったく、何で少しは真面目になれないの?」

「性格?」

「こっちが聞いてますけど。もういいや。それで、何で悩んでました?」

「ダチが失恋することを分かってどう励ますか悩んでた」

「ごめん。アンタの状況を知ってる人間としてそのお友達さんが好きなのはお姉ちゃんだということがバレバレですけど。もしかして、公園で会ったロリコンさんのお友達さん?」

「違わないけど違うわ。俺ロリコンじゃねぇ」

「へえ、お姉ちゃん以外とモテてますね。それにしても、何ていうか、高校生らしい悩みですね」

「無視かい。ま、確かにお前の甥は思春期中の高校二年生だぜ、チビオバちゃん」

「何か悪意しかない呼び方」

「まさか。愛たっぷりだぜ」

「はいはい。それで、ランニングしたら何かわかった?」

「ランニング自体は何も効果ねぇが、おかげで答えを持つ人と出会った。やっば持つべきものはダチ公だぜ」

「……なるほどね」

「何が?」

「いいえ、こちらの話」

「よく分からんが、そんじゃ今度は俺からいいか?」

「はい、どうぞ」


俺は歩むを止めて、チビに頭を下げた。


「親父を助けてくれてありがとう」

「え、」

「俺は母ちゃんが亡くなった時に親父のために何も出来なかった。だから、お前と恵美が親父の側にいてくれて本当に感謝してる」

「……別に、ほとんどお姉ちゃんがやっていましたから」

「ああ。後に恵美にも言う」

「うん」


俺たちはまた歩きを続けた。


「それにしても、お前らは凄いな。親父の助けがあったが事故のことを乗り越えることが出来て、そしてその助けの恩を返すように親父を助けた。なかなか出来ないモンだぜ」

「ですから、それはお姉ちゃん。それに、事故のことは私は忘れてしまったからお姉ちゃん程辛くなかった」

「そうだな。だがお前は両親のことを忘れてもその事実から逃げず姉ちゃんの悲しさを一緒に背負った。だから、」


俺は言葉を切ってチビの頭を乱暴に撫でた。


「ちょ、いきなり何をするんですか!?」

「げっハッハ。やっと上を向いたな」

「え?」

「じゃ、早く帰ろうぜ。もう夜が遅い」


だからお前はそう自分自身を詰め込むなよ。なんて言葉にしても素直には頷かねぇだろ、お前は。だが、それでも俺はお前を支える。そう決めた。

チビの前に歩くとふいに背後から声をかけられた。


「アンタは?」

「ん?」

「アンタは、真由美さんが亡くなった時、どうしてたんですか?どうやって乗り越えたんですか?」

「……さあね」

「ちょっと。真面目に聞いてますよ」

「悪い。ただ、そんなに覚えてねぇんだ。どうやって乗り越えたか。そもそも乗り越えたって言っていいのか」

「どういうこと?」


俺はチビの質問を答える前に、今までのことを思い出しながら夜空を見上げた。そして、笑みを浮かべながら軽い言葉で言う。


「俺はその時でも楽しいことをいっぱいやっていていつの間にか悲しい気持ちが飛んでしまったんだよな〜」

「え?」


チビは信じられないものを見るような目で俺を見てた。ああ〜、薄情だと思われたかな〜。事実だから仕方ねぇんだけど。ま、変な期待されてるより、言葉でもはっきりするか。

俺は少しだけ身体を後ろに向かせ、首を曲げてチビの方に見る。


「ほら俺、不真面目だからさ」

「………」


そんな俺の言葉をチビは否定していなかった。

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